絶望世界 僕の日記

第1部<腐食編>
第1章「深淵の蟲」
第1週「跫音」



11月9日(月) 晴れ
今日はお弁当に虫が入ってました。後ろの席の奥田が笑ってます。
どうやら奥田が虫を入れたようです。虫は箸でつまんで捨てました。
ご飯が茶色くなってましたがもったいないのできちんと食べました。
少し苦かったです。


11月10日(火) 晴れ
昨日虫入りのお弁当を食べたせいで僕のあだ名が「虫」になりました。
奥田が言い始めたんですがいつの間にかみんな真似してます。
やっぱりご飯粒の隙間に入ってた虫の足も捨てるべきでした。
ちぎれた足まで取り除くのが面倒だったので一緒に食べてしまったんです。
後悔してます。


11月11日(水) 晴れ
「虫」というあだ名が定着しそうです。他のクラスの人達まで僕を「虫」と呼びます。
奥田が特にしつこいです。あまりにしつこいので黙ってました。
そしたら「虫なだけに無視すんのか?ヒヒヒ。」なんてくだらないことを言ってました。
奥田にはギャグのセンスがないと思いました。
つまんないです。


11月12日(木) 曇り
朝、学校に行ったら僕の机に大きく「虫」と彫られてました。彫刻刀で彫った様です。
削りカスもそのままになってます。チクチクしてとても嫌でした。
奥田が彫刻刀を持って机を彫る真似をしてきましたが、また黙ってました。
そしたら「シカトすんじゃねぇ!」と叫んで僕を殴りました。
痛かったです。


11月13日(金) 曇り
13日の金曜日。とうとう僕を本名で呼ぶ人はいなくなりました。
目の前で奥田が出席簿の僕の名前の部分を修正液で消してます。
上から「虫」と書いて僕に見せてきました。連絡簿や下駄箱の名札もやられました。
もうこの学校に岩本亮平という人間はいません。
僕は虫です。


11月14日(土) 晴れ
机の中に虫が入ってました。セロテープで「お前の友達」と書いた紙が貼ってあります。
奥田の字でした。セロテープをはがすと皮も一緒にはがれました。
まだ生きてましたが指でゆっくりつぶしてやりました。
汁の垂れる感じがとてもかわいらしく、何度も何度もグリグリしました。
快感です。


11月15日(日) 晴れ
学校がない日がこんなに待ち遠しいと思ったことは初めてです。
親も僕の心のSOSをキャッチしてくれません。
唯一妹の早紀だけが「お兄ちゃん最近元気ないね。何かあったの?」と気遣ってくれます。
僕は「別に。」と答えて自分の部屋に入りました。泣きながら早紀の似顔絵を描きました。
切ないです。


第2週「浸食」