絶望世界 もうひとつの私日記

第40週


7/9(月) 晴
携帯電話をいじくりまわしても何もわかりませんでした。
説明書も何度も何度も読み返しました。
やっぱり自分が自分に送らない限り、あんなメールは届かない。
でも私は認めないわ。何か別の方法が有るはずよ。
探して。


7/10(火) 晴
落ち着いて考えてみればおかしなことばかりです。
本当に私が人殺しならこんな悠長なことしてられるわけない。
記憶が飛んでたとしても、みんなは処刑人の人格になってる私の姿を見てるはず。
処刑人の幻想の中にいた私でなく、リアルな人殺しをした処刑人を。
それこそすぐに警察沙汰だわ。
一人きりの時にしか出てこない人格?そんな都合のいいことで人を殺せるの?
あり得ないわ。


7/11(水) 晴
どうしても方法がわからない。
他人が私のアドレスを勝手に名乗って使ってるかと思ったけど
携帯じゃそんな設定できません。メールを送ったら絶対自分のアドレスが出る。
携帯じゃ無理。携帯じゃ・・・
パソコンは?


7/12(木) 曇
放課後パソコンルームで自分にメールを送ってみようと思いました。
けど一つ問題が。私はパソコンでのメールのやり方を知らない。
授業で習った時、私のパソコンは牧原さんたちに占領されてたから・・!
結局知らないまま過ごしてた。メールは携帯でできたから必要も無かった。
パソコンでメール。そこだわ。そこしか考える余地はない。
そうよ。パソコンを使えば何でもできるはずだわ。
他人のフリしてメールを送ることだって。
できるはず・・でも・・どうやって・・・・


7/13(金) 晴
パソコンの本を立ち読みしてきました。
そして、あっけないほど簡単にタネが分かってしまいました。
メールの初期設定。そこで自分のアドレスを入力する欄がある。
疑って見てたから気付いた。もしそこに他人のアドレスを入力したら?
なんてことない。そこになりすましたい人のアドレスを入れていまえばいいんだわ。
例えそれが、携帯電話のアドレスであっても・・!
なぜこんな簡単なことに気付かなかったんでしょう。
いや、気付くわけなかったかも。
学校のパソコンでは一般的に使われてるメールソフトは使えない。
漫画喫茶だって使えない。家にパソコンが無かったから。
個人的に使えるパソコンが無かったから。
貧乏な家庭を恨みました。


7/14(土) 晴
パソコンが無いから実際に検証することはできないけど
何冊も本を読んで確信できました。
ネットの裏技とかそんな本に「お手軽騙り法」としてしっかり紹介されてた。
ちょっと手を加えれば今回のケースになる。
私のアドレスを名乗り、私にメールを送る。
そうすると私はそのメールに返信しても自分に戻ってきてしまう。
相手のアドレスは私のアドレスなんだから。
MLで処刑人の熱が高まった時、見事なタイミングでそのメールが来た。
だから私は混乱してしまった。既に死んだ人に対する復讐の幻想に取り憑かれた。
けどもう大丈夫。踊らされてたことに気付いたから。
そう。私は間違いなく処刑人じゃない。
私は岩本早紀。ハンドルネームはsakky。
それ以外何者でも無い。


7/15(日) 〜
私はずっと誰かに振り回されていました。
そしてその「誰か」は実際に存在する。「処刑人」のようにネットだけの噂じゃない。
私にトラップメールを送った誰かが。
その人が牧原さん、岡部先生、板倉さんを殺したの?それは誰?何のために?
MLもやめてから随分時間が経ってしまいました
関わった人はもういません。今更何も調べることができない。
けど、それでもいいんじゃないでしょうか。私は処刑人でない。それはハッキリしてる。ならそれでいいじゃない。「処刑」をする必要が無いのなら、何もしなきゃいいのよ。
牧原さんたちはもう私をイジメてこない。
そうよ。考えてみれば、私はもう何かに追われることは無いんだわ。
「誰か」が張った罠も、私が気付いてしまえばそれで終わり。
処刑人の幻想に振り回さなければ、元の生活に戻れる。イジメ抜きの状態で!
ああ。そう思うと随分気が楽になりました。精神的な重みが一気に外れた。
もしかしたら「誰か」は私が探すのを期待してるのかもしれない。
残念ながら、そんなことはしません。する理由がありません。動きたくないんです。
罠を張った誰かさん。知ってた?私は元々そうゆう人間なのよ?
あっちから何かしてこないんだったら、放っておくのが一番楽。
なんだか今までの疲れがどっと出てきました。私は休む。誰も私に手を出さないで。
一人にして。思い出したわ。私は孤独が好きだったのよ。
それを誰かに荒らされて。けどもう大丈夫よね。
もう何も知らない。
・・・知りたくもない。


第3部<冤罪逃亡編>
 第1週