絶望世界 僕の日記

第2部<虚像編>
第7章「虚空の塔」
第25週「降臨」



4月26日(月) 曇り
カイザー・ソゼからメールがありました。「sakky」宛てにです。
そこには謝罪の言葉と一つのリンクが張られてました。
「ここが僕の言ってたNSCです。滅望の世界もここの影響で作りました。ここで全てが分かると思います。」
すぐにそのページに行ってみました。そこで僕は、僕は、・・・・・・・・・・・・・・・何なんだよこのページは。
そんな事が許されていいのか。人を何だと思ってるんだ。こいつら、許せない。
NSC・・・・・・・・「ネット・ストーキング・カンパニー」
何でもない個人運営のホームページを文字通りストーキングして、そこの日記や掲示板を見て笑う。
そして、そのターゲットは、「希望の世界」。sakkyのページ。
ここにいる奴らは僕以上に「希望の世界」の人間関係を把握してやがる。僕は本当に踊らされてたんだ。
許されると思うなよ。


4月27日(火) 晴れ
先の見えない闇の中に現れた一筋の閃光、カイザーソゼからのメール。そのおかげでたどり着いたNSC。
奴等は最低です。管理人の「ロロ・トマシ」、よくこんな酷いことを思いついたな。
「NSCの栄光と恥辱」と題されてNSCの歴史が紹介されてます。
少し前、「ダチュラ」とか言う奴が「殺人依頼掲示板」を見つけた時なんかは異常な盛り上がりをみせたらしい。
NSCでも「依頼されてるのは希望の世界のタケシじゃないのか?」と話題になり、結局「そうだ。」と認められた。
その時流行ったのが「密告遊び」。誰彼構わず「密告者」と名乗って「希望の世界」にチクリを入れる。
「密告遊び」は「ロロ・トマシ」の「掲示板荒らすと怪しまれるからもう止め。」という命令によって中止されてる。
それにしてもNSCのカウンターは凄い。尋常じゃなく跳ね上がってる。これはもう自作自演の域を超えてるな。
アングラでは何が求められてるのか分かった気がする。文字通り、犯罪行為だ。
現実ではできない事をネットでやるから面白いんだろう。ネットでやっても犯罪なのに、罪の意識は少ない。
このページ、僕が訴えればすぐに削除されてしまう。でも、そんな事すると真実への道が断たれてしまいます。
まだ杉崎先生を殺したのが誰か分かってないし、anonymityもNSCの歴史を見る限り出てきてません。
全てが分かったわけじゃない。


4月28日(水) 晴れ
NSC。隅々まで見てみると「カイザー・ソゼ」の名前もちらほら見える。ここの一員だったんだな。
でもあの中坊、ビビって仲間を売りやがった。おかげでこうして僕がNSCを見れてるわけだ。
ここでも少し「滅望の世界」を宣伝してるけど、無駄なことです。カイザー・ソゼ、お前わかってないよ。
ここの連中はネットストーキングが面白くて来てるんだから。「俺の日記」なんか真剣に読む奴いるわけない。
それでも「ロロ・トマシ」がリンクに追加してくれてる。良かったね、カイサー・ソゼ君。
NSCには本当に大勢の人が来る。特定のハンドルネームの奴以外にも、掲示板には多くの書き込みがある。
「希望の世界」はいつもの仲間しか見てないと思ってたけど、カウンターがそこそこ上がってたのは・・・・・・・。
そこそこ人気があると思ってた。でもそのほとんどはNSCからの客だったのか。
それも悔しいけど、一番許せないのは「私の日記」をバカにしてる事です。
「私の日記」は早紀が考えついたものだ。それを笑うなんて早紀を侮辱してるのと同じだ。
早紀を、sakkyをバカにするな。


4月29日(木) 曇り
「希望の世界」で「私の日記」を更新しておきました。内容は「最近ストーカーにつけられてる気がする。」
チャットでもその話題でした。「TOMO」さんも経験あるらしく、話は盛り上がりました。
「えんどうまめ」さんなんか「sakky、怖くなったら俺に言ってよ!いつでも助けに行くからサ!」と言ってました。
「渚」さんは「私はまだ経験ないけど、やっぱその内そんな目にあっちゃうのかな・・・。ガンバローね、sakky。」
「三木」君も「そんなことやるの最低ですよ。最近酷い奴が多いですよね。sakkyさん、注意して下さいよ。」

チャットを終えて少ししてみると、NSCが盛り上がってました。
「えんどうまめはsakkyねらってるな。ヤバイよ〜。タケシみたいに殺られちゃうよ〜。」とか
「いやいやえんどうまめはsakkyとくっつく。てゆーかもう既に二人はラブラブ状態だよ。」とか
「ストーキングしてるの、じつは俺。TOMOのストーキングもしてた。今度は渚のストーキングします。」とか
「ストーカー萌え〜。」とか「(⌒∇⌒ゞ)」とか「サワー飲むか?」とか「もっと米喰え。」とか・・・・・・・・・・・・・・・・・。
バカだこいつら。


4月30日(金) 晴れ
チャットの内容は全て見られてる。管理人の「ロロ・トマシ」が見て無くても他の誰かがログをとっといてる。
だからNSCではsakky達の会話は誰にでも分かるようになってる。これがネットストーキングたる所以か。
今日のチャットでは「ストーカーがしつこいよ〜。sakky、怒っちゃう!」と発言しておきました。
みんなも「何時でも俺を呼んでくれな!」とか「sakky、やっちゃいなよ!」とか「警察に言うべきですよ。」とか。
そして、NSC。既にリアルタイムで見てた奴等が掲示板で引用を駆使してレスを付けている。
「怒っちゃう!だって。sakkyちゃんカワイイ。怒ったらどんなことしてくれるのカナー?殺しちゃうのカナー?」
「どー考えてもストーカーの方が強いだろ。返り討ちにされて縛られて姦られちゃって捨てられちゃうよ。」
「sakkyは俺が守る!ストーカー死ね!呪うぞコラ!sakkyは俺のだからな!」、「ストーカー萌え〜。」
sakkyが見てないと思って好き勝手なことばかり言ってます。しっかり見てるんだぞ。
ストーカーはお前達だ。ちくしょう、バカにするなよ。僕は本当に怒ってるんだからな!
反撃、だ!


5月1日(土) 曇り
NSCの掲示板に新しく仲間が増えました。そいつの名は「王蟲」。
「このページなんかヤバめでいい感じッス。早速お気に入りに追加しときました。」と無難な発言をしてます。
でも、誰も「王蟲」が特別な存在である事を知らない。「王蟲」の正体はsakky。
唯一その事を知ってるカイザー・ソゼも最早こちら側の人間になってます。奴はNSCを裏切ったんだから。
「王蟲」がNSCに来た事はカイザー・ソゼへのメッセージにもなる。反撃の狼煙。奴は気づくだろうか。
あいつには協力してもらう。準備が整ったらメールで伝えてやろう。僕が何をしようとしてるのかを。
「王蟲」はNSCを「希望の世界」から切り離す為に降臨した、sakkyの救世主です。
杉崎先生を殺した犯人を割り出す事までできるかどうかはわからない。でも出来る限りの事はしないと。
少なくともNSCとの対決には意義はあると思います。第一、僕は奴等を許すつもりはない。
闘います。


5月2日(日) 晴れ
「王蟲」の登場には誰も反応しませんでした。予想した通りです。
ここでは無難な発言をする奴なんか相手にされない。異常で面白い奴しか歓迎されないでしょう。
基本的に自分勝手な発言ばかり。誰が何時、どんな話しをしてたかなんて覚えてる奴はいないと思います。
それでいい。今日もまた適当な発言をしておきました。無難キャラで居た方がギャップが激しくて面白い。
「王蟲」という名前を「そういえばいつも書き込んでるな、こいつ。」と思われるぐらいに浸透させる。
「ロロ・トマシ」と直接やり合う事にはなるだろうか。順調にいけばNSC全体との対決は避けられない。
NSCの中で味方になってくれる奴は何人居るかな?常連の奴等は敵のままだろうな。
NSCをバカにしながら見てるだけの連中も相当いるはず。そいつらはこっち側に来てくれそうだ。
「王蟲」がsakkyだとは言う必要はない。知られたら全てが終わってしまいます。
大丈夫。きっとうまくいく。死んだ早紀の為にも、僕は進まなければいけない。「希望の世界」を救うんだ。
それが、僕の生き続けてる意味だから。


第26週「劫火」