絶望世界 エピローグ

エピローグ0


7/22(月) カウントダウン12
死んだ初日。とても不思議な気分。
兄に言われたとおり、私は死人としてピクリとも動かずにいる。
首を締められた後はまだ痛む。痛むということは生きてるということ。
私は死んだことになってなければならない。
息を潜め、首の痛みが引くのを待つ。


7/23(火) カウントダウン11
死人になるのは簡単。外に出なければいい。
空腹になればご飯を食べる。朝に親と顔を合わせればおはようと言う。
でも外界の人には私の生死はわからない。
私が外に出ない限り、私が生きてる証拠は無い。
兄があの人に「早紀は死んだ。」といえば、あの人の中では私は死んでることになる。
こうして生きてるのにも関わらず。


7/24(水) カウントダウン10
外で何が起きてるのか。兄が今何処で何をしてるのか。
想像を膨らましてみるものの現実感がまるでない。
兄とあの人とのつながりは私の許容範囲を越えていた。
ただ「そうなのか」と思うだけ。
それ以上は・・・


7/25(木) カウントダウン9
あの人に見つからなければ外に出てたって構わない。
外に出てみようか。話をしたい。せっかく知った真実を誰かと一緒に語りたい。
私は家を飛び出した。
田村さんの家へ直行した。図々しく上がりこむ。
田村さんは相変わらず呆けた顔をしていた。
私は構わず喋りかけた。
「ねぇ。田村さんが会ったのって牧原さんだったんでしょ?」
それから私は兄から聞いた話を延々と語り始めた。
田村さんは顔をしかめたり時々唸ったりもしていた。
話が尽きた頃には、顔を伏せて泣いていた。
私はその姿を後目に田村さんの家を後にした。


7/26(金) カウントダウン8
今日も外へ出た。細江さんのいる施設に行った。
相変わらずの門前払いで細江さんにはあわせてもらえなかった。
でも受付の人に伝言を頼んでおいた。
「細江さんに伝えてください。黒幕は牧原さんだったんだよって。
私達みんな、あの人の手の上で踊らされてたんだよって。」
受付の人は無表情なまま「はいわかりました。」と答えた。
真実が細江さんの耳に入るのを祈って、私はその場を去った。


7/27(土) カウントダウン7
板倉さんと岡部先生の引越し先はわからない。
私はまだ伝え足りなかった。もっと多くの人に、真実を。
かつて通った漫画喫茶に足を運んだ。
懐かしい掲示板の数々。まだ生きてるものもあれば消えてるのもある。
私は思いつく限りの掲示板に「真の処刑人は牧原公子だったよ!」と書き連ねた。
この意味がわかる人などもういないかもしれない。
それでも私は書き続けた。


7/28(日) カウントダウン6
兄の部屋に入った。きれいに片付いている。
兄のベッドに寝そべった。天井しか見えない。
兄が見ていた光景は見えなかった。
もう戻ってこない。恐らく、戻れない。
あの人はきっと、兄を離さない。

・・・助けよう。
それが私の使命だと思った。


エピローグ−1(最終週)