絶望の世界 −僕の日記−
第12週「断罪」
1月25日(月) 雨
荒木さんが学校に来てない。おかしい。どんなにいじめられても学校には来るはずなのに。
僕は急に不安になってきました。何かとんでもないことになりそうな予感がします。
気がつくと、渡部さんが僕の机の前に立ってました。見下した様な目で僕を見てます。
「荒ちゃんから聞いたよ。」・・・・・・・何を聞いたんだ。「アンタがやったんだってね。」・・・・・・・だから何を。
「親に知られたんだって。」・・・・・・・知らない!僕は何も知らない!僕は何もやってない!
渡部さんはそれきり何処かへ行ってしまいました。残された僕は独り怯えてました。
大丈夫。僕には最期の手が残ってる。イザとなったらあの事を喋ってしまえばいいんだ。
荒木さんのもう一つの秘密。あの事に比べたら僕のしたことなんて大したことじゃない。
絶対に大丈夫。
1月26日(火) 晴れ
今日も荒木さんは来ない。どんどん不安が大きくなっていきます。
また渡部さんが僕の所へやってきました。今度は何を言いに来たんでしょうか。
「荒ちゃんには反対されたんだけど、私はやるつもり。」・・・・・・・・何を。何をするつもりなんだ。
「虫、アンタもう終わりよ。」・・・・・・どうゆう意味だ。なんで僕が終わりになっちゃうんだ。
それだけ言い残して行ってしまいました。何が起こるのか、なんとなく予想がついてしまいました。
大丈夫大丈夫大丈夫。でも不安が消えない。大丈夫だって分かってるのに。押しつぶされそうだ。
早紀、助けて。
1月27日(水) 曇り
予想が当たった。今家の前に来た車は間違いなく警察だ。呼び鈴が聞こえる。
僕は法に触れるようなことは何もしてない。あの事だって全部喋ってしまえば僕の罪にはならない。
親が玄関で応対してる声が聞こえてくる。ああ、今確かに「警察の者ですが。」と聞こえた。
大丈夫。たぶん大丈夫。僕はいじめられてたんだ。仕返しをして何が悪い。写真くらいで騒ぐなんて。
待てよ。その事じゃないかもしれない。・・・・・そうだ。やっぱりあの事だ!それなら警察が動くのも当然だ!
渡部さんはあの写真を警察に持ち込んだんだ!それで警察はあの事を確信して僕の所に!
なんだ。なら安心じゃないか。渡部さんの思惑通りにはならない。僕は僕は絶対に大丈夫なんだ!
親が階段を上がってくる。僕の名を呼んで。そんなにあせらなくても僕は逃げないよ。
行ってやる。そして全てを喋ってやる。そうすれば間違いなくあの娘は破滅だ。けけけけけけけけけけけ。
知らないよ!人が破滅しようが僕の知った事じゃない!僕が大丈夫ならいいんだよ!
僕は大丈夫!へへへ。大丈夫!良い響きだ。えへへへへへへへへへへへへ。大丈夫大丈夫大丈夫!
僕僕僕僕は僕は僕は僕は僕は大丈夫大丈夫僕は僕は大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫
僕は
大
丈
夫
1月28日(木) 曇り
僕にとって荒木さんは使者でした。恨みもありますが、それ以上に彼女のしてくれた事には感謝してます。
荒木さんは僕の願いを叶えてくれた。だからあの事も今まで黙ってたんです。言う必要が無いから。
でも今は違う。彼女は僕をいじめた。それに黙ってたら僕の身が危うくなる。
昨日僕は警察に連れて行かれました。そして僕の証言を元に、今日、荒木さんが逮捕されました。
殺人罪です。被害者は奥田。あの日、荒木さんは僕の目の前で奥田を殺してくれた。
僕が愛用してた黒いマフラー。荒木さんは同じモノとを手に入れ、僕に変装して奥田を殺したんです。
僕は元々小柄なため、マフラーで顔を覆って学ランを着込んだ荒木さんは本当に僕そっくりの容貌でした。
彼女は奥田殺しの罪を僕に着せようとしていた。でも誰も見てなかった。僕以外。
あの時、僕は何故荒木さんが奥田を殺したのか分かりませんでした。今となったら動機は明白ですが。
デジカメの画像の日付は11月16日。あの日の放課後、荒木さんは奥田に犯された。
警察の話では、荒木さんが犯人だとは有る程度目星がついてたけど、僕にも目を付けてたそうです。
なぜ逮捕までこんな時間がかかったのかは明日書きます。ちょっと複雑な事になってます。
ただ、はっきりしてる事が一つだけ。やっぱり渡部さんは警察にあの写真を持ち込んでいた。
僕が荒木さんを脅迫してた事を立証したかったらしいんですが、逆に荒木さんを破滅に導いてしまった。
嘆かわしいです。
1月29日(金) 晴れ
奥田が殺された後、警察の動きの話をまとめるとこうなります。
@奥田の友人達の証言で荒木さんが犯されていたことが発覚。表向きは捜査打ち切りに。
A強姦について詳しく調査しようとすると皆口を閉ざす。
B荒木さんの状況証拠が固まるも動機とみられる強姦事実がはっきりしない。
Cさらに調査に時間をつぎ込む。そうしてるうちに僕が犯人だとタレ込みが。これが約一ヶ月前だそうです。
D僕の調査を開始。しばらく調べても僕に犯行を行った様子は見られない。
E渡部さんが僕を訴えるために荒木さんの強姦写真を持ち込む。便乗して僕に奥田事件の事情聴取。
F僕が全て証言。荒木さんが奥田を突き落とす瞬間を見ていたことが決め手となって荒木さん逮捕。
警察が捜査打ち切りのフリをしたのは強姦された荒木さんへの配慮だそうで。
奥田の友人が口を閉ざしたのは、荒木さんへの強姦は奥田の単独犯行ではなかったからだと思います。
警察に僕が犯人だなんてタレ込んだバカは一体誰なんでしょうか。全く腹が立ちます。
ちなみに僕は例の写真バラまきに関して厳重注意を受けました。それ以上のことは何もありません。
僕は本当に大丈夫でした。
1月30日(土) 晴れ
ここ二日間、事情聴取とかで学校に行ってませんでしたが今日は行き来ました。
荒木さんの逮捕で学校中騒然としてました。何処も事件の話題で持ちきりです。
こんな話が耳に入りました。「誰かが荒木さんを売った。」
それが誰のことなのか皆分かってます。その人は「警察に訴える。」と仲間内で公言してたそうです。
主語も言わずに。皆をびっくりさせたかったんでしょうか。「虫を訴える。」とは言ってなかった。
その誰かさんにしてみれば「売った」なんてのはとんでもない誤解です。逆に助けようとしたんだから。
残念ながら、その人は誤解を解く事が出来ません。誤解を解く機会すら与えられてません。
・・・・・・・・渡部さんは、いじめられてました。彼女が何か言っても、誰も聞かない。
友人を売ったクズ。裏切り者。ゴミ女。様々な陰口が囁かれてます。渡部さんに聞こえるように。
渡部さんは必死に言い訳してました。僕の所にも来ましたが、僕は無視しました。みんなも無視してました。
僕はボソっと呟きました。「警察に持ち込まなきゃ逮捕されずに済んだのに。」
彼女は何も言わなくなりました。席に座り、黙ってうつむいたままでした。机に涙が落ちるのが見えました。
ずっと、泣いてました。
1月31日(日) 曇り
僕をいじめた人たち。奥田。荒木さん。渡部さん。
奥田は死にました。荒木さんは警察に捕まりました。そして、渡部さんはいじめられっ子になりました。
僕は咎められる様な事はしてません。みんな自業自得です。
いじめ、カッコワルイ。
→第1部<腐食編>
第4章「絶望の時」
第13週「白紙」