「解放」-3

4月25日(水) 雨
母は変わらずにご飯を届けてくれます。私は何も言わずに平らげました。
しばらくはこのままギクシャクとしか状態が続くでしょう。あんなことがあった後では仕方有りません。
彼が父の首を絞めたのはもう思い出してます。そして目覚めた母に止められたことも。
その時にはもう彼は消えていました。私の目は覚めてたけど身体を動かすことまではできなかった。
部屋に連れ戻され、再び眠りについた。次の日の朝に本格的に目が覚めたんです。
彼が父の首を絞めた理由は実によくわかります。私の中の憎しみが彼を産み出したんでしょう。
それはわかってるんですが、まだ釈然としないものがあります。
タケシ君。あの人は一体なんだったのか。
重大なことを忘れてる。もう少しで思い出せそうなのに、喉元で止まってしまいます。
ここ数ヶ月のことをゆっくり思い出してみました。
彼が最初に目が覚めた時は、まだ彼自身も完全に形作られてはいなかった。
その証拠にタケシ君はまだ中学生の制服を着ていました。
一度高熱にうなされて、そこから目が覚めた時にやっと私の身代わりとなった。
彼を作り上げた時のことは漠然と覚えています。それはあのタケシ君が言ったとおりでした。
あの人のようになりたい。ただそう思っただけです。
当時の健史さんは両親の私に対する虐待には気付いてませんでしたが
私が何かおかしくなってることには気にかけてくれてました。
私は本当のことが言えずに黙ってただけでしたが、気遣ってくれるその優しさには憧れを感じていました。
何も知らないことがどれだけうらやましかったか。
そうして自分の変化に目をそらし続けてるうちに私は奥に閉じこもってしまったのでした。
あとには憧れてた人をコピーしたものを残して。
・・少しおかしい気がします。
私は一体いつのことを思い出してるんでしょう?
それに、あの人が変わったきっかけが何だったのかも気になります。
両親が話すとも思えません。私は自分のことを絶対話さなかった。
ならどうやって私が虐待を受けてたことを知ったのか?
いや、本当に私は話さなかった?どこかで話した記憶も・・
ああ。思い出せそうなのに思い出せません。
私の身代わりとタケシ君の噛み合わない会話。
その中に答えがある。それはしっかりと感じるのに。
私が正気に戻らざるを得なかった理由も。なぜ会話が噛み合ってなかったのかも。
全てを説明できる明確な答えがあるのに。
この身体に、何かが。

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