「解放」-1

4月23日(月) 晴れ
私が目を覚ました時、いかつい顔をした老人が私の顔を覗き込んでいました。
それが実の父の顔であることを思い出すのにはさほど時間はかかりませんでした。
どれだけ老けても忘れることはできません。
父の様子は明らかに変でした。首に手を当てて恐れるような目で私を見ます。
私と目が合うと驚いたような顔をして、逃げるように部屋から出ていってしまいました。
目が覚めたばかりの私にはなぜそんなことをしたのかわかりませんでした。
それどころか自分が今どこにいるのか、何をしてたのかさえもわからない状態です。
ただ、とても深い眠りについていたのだとは感じていました。
布団から上半身だけ起こして額を押さえていると母がやってきました。
母も老けていたけど、顔を忘れることはありません。
「亜佐美、目が覚めたの?昨日のことは覚えてる?」
昨日のこと・・・?私は考えを巡らせましたがまだ頭がぼやけてて何も思い出せませんでした。
「覚えてない」と答えると母は「そう。ならいいわ」と言って父と同じようにすぐに部屋から出ていってしまいました。
一人になった私は再び布団に身体を横たえ、状況を把握するためにしばらく考え込みました。
頭がハッキリしていくにつれ、色々な場面の記憶が花火の様にパッと光って現れてきました。
いくつもの花火が上がり、それらを繋げてみると徐々に失っていた記憶が戻ってきました。
しかしどの記憶も私が家族を失った瞬間ばかりのものです。
亮平。亮平が手を振って私を見送っている。
早紀。私の腕の中で静かに眠ってる。
そして私の兄にして夫。健史さん。やせ細り、とても悲しい顔をして・・・なぜか私は怖がってる。
思い出しました。これまでどんな状況だったのか。
私は、狂ってた。

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