絶望世界 僕の日記

第19週「衝撃」


3月15日(月) 雨
チャット中に考え事をすることが多くなりました。「タケシ」さんへの返事はまだ考えつかない。
「タケシとまめっち、発言少ないよ〜。」と「渚」さん。
「いやーちょっとねー。」「男同士の秘密の会話をしてたもんで・・・・。」「わー!なんかヤラシー!」
まずいな。この流れだとsakkyの発言の少なさまでつっこまれそうだ。
そんなことを考えてあわてて発言しようとしたら、ICQのメッセージが来ました。「TOMO」さんからでした。
「sakkyも発言少ないよ。なんか考え事?」・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり来た。「うん・・・・・ちょっとね・・・・。」
「何々?悩み事?もしかして恋愛関係?」・・・・・・・・・・鋭い。「すっごーい!何で分かっちゃったの?」
「ふふ。女の勘って奴よ。で、で、どうなの?お姉さんに相談してみなさいよー。」
相談。そうだ。この人に相談してみよう。同じネット仲間なんだし。独りで考えるよりいいはず。
でも何処まで話す?まさかsakkyの正体を言うわけにはいかない。
「んっと。明日になったら詳しい話してあげる。」・・・・また保留。深く考えようとしないのは悪い癖かもしれない。
それでも相談相手が見つかっただけ一歩前進した気分です。明日までに話す内容を決めておかないと。
何て話そうかな。


3月16日(火) 晴れ
今日はチャットを早々に切り上げて、「TOMO」さんに相談に乗ってもらいました。
「他の所で何だけど。」と付け加えてネット上で男の人にアプローチを受けてる、という内容のことを話しました。
「それで・・・・・どうすればイイと思う?会うべきなのかな?」・・・・・・・・・・・・・この質問がしたかった。
「それはやっぱり会うべきでしょ!怖いなんて言ってないで相手を信用してみたら?」・・・・・・・信用?
「簡単に信用なんかしちゃって大丈夫かな?」「平気よぉ。ミニオフ会みたいなもんでしょ?会ってみなって。」
「でも・・・・でも・・・・・・。」・・・・・sakkyには秘密が有るんだ。これを言えたら楽なのに。言えない。
「何なら会う約束だけして遠くから見てたら?で、その人を直接見てから改めて会うかどうか決めるの。」
それだ!会いたくなければ後で「やっぱり怖くて会いに行けなかった。」とでも言っておけばいい。
「そうだね。そうしようかな。」「うん。がんばりなよ〜。」・・・・・・・・決まった。「タケシ」さんへの返事が。
今日はもう「タケシ」さんは寝てしまってるので明日話してみるつもりです。
待ってて。「タケシ」さん。


3月17日(水) 晴れ
「タケシ」さんにメッセージを送りました。「まだ不安なんだけど会う事にしました。あさってだよね?」
すぐに返事が来ました。「良かった!『やっぱりイヤ』とか言われたらどうしようかと思ってたよ。」
それから時間と場所を決めたんですが、「タケシ」さんが指定してきたのは家からそう遠くない場所でした。
電車とか使って一時間もしないで行けます。さすがに地域別チャットタウンで知り合っただけある。
おそらく「タケシ」さん以外もそんな遠くには住んでないはず。みんなある程度近くに住んでると思います。
決めること決めたらなんだか疲れてしまいました。本当に会ってみるのかはまだ分かりません。
見てみて誠実そうな人だったら・・・・・・・・・いっそのことsakkyの正体を明かしてしまおうか。
独りで秘密を抱えてるより、誰か味方がいたほうがいいに決まってる。僕も少しは楽な気分になれる。
「どんな娘でも絶対イメージを変えない。」と言ってくれた。その発言の責任は持ってくれるはず。
sakkyがどんな娘でも。


3月18日(木) 晴れ
「TOMO」さんから「どうなった?例の男の人と。会うことにしたんでしょ?」とメーッセージが来ました。
「うん。」「いつ会うの?」「明日だよ。」「明日!?もうすぐじゃん!で、で、何処で会うの?」
適当に会話した後、「じゃ、頑張ってね!」と励ましの言葉をもらいました。「うん、頑張る!」
そう、明日。「タケシ」さんと会います。会ったらどんな話をすればいいんでしょうか。
言うべき事は決まってる。問題なのはどう切り出すか、です。「タケシ」さんはどんな顔するかな。
「sakky、明日待ってるから!」「心配しないで。でも本当にいいの?会ったらショック受けるかもしれないよ。」
「大丈夫!俺はsakkyのこと良く知ってるから。sakkyがどんな人でも俺は絶対裏切ったりしない!」
「信じていい?」「もちろん!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・信じよう。ここまで来たら信じる他ない。
うまくいけば味方ができるんだし。ダメなら、素直に謝るしかないかな。いや、「タケシ」さんは裏切らないはず。
信じていいんだよね?


3月19日(金) 雨
今日は「タケシ」さんと会う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・予定でした。
早く待ち合わせの場所に行こうとしたんですが、途中でちょっとした知り合いに会って話し込んでしまいました。
気づいた時にはもう待ち合わせ時間を過ぎてました。急いで会話を終わらせて待ち合わせ場所に行きました。
・・・・・・・・「タケシ」さんらしき人はいませんでした。誰かを待ってる様に見える人は一人もいません。
絶え間ない人の流れを見つめながら、僕は必死に「タケシ」さんの姿を見つけだそうとしました。
「タケシ」さんは僕の姿を見てもsakkyと気づくわけがないんだ。僕から見つけなきゃいけないのに・・・・・・・・・。
結局それらしき人は見あたらず、沈んだ気持ちのまま帰路につきました。
「タケシ」さんになんて言い訳をしようか・・・・・。今日はもうネットを繋げる気にはなれません。
もう寝ます。


3月20日(土) 雨
気まずいけど話さないわけには行かない。思い切ってネットを繋げてみました。
「タケシ」さんも繋いでます。「昨日はごめんなさい。」とメッセージを送っておきました。
「いいよいいよ。気にしてないから。とりあえずお話はできたしね。」・・・・・・・・・・・・・・・・「・・・・・・・・・・え?」
「なんか突然話切り上げて行っちゃうんだもん。もっと話したかったのにな。」・・・・・・・・・・・「それって・・・。」
「あれ?もしかして気づいてなかった?てっきり全部分かってたのかと思ったけど。」・・・・・・・「・・・・・まさか。」
「なんだ。本当に分かってなかったんだ。じゃ、改めて自己紹介。杉崎武志です。よろしく!」
昨日僕が話し込んだ人物。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・杉崎先生。それが「タケシ」さんだって?
あんなに平然と喋ってたのに。何で?何で?知ってたの?僕がsakkyだって事。何が、どうなってるの?
「あの、ちょっと今頭が混乱しちゃってて・・・なんかうまく考えられなくて・・・続きは明日にして下さい・・・。」
一方的なメッセージを送ってネットを切断しました。まだsakkyっぽく喋ってるのが情けなくなってくる。
なんで僕がsakkyだと分かった今でも先生は普通に喋ってくれてるんだ?なんか意図があるのかな?
それより僕はこれからどうしたらいい?まだsakkyのままでいるのか?先生は僕にどうしろと?
くそっ!考えたってどうしようもないじゃないか。考えるだけ無駄だ。ああ、もうどうでもいい。どうなってもいいよ!
なるようになれ!


3月21日(日) 雨
今日もまた沈んだ気分のままネットを繋ぎました。やっぱり「タケシ」さんとはきっちり話をしなきゃいけない。
どうせ酷いことになるのには変わりない。覚悟はできてる。恐喝でもするつもりか?それとも他に何か?
「やあ。昨日の話の続きなんだけどさあ。」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・来たか。「何です?。」
「俺、ちゃんと約束は守るよ。」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?「約束って・・・・・・・・・どんな?」
「ほら、会う前に言ったじゃん。」・・・・・・・・・・・・・・・だから、それは何?「どんな約束でしたっけ?」
「『sakkyがどんな娘でも絶対イメージを変えない』って。岩本。この約束は今でも守ってるよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それって・・・・・・・・・・つまり・・・・・・・・・・・・・・・え?
「本当はなんとなくsakkyが岩本だとは気づいてたんだ。でも実際会うまで確信が持てなかった。」
「なんで?なんで気づいたんですか?」「『なんで?』って言われても・・・そのまんまなんだけど。」
何が「そのまんま」だっ!ちゃんと説明してくれよっ!
「それよりさ、以前ちょっと世話したりしたじゃないか。その時の俺、覚えててくれてる?」
何だよ。奥田のデジカメの事か?それも全て意図があってやった事なのか?
「あの時からかな。なんとなく、気になってたんだよ。」・・・・・・・・・・・うわああああああああああああああああ!!
やめろやめろやめろやめろやめてくれやめてくれ「やめて下さい!僕にはそんな趣味はないんです!」
「なんかしゃべり方おかしいよ。それにそんな言い方されると傷ついちゃうな。」・・・・おかしいのはお前だろ!
いくら僕でもそんな趣味はない!ホモ。聞いただけで寒気がする!何で僕なんかに!イヤだ!嫌だ!!
「この際、はっきり言うよ。岩本。俺はな、お前のことを」・・・・・・・・・・・・聞きたくない聞きたくないキキタクナイ
「愛してる。」

僕は電源を切りました。


第20週「凶行」