希望世界 続・ワタシの日記

第一部<追撃編>
第四章「駒」
第十三週「焼跡」



3月13日(月) ハレ
遠藤智久の家が燃えました。あの子の家と同じように。
けど遠藤は生きてました。そのまま燃えてしまえば良かったのに。
川口君、弟さんの恨みがあるからあいつ殺しちゃうかと思ったけど別にもうどうでもいいらしい。
弟より遠藤の方が殴り甲斐があるからって。あの人、ホントにサドだわ。
遠藤智久。私は大嫌い。あいつは杉崎先生を殺してるのよ?
焼け跡に行ってみました。遠藤はどっかのカプセルホテルで寝泊まりしてる。
焼けただれたボロアパート。ロープが張られて中には入れません。
遠藤の部屋の方を眺めてみました。ドアの前には何かの棒が引っ掛かってました。

希望の世界。もう誰も書き込んでない。
パソコンにコツンとおでこをぶつけてもたれかかってみました。
全ては、ココから始まったのよね・・・・。


3月14日(火) アメ
今日は雨が降りました。何もすることなく、家で考え事をしてました。
初めて希望の世界にアクセスした時のことを思い出していました。
虫に反撃され、荒ちゃん・・・・荒木さんを地獄に突き落とした。
そして、イジメが。一人パソコンルームに逃げ込んで、ふと目に付いた机に書かれていたアドレスにアクセス。
「希望の世界」へ。
sakkyは眩しいくらいに爽やかでした。私もsakkyの様になれたら・・・
無理なのは分かってました。私の歪んだ性格は簡単には変えられない。
虫をイジメた時と同じ。良くない事だとわかっていても、つい悪さをしてしまう。
性別を偽って「希望の世界」に入り込んだ。イジメられる自分は嫌いでした。
でも今考えると・・・・あの時の「三木」は、一番正直な私だったのかもしれない。
今はもう、何もかもが変わってしまったけれど。


3月15日(水) クモリ
三人で集まりました。川口君。遠藤。
川口君は遠藤のお腹をいじくってました。痛い痛いと遠藤が叫んでもやめてませんでした。
あの傷の人は、誰なのか。私達は、あの人のせいで混乱してます。
私の前に現れたときは、自称荒木さん。
川口君の前に現れた時は、自称風見君。
遠藤の前に現れた時は、自称ワルキューレ。
「sakkyを守る会」は川口君から教えてもらってからはずっとチェックしてたけど、今はもう消えてる。
あのメンバーもボレロこと遠藤を除けば、全てあいつの自作自演?
荒木さんか。風見君か。この場合このどちらかしか考えられません。
荒木さんが炎の中で生きていたのか。
風見君が病院を抜け出して行方不明のまま行動してるのか。
私達は、とにかく二人について調べる事にしました。
私は荒木さんの方を担当しました。他の人には調べて欲しくない。
あの子は、私の親友だったんだから。


3月16日(木) アメ
この前より強く雨が振ってました。夕方には止んでましたが、もう外に行く気は起きませんでした。
荒木さんのことを調べるって・・・今更何をしろと言うのでしょうか。
荒木さん。あの子が戻ってきた時の事を思い出しました。
傷だらけの顔。元がどんな顔なのかもわからない。・・・・男か女かわからない程の傷だったんだもの。
荒木さんと名乗られても、私はそれで納得してしまった。
あの頃から私は少しずつおかしくなってきてたのかもしれません。
それでもまだ、あの時の方が感情表現うまくできてたかな。
今ではもう、気持ちをうまく言葉にすることができません。
だから私は・・・
私も・・・狂ってるのでしょうか。


3月17日(金) クモリ
荒木さんの家に行ってみました。すっかり更地になってました。
焼け跡があったことは想像もつきません。ここに、人が住んでたのよね。
寂しく、草も生えず、そこはただの何もない空間でした。
燃えれば全てが消えてしまいます。もう私の記憶の中には荒木さんの家はありません。
どんな形で、どんな色をしてたのか。思い出す事はないでしょう。

「希望の世界」は誰もいなくなった今でもちゃんと存在してます。
色。デザイン。この目でしっかりと確認できます。
日記の更新はされてない。私がしてないからです。
更新する気にはなれません。


3月18日(土) クモリ
あの日の新聞は今でもとってあります。
荒木さんが燃えた時の記事。一家焼死。
目をつぶるとあの時の炎が蘇ってきます。私は何かを思っていたのでしょうか。
ただ見ていただけの気がします。黒い衣装に身を包み、燃えさかる炎を眺めていました。
そして私はアノ場所へ。殺人計画を遂行するために。
私は誰を殺そうとしていたんでしょうか。誰に向かってナイフをかざしていたんでしょうか。
そこにはカップルと一人の男がいたのが覚えてます。男は川口君でした。
川口君。奥田グループで一番評判が悪かった人。
陰で「破壊神」と呼ばれてました。モノもヒトも、すぐに壊すので有名でした。
虫へのイジメにはあまり参加してなかったような気がします。
彼は、嫌がったり抵抗する人の方が好きらしいから。
虫の様に何も反応しないヤツには興味が無かったのかもしれません。
その川口君も、荒木さんの死は信じてないようでした。

荒木さんからのメールで私は急激に冷静になりました。同時に何かがわからなくなりました。
次の日の新聞はすぐにチェックしました。一家焼死。
何度読んでも変わりません。そこには、かつての親友の名前がありました。
荒木さんは間違いなく死んでいます。死んでるんです。
燃えてしまったんです・・・。


3月19日(日) ハレ
川口君は荒木さん焼死の記事を見て、ため息をついてました。
荒木さんには生きていて欲しかった、みたいなことを漏らしてました。
今日も遠藤は川口君に殴られてました。
お腹の傷に響くからやめてと言っても川口君はやめませんでした。
「なんで病院を調べに行かなかったんだ。」
遠藤はブツブツと子供のように口をとがらせてグズってました。
無理でしょうね。私は思いました。
遠藤は早紀ちゃんに会いに何度か病院を訪れてます。(早紀ちゃんがそこにいるわけないんだけど)
ロクな思いをしなかったのはすぐに想像できます。
病院には嫌な思い出があるから行きたくない、というのわけね。
「もう風見で確定なんだ。あいつは二件も放火してるんだぜ?ちゃんと探せよ!」
川口君が叫んでも遠藤はただひぃと怖がるだけでした。
川口君は弟さんの筋から情報収集してたらしいのですが、特に新しい情報はなかったみたいです。
私が行く。そう言いました。
私も病院には一度行ったことあります。
そしてなにより、早紀ちゃんから病院の事は少し聞いてます。
私が行くべきなのでしょう。
遠藤は喜んでました。川口君も「仕方ねぇ。そうするか。」と言ってました。
風見君探しが始まります。早紀ちゃんの名を悲痛に叫ぶ姿を思い出しました。
あれが、彼を見た最後。それ以来風見君との縁は切れました。
けど、そんな簡単には縁は切れなかったみたいです。
風見君。アナタは何をやってるの?

家に帰ると、私はもう一つとってある記事を机から引っ張り出しました。
二人には見せなかったものです。
訂正記事。荒木さん焼死の記事に対するお詫びが書いてあります。
「一命を取り留めたにも関わらず、死者として報道したことを・・・・。」
再び机にしまいました。


第14週「疾走」