絶望の世界∀ −もうひとつの私日記−
第35週
6/4(月) 曇
下僕はなかなか図太い神経をしてます。
ちゃんと学校に来てる。虚ろな目をしてこっちを見てる。
私を刺す機会を伺ってるんだわ。来るなら来なさい。
警戒してたおかげで今日は襲ってきませんでした。
いつでもいいのに。
6/5(火) 雨
蛆虫が下僕を連れていきました。私の方をチラチラ見ながら。
なるほど。二人共ぐるだったのね。だからあんな生意気なこと言ったのね。
二人がかりなら私に勝てると思ったのね。
甘すぎるわ。
6/6(水) 雨
二人同時に襲ってきてもいいように迎撃体制も整えました。
雑誌を服の中に仕込んだからお腹を刺されても大丈夫。
文房具屋で分厚いカッターも買ってきました。ヘタなナイフよりよく切れそう。
申し分ありません。
6/7(木) 雨
せっかく準備をしたのに奴らはなかなかやってきません。
せせこましく外でなにやら話をしてるだけです。
私が近づくとわざとらしく奥へ引っ込んでいきます。
段々腹が立ってきました。
6/8(金) 曇
もう我慢できない。来ないならこっちからやってあげる。
ヘタに趣向を凝らすのはもうやめます。処刑人自ら処刑を決行。
あるべきスタイルに戻るだけ。
二人まとめて処刑します。
6/9(土) 晴
チキチキとカッターの刃を押し出す。下僕がその音に気付く。
他には誰もいない放課後の教室。下僕はごそごそとポケットからナイフを取り出す。
目は虚ろだけど口元は笑ってる。あの子はやる気でした。
スタスタを近づいていく。下僕は席を立った。私は手元にあった誰かの鞄を掴み、投げつけた。
一瞬ひるんだ下僕。そのスキに首をめがけてカッターを突き出しました。
絶望的な表情をする下僕の顔が忘れられません。
カッターは、彼女の首筋の1センチほど手前で止まってました。
蛆虫が普通に教室に入ってきました。私たちの様子を見て愕然としてました。
「やめて!」そう叫んで大急ぎで下僕を連れ去っていきました。
下僕の顔は固まったまま。私の腕も止まったまま。
黙って二人が消えるのを見つめてました。
6/10(日) 曇
ずっと自分の手を眺めてました。
なぜ昨日、この手は止まったんでしょう。
どうして殺すことを躊躇したんでしょう。あれだけ殺意を込めてたのに。
もう少し押し出すだけで、刺せたのに。私は処刑人なのに。
自分が見えない。
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