狭間世界 ボクの日記


第一章「朝と夜」


第一週「起床」

1月8日(月) クモリ
朝、目が覚めたらタケシ君がいました。
ボクはすごくグッスリ寝てたらしく、しばらく頭がボォっとしてたけど
目が覚めていくにつれてタケシ君の姿がハッキリ見えてきました。
タケシ君は朝から夜までずっと中学校の制服を着たままです。
黙ってボクのことを見てるだけで、特に何も話してくれません。
変な人。


1月9日(火) ハレ
おじいさんとおばあさんにはタケシ君は見えないようです。
タケシ君がボクの後についてきても二人は何も言いません。
タケシ君の方もおじいさんとおばあさんには何の関心も持ってないようです。
ご飯も食べずに横でボクを眺めてばかりのタケシ君。
無表情で、よく見てみるとまばたきもしてませんでした。
疲れないのかな。


1月10日(水) クモリ
無愛想なタケシ君も結構イタズラ好きだったりします。
後からボクの目を手でかくすから顔洗うとき鏡が見れなくて不便です。
耳もふさいできたりするからおじいさんたちの会話も聞こえません。
ボクのことを呼んでるっぽい時もそれをされるから返事できなくておじいさんに怒られてしまいます。
でも怒鳴り声も聞こえないからちょっとだけ便利かもしれません。
できればやめて欲しいけど。


1月11日(木) ハレ
タケシ君はお風呂にもトイレにもついてくるのでちょっぴり恥ずかしいです。
お風呂でも制服着たまま立ってるんですが不思議と服は濡れません。
鏡の前でいつものように無表情のままボクを見ながらじっと立ってます。
お風呂あがった後におばあさんが体を拭いてくれるのを手伝うようなこともしてくれません。
めんどくさがりのようです。


1月12日(金) ハレ
おじいさんとおばあさんはしょっちゅう喧嘩してるようなんですがタケシ君のせいで内容はわかりません。
ボクの事を指さしたりするんですがすぐにタケシ君に目を隠されてしまいます。
両耳をふさぎながら目まで隠すなんてタケシ君はすごいと思いました。
手が4本あるのかなと思ったんですがこれも目をふさがれてるのでどうやってるのかは見えません。
見えないことだらけです。


1月13日(土) クモリ
おじいさんとおばあさんにタケシ君がいることを教えてあげるとものすごいいきおいで怒られました。
声が聞こえなくてもおじいさんが鬼みたいな怖い顔して殴ったので怒ってるのだとわかります。
その後寝たフリをしてたらおばあさんに「お前は一人っ子だお前は一人っ子だ。」と一時間くらいささやかれました。
少し目をあけるとタケシ君はボクの耳はふさがずに腕を組んでけけけっと鳥の鳴き声みたいな変な声で笑ってました。
なんで笑ってるんだろう。


1月14日(日) ハレ
タケシ君が誰なのか知りたかったけどおじいさんに聞いたら「二度とその名を口にするな!」と殴られたので
それ以上は怖くて聞けませんでした。またタケシ君が横でけけけっと笑ってました。
相変わらずタケシ君はボクの目を隠したり耳をふさいだり無表情のまま(たまに笑うけど)ついてきたりします。
おじいさんとおばあさんが喧嘩してても止める気配はありません。ボクが殴られても止めません。
タケシ君は何をしたいんでしょうか。なぜボクについてくるんでしょうか。
誰も教えてくれません。



第二週「挨拶」
1月15日(月) クモリ
夜になるとタケシ君は喋るようです。
おじいさんとおばあさんが隣の部屋で寝静まった頃、タケシ君はふすまに寄りかかって立ったままでした。
ボクが寝てる間もずっと立ってるのかなと思って試しに「座らないの?」と話しかけてみたら答えてくれました。
「君が寝たら僕も寝るよ。」
一言だけどちゃんと返してくれました。タケシ君もどちゃんと寝ることがわかって安心しました。
立ちっぱなしじゃかわいそうだから。


1月16日(火) ハレ
ご飯をタケシ君にもわけてあげようとしたらまたおじいさんに殴られました。
そしてまたおばあさんと喧嘩を始めるんですがタケシ君に耳をふさがれるので聞こえません。
後ろのタケシ君に「お腹空いたでしょ。」と言っても無視されました。
夜、おじいさんとおばあさんが寝るたらタケシ君は「あのご飯は食べれない。」と言いました。
おいしかったのに。


1月17日(水) ハレ
今日はおじいさんに押入に閉じこめられたのでとても寒かったです。
おばあさんは泣きながらボクを出そうとしてくれましたがおじいさんに止められてました。
タケシ君も一緒に入ったんですがそんなに狭そうにはしてませんでした。
タケシ君に耳をふさがれるとあったかくなるかなと思ったけど耳は冷たいままでした。
今も体が冷えてます。


1月18日(木) ハレ
どうも風邪を引いたようです。頭がボォっとして寒気がします。
だから一日中寝てました。
おじいさんもおばあさんも看病してくれなかったけど寝てるだけだったので一人でなんとかなりました。
でも頭も痛いのはどんどん酷くなっていきます。タケシ君の顔までぼんやり見えるようになってしまいました。
まだ寒いです。


1月19日(金) クモリ
風邪が治りません。体中が熱いです。タケシ君の姿がぼやけてます。変な煙みたいに見えます。
誰かに「大丈夫?」と聞かれた気がしますがあまり意識が無かったのでよくわかりません。
眠いです。
寝ます。


1月20日(土) ユキ
身体が宙に浮いてるみたいにふわふわした感じがします
目が悪くなってしまったみたいに全部がぼやけて見えます
それにすごく眠いです・・・
・・・・


1月21日(日) ハレ
たくさん寝たおかげで風邪は完全に治ったようです。頭もここ最近の中で一番スッキリしてると思います。
タケシ君もハッキリと見えるようになりました。でもなぜか前より姿がかわってるみたいです。
制服が高校のやつに変わってるし、いつも無表情だったのが、少し睨むような感じでボクを見るようになりました。
目が合うと「おはよう。」って挨拶してくれたけどすごく睨まれてる感じがしたので目をそらしてしまいました。
タケシ君、怖いです。



第三週「洗顔」
1月22日(月) クモリ
タケシ君にずっと睨まれてます。ボクは何か悪いことしたんでしょうか。
腕を組んで壁により掛かってボクのことをまじまじとながめてるんですがあまりいい気分じゃありません。
話しかけるのは怖かったけどこのまま睨まれ続けるのはもっと嫌なので勇気を出して「ボク何かした?」と聞きました。
「いや、何もしてない。」と答えてくれたけど睨むのはやめてくれません。
落ち着かないです。


1月23日(火) ハレ
タケシ君はボクから目を離しません。いい加減にして欲しいです。
あまりにしつこいのでボクは怒ってしまいました。「なんでそんなに睨むの?」
するとタケシ君は深いため息をついて何度も首を横に振りました。
「その前にさ。君は自分が誰だかわかってる?」
わかりません。


1月24日(水) ハレ
どうゆうことでしょう。ボクは自分が誰だかわかりません。
覚えてるのは、深い眠りから目覚めたあの朝からのことだけです。それより前のことは思い出してはいけません。
鏡を見て自分の顔を確認しようとすると、タケシ君が鏡の前に立つので見ることはできません。
タケシ君はボクのことを知ってるようでした。「察しはついてる。」と言ってたけどそれが誰だかは教えてくれませんでした。
気になります。


1月25日(木) アメ
とりあえず鏡で自分の姿を確認したいです。タケシ君にどいてもらうように言ったら断られました。
「今見てもたぶん理解できない。」とのことでした。理解できないって何がでしょう。
仕方ないからおじいさんとおばあさんに聞いてみようとしたらタケシ君に腕を捕まれてものすごく睨まれました。
「あいつらには何も言っちゃいけない。」って。怖い顔してたから従うことにしました。
でも知りたいです。


1月26日(金) ハレ
どうしても知りたいと言ったらタケシ君は考え込んでしまいました。
「見たら色々理不尽なことが出てくるけど、それでも見る勇気はあるか?」
なんで自分の顔を見るのに勇気が必要なんでしょうか。ボクはそんなに変な顔してるんでしょうか。
手で顔を触って見てもぐにゃぐにゃするだけで何もわかりませんでした。
どうなってるんでしょう。


1月27日(土) ユキ
このままじゃ気になってグッスリ眠れないし唯一の楽しみのご飯もおいしくありません。
何度も何度もタケシ君に頼み込むと、渋い顔してようやく承諾してくれました。
「一つだけ約束してくれよ。見た後、絶対パニックを起こさないこと。」
たぶん約束できます。でもタケシ君は「明日にしよう。じっくり覚悟を決めるんだ。」と言って先延ばししました。
ボクは平気なのに。


1月28日(日) ハレ
顔を洗う時、ついにタケシ君がどいてくれました。鏡にボクの姿が映ってました。
でもそれは、ボクが思ってたのとは全然違って、誰かわからないけどボクが喋ると鏡の中の女の人もちゃんと口を動かして、
やっぱりこの人はボクなんだと思って、つまりボクは鏡に映ったように、なんかちょっと年いったおばさんで・・・??
混乱しそうになるとタケシ君が「何も考えるな!」と叫びました。そして「俺の言うとおりにしてれば大丈夫だから。」と。
だから何も考えません。



第四週「朝食」
1月29日(月) ハレ
タケシ君に色々聞きたいと思ったけどおじいさんとおばあさんがいる時は話してくれなくてもどかしいです。
二人きりになるタイミングを伺っては話しかけました。「ボクの体はどうなってるの?タケシ君はボクのことよく知ってるの?」
タケシ君はちょっと寂しそうな顔をして「俺から教えても意味が無い。自分で気づいてくれ。」と答えました。
そうは言ってもタケシ君は相変わらずボクの耳をふさぐしまた鏡の前にも立ったりします。
どうやって気づけばいいんでしょうか。


1月30日(火) ハレ
タケシ君に話しかけるタイミングは大体わかるようになりました。おじいさんとおばあさんに声が届かない所なら返事をしてくれます。
ボクのことについていくら考えてもわからないので教えて欲しいとタケシ君に催促しました。
しばらく考え込んだあと「全てが一気に解決する方法があるんだけど。」とつぶやきました。
そんな方法があるなだ是非教えて欲しいと言ったら「あまりオススメできない。」と言ってまた黙り込んでしまいました。
もどかしいです。


1月31日(水) クモリ
今日はタケシ君から話しかけてくれました。「ずっと考えてたんだ。」と前置きを置いて喋り始めました。
「君がそうなった原因を取り除けば、何もかもうまくいくと思うんだよ。」と。
原因。それは何?聞こうと思ったらタケシ君が話を続けたので大人しく聞いてることにしました。
「あの二人を殺すんだ。それができればきっと何もかも思い出すよ。」あの二人っておじいさんとおばあさん?二人を殺す?
意味がわかりません。


2月1日(木) アメ
ボクは何がなんだかわかりませんでしたがタケシ君は「殺さなきゃたぶん一生そのままだ。」とか言ってます。
あのおじいさんとおばあさんは悪い人なんでしょうか。それに、殺すって言ってもどうやって。
タケシ君は「寝込みを襲えば大丈夫。あいつらは死んで当然の奴らだから気兼ねする必要は無い。」ともう殺す気になってます。
二人はそんなことになってるのも知らずに相変わらず喧嘩ばっかりです。おじいさんはまだボクに物を投げつけたりします。
どうしよう。


2月2日(金) クモリ
おばあさんはボクの身の回りの世話をしてくれるけど顔をしかめながら嫌々やってるしおじいさんはボクを殴ります。
二人ともあまりいい人とは思えないのでかわいそうだけどボクが自分のことを知るために死んでもらうことにしました。
タケシ君に言うと「善は急げだ。早速今夜やろう。」と乗り気になってしまいました。「実はずっとこの機会を待ってたんだよ。」と。
やることは決めたけどボクはまだ心の準備ができてないので明日にすることにしました。タケシ君も待ってるそうです。
明日、二人を殺します。


2月3日(土) ハレ
夜中二人の寝室に忍び込んでボクはおばあさんを、タケシ君はおじいさんの首に手をかけました。
数分後、ボクが自分の布団でぼんやりしてるとタケシ君が話しかけてきました。「なんで殺さなかった?」
ボクは下を向いたまま答えました。「だって、ご飯を作ってくれる人がいなくなっちゃう。」言い終わったらボクは泣きました。
タケシ君の深いため息が聞こえました。首を何度も横に振り、目をつぶって黙り込んでしまいました。
ボクは泣き続けました。


2月4日(日) クモリ
朝ご飯がおいしくてやっぱり殺さなくて良かったと思いました。タケシ君にも「ご飯おいしかったよ。」って言ったけど睨まれました。
そしてボソっと言ってました。「新しい朝が来ると思ったのに。」
ボクには一人で生きれる自信はありません。だから一生このままだとしても世話してくれる人達を殺すことはできません。
ボクは自分のこともわからないバカだけどそれだけはわかりました。
夜のままでいいです。


第2章「動と静」