絶望世界 僕の日記

第2部<虚像編>
第6章「悠久の闇」
第21週「波紋」



3月29日(月) 晴れ
「タケシ」さんを失って騒然とした「希望の世界」。僕は何も言えません。
誰かが「やっぱり、あんなの嘘だよね?」と言ってます。
「きっとタケシは何かの事情でネットに繋げてないだけだよ。」
「そうだよね。アレが本当にタケシ君だって保証は無いもんね。」
「そうだけど・・・・・・・・・・ねぇsakky、何か知らない?」
「うん。私には何もワカンナイよぉ。」
僕は嘘つきです。


3月30日(火) 雨
チャット中、突然「渚」さんが語り始めました。
「あのね・・・・・私、みんなには黙ってたけど・・・・・タケシ君と・・・・・会ったこと有るんだ・・・・・・・・・。」
何を言い出すんだ急に。そんな事言わなくていいことじゃないか。突然すぎるよ。
「ICQでイイ感じになって・・・・二人だけで会って・・・・・・結局、私はフラれちゃったんだけどね。」
ああ、そう。そうなんですか。分かったからそれ以上言わないで下さい。
「でね、でね、その時、本名教えてもらったんだけど・・・・・・・・・・・・・・・・杉崎武志さん・・・・・だったよ。」
・・・・・・・・・・知ってる。僕だけは知ってるんだ。でも、これでもうみんなも知ってしまった。
言わなきゃいいのに。言わなきゃ「あんなの嘘だよ。」で済んだのに。余計な事を。
なんで言うんだよ!畜生!これ以上僕を苦しめないでくれ!
杉崎先生、ネットナンパは初めてじゃなかったんだな。「渚」さんと付き合っちゃえば良かったのに。
みんな真剣に答えてないでサ、もっと楽しい話をしようヨ。
・・・・・・・・・・・・・考える事が多すぎる。頭の中がゴチャゴチャしてきた。今日はもう休もう。
これからどうなるんだろう。


3月31日(水) 曇り
「本当にタケシが殺されたのなら、一体誰がそんな事を?」
様々な仮説が飛び交います。僕も形だけ議論に参加しました。
僕だって知りたい。でも、そんなの調べようが無いじゃないか。
それに、「希望の世界」に書き込まず、ただ見てるだけの人もいるかもしれない。
「タケシ」さんを知ってるのは僕たちチャット仲間だけじゃない。
この広いネット世界の中、「処刑人」を見つけ出すのは不可能に近いです。
どうしようもないです。


4月1日(木) 晴れ
僕はただ、辛い現実を見ないですむネットの世界に逃げ込んだだけです。
苦しんだり悩んだりする為にこんな事してるんじゃない。なのに、なんで邪魔するんだよ!
また、「密告者」が掲示板にやってきました。「アンタ、踊らされてるよ。」と一言だけ残していました。
意味が分からない。変な事はもうやめてくれ!もう嫌なんだよ!
すぐに削除したけどチャットで話題になってしまいました。
「渚」さんが「なんか、最近荒れてるよね。誰か心当たり無いの?」と言いました。
「TOMO」さんが「無いよ〜。私にもワケワカンナイ〜。」
「三木」君も「僕にもわかりません。」、「えんどうまめ」さんは「タケシの事といい、俺にはさっぱりだよ。」
僕の番だ。さあ何て答える?「実はね、私・・・・・・・・・・・・・」・・・・・・・・・・・・・・・・・・駄目だ!
書きかけた文章を全て消して、新しく打ち直しました。「私も何も知らないよ〜。」
今日は4月1日じゃないか。嘘をついても大丈夫な日じゃないか。エイプリルフールなんだから!
・・・・・・・嘘が、積み重なっていきます。


4月2日(金) 曇り
確実に、おかしくなっていく。
今日メールチェックしたら、変なメールを受信しました。差出人は「anonymity」
たった一行でした。「takesiwokorositanohaomaedaro」最初見たとき、何て書いてあるのか分かりませんでした。
よく見ると、それはローマ字読みで読むことが可能です。「タケシヲコロシタノハオマエダロ」
僕じゃない。僕じゃないんだよ。こればっかりは本当に僕じゃないんだよ!
杉崎先生。本当に死んでしまったの?先生が生きてれば何もかも解決するのに。
もう一度、じっくりと例の事件の新聞を読みました。
「被害者は教員杉崎武志さん(25)、発見時には既に死亡しており・・・・・。」・・・・・・・死亡。死んでる。
死亡。死亡。死亡!この重い言葉が僕にのしかかってきます。僕はもうこの呪縛から逃れられない!
希望の世界。杉崎先生の死。殺人依頼掲示板。処刑人。密告者。anonymity。これは偶然の一致か?
そんなわけない。全部、とは言わないまでも幾つかは見えない糸で繋がってる。
どうやって、その糸を見つけだす?それに、見つけてどうすればいいんだ?でも、やらなきゃいけない。
少なくとも「殺人依頼掲示板」と先生の死は何か関係してるはず。その繋がりを探し当てない限り僕は。
僕は前に進めない。


4月3日(土) 晴れ
「anonymity」からのメールは差出人のアドレスがありません。アノニマスメールというのを聞いた事があります。
差出人不明。こうなると奴の身元はわかりません。とりあえず「anonymity」は保留にしておこう。
「処刑人」。こいつを見つけだすにはどうしたらいいんだろう。
ネットを徘徊して身元を割り出す方法を調べてみたけど詳しいことはよくわからなかったです。
ただ、基本的には「リモートホスト」を見れば分かるそうです。僕にはこれくらいの知識しかありません。
でも、やらなきゃ。僕は先生の死に対する責任を取らなきゃいけない。
「殺人依頼掲示板」のソース。取って置いて良かった。どんだけ労力が必要なのか想像つかない。
頑張るしか、ない。


4月4日(日) 曇り
以前お気に入りに登録したアンダーグラウンドの掲示板。今は、違う目的で覗いてる。
「処刑人」を見つけだすまで、たどり続けてやる。リンクからリンクへ。
広がる闇の中で、たった一人を見つけだすのはとても難しいかもしれない。
今日も数時間かけて色々なサイトを巡ったけど、見つからなかった。
ソースにリモートホストが載ってない掲示板もある。何処に居るんだよ!
でも、一つ分かったことがある。アングラに限定されてるのかわからないけど、そこに来る人たちの特性。
色々な掲示板を辿ってると、同じ人を何回もみかける。リモートホストも一緒だった。
ネットでは、「書き込む人」と「書き込まない人」がはっきりしてるんじゃないのかな?
どんなにカウンターが上がっても、見てるだけの人はずっと見てるだけ。
逆に、書く人は至る所で結構書き込んでる。違う名前を使ったりする事もあるだろうけど。
ある掲示板に飽きたら他の掲示板。実際発言する人ってのは見てる人全体の中のごく一部に過ぎない。
だから、「処刑人」も他の所に出没してるはず。


第22週「追跡」