第七週 「思考」

2月19日(月) ハレ
おじいさんとおばあさんの会話を聞いたりしてボクに繋がる材料は無いか探しました。
二人の喧嘩も初めてじっくり聞くことができました。「連れ戻すんじゃなかった」「あんたがアサミに会いたいって言うから」
「まさか狂ってるとは思わなかった」「何度愚痴を言えば気が済むの」「黙れ」「ほっとけば良かったのに」「お前だってアサミに」・・
ボクが畳に座って聞き耳を立ててるのもお構いなしに二人は言い争いを続けます。
ずっと聞いてるとさすがにうるさかったです。

2月20日(火) クモリ
外にも出ようとしたらものすごく怖くなって足ががくがく震えて気持ち悪くなってうずくまってしまいました。
おばあさんに引っ張られて部屋に戻されてしまいましたけど部屋に戻ると安心した気分になりました。
タケシ君に「大丈夫か」と聞かれたのであまり大丈夫じゃないと答えたら「無理しない方がいい」と言われました。
「そのまま大人しくしてればあの地獄に戻らなくて済む。少なくとも今は。」
地獄?

2月21日(水) ハレ
やっぱりタケシ君はボクの過去を知ってるようです。でも教えてくれないのはケチだからだと思います。
地獄に戻らなくて済むっていうのが昨日から気にかかってたので聞いてみたら逆に質問されてしまいました。
「自分の状態がおかしいと思うか?」思うと答えました。タケシ君は本をパタンと閉じて続けました。
「奴らはおかしくなった君を他人に見られたくないんだ。だから外に出なくて済む。」
その言葉の意味を考えようとしたけどよくわかりませんでした。
とにかく家に居ろってことでしょうか。

2月22日(木) ハレ
何かヒントがないか部屋の中を引っかき回してたらタケシ君に止められました。「またあいつに殴られるぞ」
タケシ君は色々知ってるくせに何も教えてくれないから仕方なく自分でなんとかしようとしてるんだと反論しました。
ボクはもう耳も聞こえるし身体を見ることもできる。ヒントさえ見つかればボクだって自分のことがわかるんだ。
「わかった」とタケシ君が深く頷きました。「今度俺が最終的にどうすればいいのか教えてやるから。今は大人しくしてるんだ」
いつも「今度」で逃げられてしまうけどボクにはどうすることもできないので黙って待つしかありません。

2月23日(金) ハレ
タケシ君が教えてくれるのを今か今かと待ってみたけど考え込んだフリをしてなかなか教えてくれません。
しびれを切らして「なんでいっつも後で後でとか言って教えてくれないの?」と催促しました。
タケシ君は顔を上げてボクをまっすぐ見つめました。
「なぁ。俺はね。君に話す一言一言にすごく気を使ってるんだよ。何を、どう言えば効果的なのか。タイミングも。
 全部考えてる。だから時間がかかるんだ。俺だって悩んでるだ。だからもう少し待ってくれ。」
なんかうまく逃げられた気がするけど待つことにします。

2月24日(土) クモリ
もう待てないので何でもいいから言ってくれと叫びました。おじいさんに聞きつけられて「うるさい」とぶたれました。
殴られる時、タケシ君は歯を食いしばってものすごく悲しい顔をするけど助けてはくれません。
おじいさんが言ってしまうとタケシ君は観念したらしくため息をつきながら言いました。
「俺が最終的に何をしたいか。結論だけ言うときっと意味がわからないと思う。それでも聞きたいか?」
ボクはうなずきました。そしたら教えてくれました。
「この表現が正しいかわからないけど・・アサミを復活させたい。それが俺の望みなんだ。」
やっぱり意味不明でした。

2月25日(日) クモリ
ボクはボクなりに必死に考えたけど頭が痛くなるばかりで何もわかりません。
手でこめかみを押さえてうなってるとタケシ君がまた混乱させることを言いました。
「深く考えちゃいけない。君はそうゆう風にはできてないんだ」タケシ君は意味のわからないことばかり言ってボクをいじめる。
これはアサミさんの身体とかアサミさんの復活を願うとか。アサミさんのことはいい。ボクは、ボクのことを知りたいんだ!
ボクが叫ぶとタケシ君は渋い顔をしました。何かを言おうとしてるけど、言葉を吟味してるような。
気にしない。もうタケシ君には頼らないから。自分で考え、自分の力で答えを見つけます。
できるはずです。

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