希望の世界 −ユウイチの日記−
第二部<迎撃編>
第七章「戦」
第二十五週「本陣」
6月19日(月) 晴
アバラがシクシク痛みやがる。足もだ。
畜生。調子に乗って蹴りすぎた。
奴にはちゃんと「俺がユウイチだ。」って名乗っといた方が良かったかな?
どうでもいいか。あの野郎、俺の顔なんざスッカリ忘れてやがったし。
もともと知り合いでも無かったから仕方ないか。
あっちが有名だったから俺は覚えていただけだ。
デブ山。相変わらず気味の悪い奴だったな。
もうデブはコリゴリだ。
だが随分スッキリした。
あと湖畔で素性がワカラナイのは「シス卿」と「ミギワ」、そして「シャーリーン」の三人。
これくらいわからんでもなんとかなるだろう。
ブス原の尊い犠牲のおかげで、敵さんが小田原在住であるところまでは判明した。
司令部もいよいよヤル気になっている。
スタートだ!
6月20日(火) 晴
スタートと言っても相変わらず俺のやることと言ったらネットばかり。
引きこもりやってるわけじゃないが、他にやることナッシング。
電話代が嵩張るけどそんなの俺の知った事じゃない。
「ユウイチ」の名で馴れ合いカキコ。ダチュラ&SEXマシーンと予定調和的会話を繰り返す。
何も知らないミギワやシス卿なんかも加わって、残った奴等で湖畔維持のためカキコカキコ。
たまにジャンクで情報チェック。我らが敵「処刑人」のカキコも流れつつある。
湖畔もなぁ。イチイチパソコン替えなくても誰かが全部自作自演してもいいのに。
用心深い「D.G」様は許せないらしい。どうせみんな暇なんだし構わないが。
だがどうやって敵さんを誘い出すんだろう。アイデアはあるんかな?
またオフ会やるのかもしれない。それが一番てっとり早い。
元々そのつもりで湖畔にメンバー増やしたんだし。四人もいればイイ作戦出てくるだろう。
肝心な時に限ってデブ山が来ちゃったら大笑いだよな。
あいつの行動はイマイチ分からねぇ。
最初アイツを見つけた時はビビった。まさか知ってる顔が来るとは思わなかったから。
それで後をつけてみたら・・・・・・野郎、帰りやがった。
おかげでオフ会は逃すしイワモトセンセイの顔も拝めなかった。
「D.G」には怒られるし散々だった。
そのワリには二回目は大成功。今度はヒロフミさんも繰り出して万全を期した。
デブ山来たら俺が押さえて・・・・・って時には来ないんだよな。
かわいそうに。ブス原は見事イワモトセンセイに連れてかれちまった。
秋山と打ち合わせでもしてたんだろうな。「ちゃんと後から尾行して!」なんて感じか。
ご愁傷様。俺等はセンセイの面も拝み、車のナンバー確認できて大満足。
・・・・なのに「D.G」はまた怒った。「ちゃんと追え。」って言われても。
タクシー代なんか持ってるワケねぇじゃんかよ!
ああ畜生。怒られるのは俺ばっかだよ。
その点ミキさんはイイ。ちゃんとフォローしてくれる。
あんな姉ちゃん欲しいよなぁ。
6月21日(水) 晴
暇だ。せっかく何か始まるかと思ったのに。
ヒロフミさんからの連絡もない。
こっちから連絡取ることは許されないからどうしようもねぇ。
ホントに用心深いよな。今更サツに見られてるとは思えない。
でもその用心深さのおかげで今まで捕まらないでいたんだよなぁ。
隠れてる場所もひでぇトコだ。俺にはあんなトコに潜むことはできない。
大胆不敵過ぎ。よくやるよマッタク。
俺は俺で、またあそこに行ってしまった。
外に出る用事は今となってはこれくらいだ。
病院でも結構馴染みになりつつある。これがまた兄貴に知れたら怒られそうだ。
・・・・・・バレないように祈ろう。
あそこでの俺は「遠藤ユウイチ」。まさか本名の川口正義を名乗るわけにはいかない。
誰にも聞かれないけど、一応設定はあのデブの従兄弟ってことにしてある。
土産を持って巨体に挨拶。カーテン閉めて二人きり。
今日も元気にゥーゥー唸っていやがった。まわりの迷惑考えろ・・って言っても無駄だろう。
俺が顔を見せると途端に暴れ出す。プルプル身体を震わせて意味不明の叫び声。
枕をバンバン叩いてみたり。シーツをバリバリ囓ってみたり。
秋山がデブ二等兵なら、こいつはデブ一等兵だ。
遠藤智久。こいつのせいで、俺はデブ嫌いになった。
土産に持ってきたバナナ。幾つも試したけど、これが一番オモシロイ。
遠藤は食べ物を見ると何でもがっつく。いくら暴れてても食い物の前ではそれに集中する。
バナナも皮なんか剥かずに、見るナリすぐに頬張った。
先端からくわえ込み、涎を垂らしながらシャブりついてる。
そこで手をポォンと押してやると・・・・いやぁ爽快。
喉のズッポリハマってやんの。涙目になってゲーゲーやってやがる。
鵜飼いのごとく喉に刺さったバナナが踊る。何度見てもオモシロイ光景だ。
そんな時に腹の肉を掴んだりすると。ポロポロ涙を流して唸る。
こいつがメリ首の弟みたくかわいげのあるデブだったら同情でもしてやるところだが。
何しろ俺の人生をブッ壊した張本人だ。同情の余地など無い。
たまに殺したくなる時もある。アタマがこの調子じゃ事故があってもおかしくない。
変に動くせいで、傷の治りが遅く新しい傷も絶えない。
・・・それでも元気に動くなんてバケモンだよな。
だから止めを刺したくなる。でもダメだ。できない。
D.G様に止められてる。最初に病院の場所を教えてもらった時に強く言われた。
「間違っても殺すなよ。これ以上事件を増やすわけにはいかねぇ。」
仕方ないからチマチマとイジるくらいで止める。
煮え切らない。何度イジっても煮え切らない。
俺は殺したいほど憎んでるのに。
畜生。何もできねぇ。
チクショウ。
6月22日(木) 晴
兄貴が戻ってくる。ミキさんを連れて、ウチに。
それにしてもよくもまぁここまで持ったもんだ。
二ヶ月、いや三ヶ月か?信じられねぇ。
潜伏先が、彼女の家だなんて。
ミキさんは仮にでも放火の疑いをかけられてる。
それにあちらさんにも親がいるだろうに。家の空気を想像するだけでも鳥肌が立つ。
以前ヒロフミさんにその事を聞いたことがある。的を得た答えだった。
「一度体感してみるか?このギクシャクした空気。胃が痛くなること必至だぞ。」
そりゃそうだ。娘の彼氏、しかも立派な犯罪者が娘の部屋に居着いてる。
いや、もう家を出てるお兄さんの部屋だったかな?
いずれにしろ同じ屋根の下にいるってワケだ。
ミキさんは兄貴と逃げたあと、一度家に戻ったらしい。
そこでサツに見られずすんなり家に入れて・・・そのまま兄貴も呼び込んだ、と。
家族もよく許したよな。そう思ってたが、ヒロフミさんによると一応許せる理由があるらしい。
今日もその話題になった。
「ここだけの話、最初は追い出そうとしたんだ。けどな、姉ちゃん放火で疑われてるだろ?
それでサツが家宅捜索なんてのに来たんだけどさ。その時のユタカさんの活躍っぷり、凄かったんだよ。
何時来るかなんてのも予想通りだった。対策までバッチリだったよ。
サツのやる事全部お見通しって感じで。家のドコに潜めば見逃されるとか、証拠隠滅行為とか。
おかげで姉ちゃんも捕まらないでいる。その点には感謝してるんだよ。親も俺も。」
家族としては、ミキさんが例え放火魔だとしてもできる限り側に居て欲しいんだそうだ。
以来兄貴の存在は黙認状態になった。・・・だからと言って爽やかな空気にはなり得ないよな。
もちろん顔をあわせたりもしないらしい。
「にしてもさ。ユタカさんは何者なんだ?忍者みたいだったよホント。一体ドコであんな知識を・・。」
場慣れしてるんですよ、と説明した。不名誉な特技だが、こんな時には役立つ。
「そんなもんか。でさぁ、そのユタカさんがそろそろサツの監視も薄まったころだろうから、そっちに行くって。」
確かにウチの方が居やすいだろう。俺しかいないし。
狭いが三人なら充分だ。
隻眼になった兄貴はまだ見たことない。俺が退院したのも、兄貴がいなくなった後だった。
「ついでに姉ちゃんもお世話になるからよ。その時はよろしくな。」
構いませんよ。ミキさんなら大歓迎だ。
それから少し話し込んだが、いつも話の最後はこの話題になる。
俺達はなんで兄貴達のやることに協力してるんだ?
そしてお互い曖昧な答えで言葉を濁す。
「親友も事件に関係してたんで。それに今、暇だし。」
俺は毎回そう答えるが、もっと深い理由は別にある。
本当の理由なんて言えるワケない。
ヒロフミさんも「姉貴が困ってるからさ。」と言ったあと、すぐ違う話題を振る。
「いやさ。姉貴が本当に罪を犯したんなら、それを償うように勧めるのがスジなんだろうけど。
その、いつか捕まるとは分かってるよ。でもさ。それは出来るだけ引き延ばしたいっていうか・・・。」
俺にはイマイチ納得できないが、そこはお互い言いっこナシにしてる。
もしかしたら、ヒロフミさんは・・・
いややめておこう。
どうせもう戻れないトコまで来てるんだ。
今更何を言っても無駄。
進むしかない。
6月23日(金) 雨
今日は金が入ってくる日。いつもは二十五日だけど今月は繰り上がりだ。
毎回この時スリルを感じる。金が振り込まれてなかったらどうする?
幸い今月も金は入ってた。生活費をおろす。
柄にもなく親のことを考えた。
渡部家の親は娘を側に置きたがってる。ウチの兄貴の助けを借りてでも。
岩本家もまた、親が子供達の為に殺人まで犯してる。
風見家は・・・素直に息子の死を悲しんでる。
西原家にだって親はいる。それなりに娘の心配をしてるだろう。
俺には、どれも理解できない。
親の記憶はわずかだ。気がつけば、親は金を振り込むだけの存在となっていた。
いないも同然。父親も母親も俺にはもとから居なかったんだ。
それは世間からみると「カワイソウ」なのかもしれない。
俺が怖いのは金が振り込まれなくなることだけ。
親がどうなろうと、知ったこっちゃ無い。
あの遠藤のこともアタマに浮かんだ。アイツもマトモな親はいねぇだろう。
いたらちゃんとオツムの病院入れてもらってるはずだ。
面会に行くたびに看護婦から身内の連絡について聞かれないかドキドキする。
サッとイジってサッと逃げてばかりを繰り返してる。
ふと、一番俺と境遇が似てるのは遠藤なのかもしれないと思ってしまった。
バカな!もうこんな下らない事を考えるのはよそう。
そうだ。今日もヒロフミさんから電話があったんだ。
兄貴達の「お引っ越し」は日曜の夜あたりにするそうだ。
会話ついでに気になってたデブ山のことを聞いてみた。
あれからどうなったんだろう?
「なんか学校来なくなってた。ホントに引きこもっちまったよ。」
二人して笑った。奴に関してはもういいだろう。
オタクには引き籠もりがお似合いだ。
学校ではもう、二人の生徒が行方不明になったことは話題にのぼらないらしい。
所詮オタク二人が消えたところで誰も感心払わないか。
おまけに一番怪しい人間が引き籠もった。学校の方も、もう気にしなくていいな。
これで本当に処刑人部隊と「D.G」組の対決となるワケだ。
まったくどっちがハリソン・フォードでどっちがトミー・リー・ジョーンズかわからねぇな。
それに兄貴も「D.G」なんて気取った名前つけやがって。何が「Destruction God」だよ。
俺は「ハンニバル」の方が似合ってると言ったのに。
こんな文句ばっか言ってると、この日記見られた時怒られそうだな。
何しろこのパソコンは兄貴がなけなしの金で購入したヤツだ。
今更考えても遅いか。何もしなくったって殴るんだ。
兄貴が帰ったらまた殴られる日々が始まるのか。
チクショウ。そればっかりはカンベンだよ。
せっかく自由になれたと思ったのに。
殴られても笑ってなきゃイケナイなんて。
あんなの慣れることなんてできねぇよ。畜生。
・・・・こんな文句書いても無駄なんだよな。
わかってるよ。
クソ。
6月24日(土) 雨
兄貴が戻ってくるということで、部屋の整理をようと思った。
パソコンラックの上にあったフロッピー。これを見て手が止まった。
俺が兄貴達に協力すると約束した時、最初に託されたものだ。
ヒロフミさんに渡された二つの日記。
「僕の日記」「カイザー日記」
これで俺は「希望の世界」を巡る因果を知った。
兄貴達がやたらこだわるのも・・・わかる気がする。
でも俺にとっては、風見の日記の方が重要だった。
あいつとはよく映画のコトで話し込んだ。
ユージュアル・サスペクツを教えたのも俺だし、一緒にLAコンフィデンシャルも見に行った。
まさか自称ネットの帝王の意味が「カイザー・ソゼ」だとは思わなかった。
確かにアノ映画、気に入ってたよよな。
俺と風見は親友の域に達してるのかと思った。
だが違った。所詮俺は、風見のメインマンにはなれなかった。
日記に俺のことなんて、一言も書いてなかった・・・。
ユウイチを名乗ったのは別に寂しさからじゃない。
岩本センセイを揺さぶるのに使える名前だったからだ。
この名前を使っていいのは俺だけだ、と思った。
そしてミキさんの弟となった。姉さんを探してる。
正確には義姉さんを探してる、か。間違ったことは言ってない。
俺が兄貴達に協力するのは、風見の弔い合戦でもある。
あいつがおかしくなって行くのを、俺は全然気付かなかった。
学校では普通にしてたのに。こっそり精神病院に通ってたなんて。
気付いてやれなかった俺は、やはりメインマンになる資格は無かったんだな。
けどこのままじゃあまりに後味悪すぎる。
せめて敵はとってやらないと。
報われない。
風見が。・・・・本当の「ユウイチ」が、報われない。
改めて「カイザー日記」を読み返した。
風見の気持ちになる。風見を魅了した早紀さん。よほど素敵な人だったんだろう。
その早紀さんを失った岩本センセイの気持ち、わからなくもない。
だがアンタは敵だ。風見を殺した。ミキさんからちゃんと聞いてる。
亮平さん。俺にとってこの人が一番謎だ。
今も表舞台にはでてきれない。何も分からねぇと怖さを感じる。
「僕の日記」も読み返し、最初と同じ感想を持つ。
みんな、早紀さんを中心に動いてる。
いなくなった今も尚、この人の遺したモノを追いかけ回ってる俺達。
不思議と「誰にも邪魔されたくない」という気持ちが沸いてきた。
西原とか何の関係ない奴が死んでもマッタク心は痛まない。
この因果に入ってこようとする方が悪い。誰も邪魔はできないさ。
兄貴もミキさんも、いずれサツにつかまるかもしれない。
でもその時は・・・・すべてが終わってからにして欲しい。
しばらくはそっとしといてくれ。
二つの日記はよくできた映画のように思えた。
そして俺は今、その「続編」の中にいる。
そう考えるだけで身震いが。
ハッピーエンドはあり得ない。どちらかがバッドエンドだ。
エンドロールはまだ遠い。
6月25日(日) 曇
兄貴は戻ってこなかった。
最悪の状況に陥ってる。
「マズイ事になった。」
久々の挨拶も抜きに、電話での開口一番はこれだった。
一体どうしたのさ。俺が口を開くより兄貴の言葉が先だった。
「ヒロフミが捕まった。」
その一言に俺はその場で凍りついた。
ヒロフミさんが捕まったって・・・なんだよソレ。
いつ?どうして?どうゆうことだ?アタマの中が整理つかなかった。
兄貴やミキさんが捕まるのなら、突然であっても納得はできる。
でもなんでヒロフミさんなんだ。あの人何か悪いことしたか。
「サツにチクった奴がいるんだよ。」
兄貴は淡々と話し続けた。
その時俺の中にあの人の名が思い浮かび、思わず叫んだ。
「岩本先生だ!」
敵さんがいよいよ本格的に俺達を潰そうとしてきたんだ!そう思った。
だが兄貴は「違う。」と冷たく言い放つ。
「チクられると困るような事してるのはあっちだろ。それに俺達はチクられなくとも追われてる。」
冷静に考えてみるとその通りだった。
現在進行形でコロシをやってるのはあっちの方だ。
もし兄貴達が邪魔なら・・・直接殺りにくるだろう。今だって影で目を光らせてるに違いない。
兄貴と岩本先生はお互いに首を狙いあってる。今更サツにチクるなんておかしい。
となると・・・他に誰がいるんだ。
「なんで捕まったのがヒロフミかってのを考えるとな。一人候補がいるんだ。」
なんでヒロフミさんなのか・・・候補が一人・・・
突然のコトでうまくアタマが回らない。だが次の言葉でようやく理解した。
「お前の方がソイツに詳しいだろ。」
アタマの中が凄い勢いでパッと晴れて、奴の顔が出てきた。
奴は俺の顔を覚えてなかったんだから。ヒロフミさんに行くわけだよ。
あいつしかいねぇ。畜生!
「秋山だ・・・!」
「だろうな。」と兄貴。ため息もまじってた。
あのデブ!大人しく引き籠もったかと思ったら・・・なんてことしやがるんだ!
ヒロフミさんは奴に警告してた。それは「俺は絶望クロノクルと関係してる」と宣言してるのと同じだった。
恐らく秋山は、西原と・・もう一人は横山だったかな?
その二人が行方不明になったことについて、「怪しい奴を知ってる。」とチクったんだ!
「まだ事情聴取の段階だろうが、『絶望クロニクル』との関係は言い逃れできない。
ミキの弟ってことも考えりゃ簡単には解放されないはずだ。黙秘で通してくれればいいんだが・・・。」
兄貴。今ドコにいるんだ。ウチには戻らないのか。
「公衆電話さ。ミキもいる。」
遠くで「こんにちわ。」とミキさんの声が聞こえた。
「渡部家を抜け出した。さすがにこれ以上はヤバイからな。それとウチにも帰らねぇ。
正義。ウチもヤバイんだ。渡部家の電話の記録やメールの記録が調べられりゃウチとの繋がりもバレる
そうなったら渡部家と川口家、いよいよ疑われる。だから俺達は今度こそ逃亡生活だ。」
逃げるって・・・ドコに。
「逃げれる所までさ。金さえあればなんとかなる。ありがたいコトに小遣いはたんまり頂いた。
いいか。このままじゃ俺達は破滅だ。金だっていずれ尽きる。
岩本センセが犯人ですとチクれば済むなんて思うなよ。俺達が逃げてる意味が無くなる。
最悪相打ちになるかもしれねぇが、それだけはゴメンだ。絶対に奴等を破滅させてやる。
だからな。お前が続きをやれ。しばらく俺等は身を潜めるのに専念する。」
俺が・・・・・・・?
「そうだ。立場的にお前が一番マシなんだ。俺達はヘタに動けない。
掲示板でも無難な発言だしな。イザとなりゃいくらでも言い逃れができる。」
でももしサツはやって来たらどうすりゃいいんだよ。
「ついでに母さんの行方でも探してもらえ。」
笑えない冗談を言う。
「ブツもお前に託した。いいな。俺達には時間がない。ヒロフミもいつ解放されるかわからない。
お前が岩本センセを追い詰めろ。誘い出せ。奴等が今ドコにいるのかを突き止めるだけでもいい。
止めは俺がやるから。それまでの舞台を整えておけ。
サツに見られてることもちゃんと考慮に入れとけよ。任せたぞ。」
そんな。どうやって追い詰めるんだよ・・・
「考えろ。しばらくしたらまた連絡する。くれぐれも気を付けろ。」
無茶なコトばかり注文する。だが珍しく最後は俺のことを心配してくれた。
と思ったのも束の間だった。
「失敗したら殺す。」
一方的に電話を切られた。
酷い。最悪の状況だ。こっちの陣営は俺一人しかいない。
・・・・・・・・俺だけ・・・・・俺だけで岩本センセと戦えと・・・・?
あの兄貴の片目を奪った相手に・・・・・俺が・・・・・・・?
え・・・・・・・ええ・・・・!!??
マジで俺だけ・・・???
ええええええ????
→第26週「奔走」