狭間の世界 −ボクの日記−
第四週「朝食」
1月29日(月) ハレ
タケシ君に色々聞きたいと思ったけどおじいさんとおばあさんがいる時は話してくれなくてもどかしいです。
二人きりになるタイミングを伺っては話しかけました。「ボクの体はどうなってるの?タケシ君はボクのことよく知ってるの?」
タケシ君はちょっと寂しそうな顔をして「俺から教えても意味が無い。自分で気づいてくれ。」と答えました。
そうは言ってもタケシ君は相変わらずボクの耳をふさぐしまた鏡の前にも立ったりします。
どうやって気づけばいいんでしょうか。
1月30日(火) ハレ
タケシ君に話しかけるタイミングは大体わかるようになりました。おじいさんとおばあさんに声が届かない所なら返事をしてくれます。
ボクのことについていくら考えてもわからないので教えて欲しいとタケシ君に催促しました。
しばらく考え込んだあと「全てが一気に解決する方法があるんだけど。」とつぶやきました。
そんな方法があるなだ是非教えて欲しいと言ったら「あまりオススメできない。」と言ってまた黙り込んでしまいました。
もどかしいです。
1月31日(水) クモリ
今日はタケシ君から話しかけてくれました。「ずっと考えてたんだ。」と前置きを置いて喋り始めました。
「君がそうなった原因を取り除けば、何もかもうまくいくと思うんだよ。」と。
原因。それは何?聞こうと思ったらタケシ君が話を続けたので大人しく聞いてることにしました。
「あの二人を殺すんだ。それができればきっと何もかも思い出すよ。」あの二人っておじいさんとおばあさん?二人を殺す?
意味がわかりません。
2月1日(木) アメ
ボクは何がなんだかわかりませんでしたがタケシ君は「殺さなきゃたぶん一生そのままだ。」とか言ってます。
あのおじいさんとおばあさんは悪い人なんでしょうか。それに、殺すって言ってもどうやって。
タケシ君は「寝込みを襲えば大丈夫。あいつらは死んで当然の奴らだから気兼ねする必要は無い。」ともう殺す気になってます。
二人はそんなことになってるのも知らずに相変わらず喧嘩ばっかりです。おじいさんはまだボクに物を投げつけたりします。
どうしよう。
2月2日(金) クモリ
おばあさんはボクの身の回りの世話をしてくれるけど顔をしかめながら嫌々やってるしおじいさんはボクを殴ります。
二人ともあまりいい人とは思えないのでかわいそうだけどボクが自分のことを知るために死んでもらうことにしました。
タケシ君に言うと「善は急げだ。早速今夜やろう。」と乗り気になってしまいました。「実はずっとこの機会を待ってたんだよ。」と。
やることは決めたけどボクはまだ心の準備ができてないので明日にすることにしました。タケシ君も待ってるそうです。
明日、二人を殺します。
2月3日(土) ハレ
夜中二人の寝室に忍び込んでボクはおばあさんを、タケシ君はおじいさんの首に手をかけました。
数分後、ボクが自分の布団でぼんやりしてるとタケシ君が話しかけてきました。「なんで殺さなかった?」
ボクは下を向いたまま答えました。「だって、ご飯を作ってくれる人がいなくなっちゃう。」言い終わったらボクは泣きました。
タケシ君の深いため息が聞こえました。首を何度も横に振り、目をつぶって黙り込んでしまいました。
ボクは泣き続けました。
2月4日(日) クモリ
朝ご飯がおいしくてやっぱり殺さなくて良かったと思いました。タケシ君にも「ご飯おいしかったよ。」って言ったけど睨まれました。
そしてボソっと言ってました。「新しい朝が来ると思ったのに。」
ボクには一人で生きれる自信はありません。だから一生このままだとしても世話してくれる人達を殺すことはできません。
ボクは自分のこともわからないバカだけどそれだけはわかりました。
夜のままでいいです。
→第2章「動と静」
第5週「音色」