希望の世界 −ワタシの日記−
第一部<追撃編>
第一章「傷」
第一週「再会」
12月20日(月) クモリ
日記を始めました。あの子に謝る為のシナリオを考えないといけないから。
サーバーにアップするのは当然だと思いました。そんな気分でした。
さて、どうしよう。
何て呼んでたのかすらもう忘れてる。苗字だっけ。それとも下の名前だっけ。思い出せません。
ホントは思い出したくありません。忘れさせて欲しかったのに。そっとしといて欲しかったのに。
戻ってきます。私が地獄に突き落としたあの子が。
手紙が来ました。私に会いたいって。謝ったら許してくれるかな。何て言えば許してくれるかな。
鏡に向かって何度か練習してみました。御免なさい。ごめんなさい。ゴメンナサイ。ゴメンナサィ。
やるせない気持ちになりました。
12月21日(火) ハレ
学校のトイレの鏡で気付いたら謝る練習をしてました。
誰かに見られました。見た人はすぐに逃げてしまいました。
「待って!」と叫んだけど無駄でした。きちんと説明したかったのに。
思わず壁を蹴りました。「なんでそっとしといてくれないのよ!」って吐き捨てました。
その姿も他の人に見られました。その人も逃げました。
嫌な気分のまま教室に戻りました。廊下で数人とすれ違いました。
今度こそ平然としてました。友達に会ったら「おはよー。」って普通に挨拶。友達も笑顔。
間違えて友達じゃない人にも言ってしまいました。変な目で見られます。
視線が痛いです。
12月22日(水) ハレ
学校で私の噂が広まってました。昨日の姿を見た人が広めたのかもしれません。
口に出す人出さない人。私を見るとそろって違う話題になります。
「言うならハッキリ言って。」と叫びたかった。でも言えませんでした。
イジメは再発しないでしょう。友達は・・・・友達だと思ってる人達はみんな普通に話してくれます。
けど、みんな私を怖がってるのが分かります。誰かがヒソヒソと話してました。
「今度の呪いは、渡部さん。」
聞こえてます。
12月23日(木) ハレ時々クモリ
学校がお休みだったので一日中謝る練習が出来ました。
最初の一言。それが決まりません。ひさしぶり。おかえりなさい。ごめんなさい。
何を言っても白々しい様に思えます。顔はどうしよう。笑顔?泣き顔?寂しげな顔?
鏡の前で色んな顔をしてみましたが、どれもしっくりきませんでした。
鏡に映る情けない自分の顔を見てると、急にイジメられてた頃の事を思い出しました。
「アナタが荒木さんを売ったんでしょ?」「お前あいつと親友だったんじゃないのか?」
「最低だな。」「ゴミ女。」「てめぇ生きる価値ねぇよ。」「死んで償え。」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「しね」「シネ
気分が悪くなりました。トイレに駆け込み吐きました。
今もまだ吐き気が残ってます。
12月24日(金) クリスマスイヴ
終業式が終わるとすぐ、あの子に会いに行きました。
イブの日に学校から少し離れた公園で待ち合わせ、と手紙には書いてありました。
公園のベンチに誰か座ってました。最初それが誰だかわかりませんでした。
目が合うとその人はすっと立ち上がり、私の方に歩いてきました。
近づいてくるにつれて、私は目を背けたくなりました。彼女が人目を避けた場所で待ち合わせた理由を感じていました。
彼女は私を「渡部さん」と呼びました。私は彼女を「荒木さん」と呼びました。
前はもっと親しく呼び合ってた気がするけど、そんな昔のことはもう忘れていました。
彼女は黙って私の胸に顔を埋めました。用意しておいた謝罪のシナリオは全て消し飛んでました。
変わり果てた荒木さん。
顔中が傷だらけ。切り傷。火傷。喉は潰れかかりマトモな声が出ない。恐らく体中にも傷があるでしょう。化け物。でも荒木さん。
謝罪の言葉なんてなんの意味があるのでしょう。
私は聞きました。「中で虐められたのね。」
彼女は頷きました。泣いていました。私はそれ以上語りかけることができませんでした。
私のせいだ。
私は彼女を抱きしめてあげることも出来ず、ただ黙って彼女が私の胸で泣いてるのを見てました。
少しして落ち着くと、二人でベンチに座って長い間お話をしました。
私は聞いてるだけでした。どんなイジメにあっていたのかを淡々と、リアルに、生々しく語った彼女の話を。
少年院だか刑務所だかそんな場所に彼女を押し込めたのは、私が、彼女を、売ったから。
売った訳じゃない。事故だったのよ。だって私は知らなかったんだから。私は話を聞いてる間ずっとそう考えてました。
彼女と別れ、家に帰るとすぐにトイレに駆け込みました。昨日より酷い吐き気です。
胃液まで吐きました。涙目のまま私は便器の中に叫んでました。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ゴメンナサイ。
ゴメンナサイ。
声が枯れても尚も叫び続けました。
ゴ メ ン ナ サ
イ
12月25日(土) クリスマス
今日も荒木さんと会いました。でも何を話していいのかわかりません。
随分と二人とも黙ったままでした。沈黙がとても辛かったです。
とにかく何か話さなきゃ、と思って適当な事を言いました。
「荒木さん、パソコン持ってる?」
荒木さんは一応家にはある、と答えました。それが全ての始まりでした。
私は自分はインターネットをやってる事を話し、面白いページ知ってるよとか
私もそこによく書き込みしたりするんだとかネットでも結構友達出来るよとかを延々と喋りました。
荒木さんが言いました。「私もそれやってみたい。」
ネットに繋ぐ方法。プロバイダと契約するにはどうするのか。モデムはついてるのか。
私は詳しく説明してあげました。私のメアドも教えてあげました。家に帰ったら早速やってみると言ってました。
そうするといいよ。本当に、友達できるんだから。タノシイヨ。私は言いました。
家に帰ると大急ぎでネットに繋ぎました。
「希望の世界」
カイザー君がメールで送ってきた時は、迷惑な事やめてよねって思った気がします。
もうそんな事言ってられません。荒木さんが来ます。
なんであの中坊君が私にココを託したのか知らないけど、今度は私が「sakky」です。
いいでしょ?早紀ちゃん。貴方の名前使っても。荒木さんを救ってあげたいの。
ネットに救いを求める。私は救われませんでした。それどころかとんでもない事に巻き込まれました。
自殺した早紀ちゃん。狂ったカイザー君。夜逃げした虫の家族。そして私は、宙ぶらりん。
だから次は。次こそうまくやらなきゃいけません。荒木さんを救ってあげないといけません。
それが、私に出来る精一杯の償いです。
「希望の世界」、更新。
12月26日(日) マタクモリ
掲示板にカキコが追加されてました。
ハンドルネーム「ARA」。「初めまして。きちんと投稿できてるかな?ミキちゃんレス頂戴!」
凄い勢いで昔の記憶が蘇ってきました。まだ虫へのイジメが始まる前。
パソコン指導の授業で荒木さんと軽くネットで遊んでたあの頃。
ネットの事なんか何もわからなくて、どっかの掲示板にうまく書き込めただけで喜んでた。
その時使った名前です。私が「ミキ」。あの子が「ARA」。
懐かしさが込み上げます。そして思い出しました。あの子は私を「ミキちゃん」と呼んでた事を。
あの子を「アラちゃん」と呼んでた私。今は、もう、そう呼べません。
呼べるのは、ネットの中でだけ。
私は「三木」の名前で書き込みました。ARAちゃんのお迎えメッセージです。
後で名前を説明しなきゃ。ミキは三木だよって教えてあげなきゃ。けど・・・・きっとわかってくれるかも。
気が付くと私はもう一回カキコをしてました。
今度は「sakky」の名前で。似たような、歓迎カキコを。
ほらARAちゃん。みんなあなたを歓迎してくれてるんだよ。
ね。言ったでしょ?ネットで友達できるって。sakkyはあなたの新しいお友達です。
画面に浮かぶsakkyの名前を見て、離れたARAちゃんに囁きました。
ARAちゃん、ここは「希望の世界」。あなたをここで救います。
マウスがガタン、と落ちました。
手が震えています。
第二週「依頼」
12月27日(月) ハレギミ
「希望の世界」は再び動き始めました。「私の日記」も更新してあげました。
過去の日記は全て消しました。これからは、私が新しい「sakky」だから。
掲示板はまだ書き込みが少ないです。ARAちゃんのカキコの前は「渚」さん。虫のハンドルネーム。
「アザミはもう動きません。」と書いていました。その前も虫で「アザミに会いたい。」。その前は・・・・・もう随分書き込まれてません。
早紀ちゃんは「虫のお兄ちゃんはもういません。今のあの人は『渚』さんです。」って言ってました。
それでも私は虫に会いたくありませんでした。早紀ちゃん情報で虫が退院して家に帰ってた事は知ってました。
けど、結局あの家族は逃げてしまいました。カイザー君は知ってるんでしょうか。彼には早紀ちゃんの死後会ってません。
私は一度岩本家に行ってみたけど、全ての窓は閉め切られ、ただただ寂しげに家が建ってるだけでした。
「希望の世界」もそうです。長い間更新されず、ただ黙ってネットに浮いてただけです。
私の家にぴったりです。
12月28日(火) ハレ
今日は現実で荒木さんに会いました。「希望の世界」のお話をしました。
話してる最中、私は荒木さんの顔を直視できませんでした。
かつてのかわいい面影は皆無です。顔は傷だらけで恐ろしいほど醜くなってます。怖い。
そんな彼女も、ネットの中では普通の子でいられます。顔が見えないって素敵。
「sakky」の話題になりました。会ったことあるのか聞いてきました。
「会ったこと?あるよ。とってもいい子だったよ。」
嘘は言ってません。確かに早紀ちゃんはいい子でした。死んでしまったけど。
へぇ、と荒木さんは感心してました。その声はしゃがれてて耳障りでした。でも耳を塞ぐわけにはいきません。
傷だらけの荒木さん。現実では会うのが辛いです。
とっても、辛いです。
12月29日(水) クモリ
ネット上ではとても楽しく話せます。チャットもやりました。
最近寒いよねとか2000年問題って何が起きるんだろうねとか色々話せました。
二人分のチャットは結構面倒でした。わざわざ違うウインドでチャットページを二つ開かなきゃいけません。
でも、楽しく話せたのであまり気になりませんでした。ARAちゃんも満足してるようです。
二役やった甲斐がありました。私も満足です。
ちょこっとだけ虚しさが込み上げてきます。これでいいんでしょうか。
いいんです。
12月30日(木) クモリ
毎回思うことですが、現実で荒木さんと会うと嫌な気分になります。今日も会いました。
荒木さんはやたら私に会いたがります。中ではよほど孤独だったんでしょう。
2000年を一緒に迎える事になりました。初日の出を見て、初詣に行こうなんて言い出しました。
私は嫌でした。でも断れません。約束してしまいました。
今日も荒木さんは気分が悪くなるような話をしました。
いちいち傷を見せて、この傷などんな風につけられたとか延々と話します。
中にリーダー格みたいのが居て(奥田みたい)、そいつが許せないとか言ってました。
名前も聞いたけど忘れました。私には関係有りません。
顔が醜くなると性格まで醜くなってしまうのかと思いました。
思っただけです。言ってません。
言えるわけないです。
12月31日(金) オオミソカ
今から荒木さんと出かけなければなりません。
寒い夜に外に出るなんて本当は嫌です。断りたかったです。
2000年問題とかで電車が止まってくれればいいのに。
そのままオールで川崎大師なんて疲れます。人混みにも行きたくありません。
荒木さんは自分の顔を鏡で見たのでしょうか。私ならあんな顔で人前なんか歩けません。
信じられない。2000年を迎えるのにあんな醜い人と一緒にいなきゃいけないなんて。
ネットでなら温かく迎えてあげるのに。中でつけられた傷なら私には関係ないはずです。
もう時間です。行かなきゃいけません。
だるいです。
2000年1月1日(土) ガンタン
無事に初日の出も見れて川崎大師に行きました。
人混みの中私達は普通に歩いてました。私はドキドキしてました。荒木さんの顔が気になって。
荒木さんは平然としてました。平然と醜い顔をさらけ出してました。
初詣は騒がしいだけで、特に変わった事無く帰路につきました。
帰る途中です。荒木さんが酷いことを言ったのは。
私が「初詣、何てお祈りしたの?」って聞いた時でした。
「私にこんな傷をつけた人達がみんな死んでくれますように。」
荒木さんは平然と言い放ちました。
思わず聞き返そうとすると、突然彼女は私の顔をのぞき込みました。
「殺したいの。」
私が何も言えないでいると、すっと彼女の手が伸びて、私の手を握りました。
そしてそのままその手を上に、荒木さんの顔に、ピタっとくっつけました。
おぞましい皮膚の感触。今でも忘れられません。私はあまりの気色悪さに泣きそうになりました。
「殺すつもり。」
必死になって首を振りました。でも彼女は手を離してくれません。
「あんな所に入れられなきゃ、こんな傷できなかった。」
お願い。手を離して。小さく叫んだのを思えてます。
「あなたが押し込んだのよ。」
手には更に力が入りました。ザラっとした感じとグニャっとしか感触が、同時に。
「あなたが、黙っててくれてれば、私は、あんな所に、行かずに、済んだ。」
荒木さんは無表情でした。いや、もしかしたら何か表情があったのかもしれません。
傷のせいでよくわからなかっただけかもしれません。
「手伝ってくれるよね?」
その言葉は優しささえ感じるほど、穏やかでした。
断れない。けど、そんなの嫌。頭の中でぐるぐると同じ言葉を繰り返してました。
なんとか絞り出した言葉は「考える時間を頂戴。」でした。
私の手は解放されました。顔の傷から剥がれた皮膚が少しこびりついてました。
「じゃ、また明日。」と言い残し荒木さんは帰っていきました。
私はその場に座り込み、しばらくガタガタ震えてました。怖かったです。恐ろしかったです。
最悪のお正月です。
1月2日(日) ハレ
私は土下座してました。
いつか練習したあの言葉。「ごめんなさい。」を繰り返していました。
荒木さんが私を罵倒します。私はひたすら謝り続けます。長く辛い時間でした。
私が額を地面に擦り付けて何分も経ちました。荒木さんは罵倒を止めました。
「顔、上げて。」
私は顔を上げませんでした。荒木さんが私の前にかがみ込みました。
「ごめん。無茶な相談だったよね。もういいから。」
私は顔を上げませんでした。私の肩に手を触れて言いました。
「もう、いいから。」
荒木さんのしゃがれ声が体中に染み渡りました。私は顔を上げました。
彼女は優しく微笑んでいたのかもしれません。でも、私には般若の面に見えました。
すっと立ち上がり、何も言わずに去っていく荒木さんの背中に向かって、もう一度だけ言いました。
ゴメンナサイ。
第三週「怨恨」
1月3日(月) クモリ
あの怖い荒木さんも「希望の世界」ではかわいらしい女の子に化けます。
醜い顔でもキーボードは打てるらしいです。普通の話をできるらしいです。
私とも「sakky」とも普通の会話をしました。「三木」は無視されるかと思ったけどされませんでした。
また三人でチャットです。初詣ネタになりました。
「sakky」で「どんなお祈りしたー?」と振ってみました。
ARAちゃんは「家内安全☆」と答えてました。
超嘘つきです。
1月4日(火) クモリ
ARAちゃんからsakkyにメールが来ました。メル友にでもなりたいんでしょうか。
別に用事も無いのにメール送ってくるなんて。内容も「チャット楽しかった。」だし。寂しいんだね。
私は返事を送ってあげました。sakkyはARAちゃんを救ってあげるキャラだから。
掲示板にもARAちゃんは「今日は寒い。」とか当たり前の事しか書きません。
私もそれにあわせて適当なカキコをしておきました。
ARAちゃんも傷だらけの顔を歪ませてニコニコ笑ってくれることでしょう。
想像したら気持ち悪くなりました。
見たくないです。
1月5日(水) クモリ
本当にメル友になってしまいました。
またメールの交換です。内容は下らない事ばかりです。「友達できて嬉しい。」だって。わざとらしい。
しかも同じ内容の話をチャットでもしました。でも、彼女が楽しんでるんだから仕方ありません。
ネットでARAちゃんを救ってあげれば、私も罪から解放されます。
復讐なんか考えずに大人しくネットに浸るべきです。
ネットのARAちゃんはとっても楽しそうです。sakkyも楽しそうです。三木も楽しそうです。
みんな幸せです。
1月6日(木) アメフリ
今日届いたメールです。
ちわ〜 ARAです〜
実はね、今日はちょっと折り入って相談が有るんだけど・・・・
sakkyとは会ってまだそんなに長くないけど
もう親友の域に達してるから。聞いてくれる・・・・よね?
あの・・・・・・ちょっと言いづらい事なんだけど・・・・・・
私、許せない奴がいるんだ・・・・・・。
私の事を裏切って、私に酷い目を合わせた奴がいるの。
それでね、なんとかそいつに復讐してやりたいと思ってるの。
ごめんね暗い話ばかりしちゃって。
でもね。sakkyにも少し関係あるんだよ。
だってそいつ・・・・・あの「三木」なんだから・・・・。
三木って結構前から「希望の世界」にいるの?
どんな風だった?普通にしてた?
三木がネットでどんな事してたのか、知りたいの。
良かったら教えて下さい。
あいつと私の関係は追々説明するから・・・・・。
お願い。
何て答えればいいのでしょうか。あの子やっぱり私の事恨んでます。
復讐したいなんて言ってます。sakkyに頼んでます。sakkyは私なのに。
ひどいです。
1月7日(金) ハレ
とりあえずメールでは三木がいかに良い人であるか散々アピールしておきました。
すぐに返事のメールが来ました。内容は簡単です。
「sakky、騙されちゃダメよ!」
その後はひたすら私への罵倒が連ねられてしました。
ARAちゃん曰く私は害虫らしいです。あの虫と一緒にされてます。吐き気がします。
私はまた三木のフォローをするメールを書きました。
掲示板では三人とも仲良くやってます。馴れ合いです。嘘ばっかです。
チャットには行きませんでした。馴れ合うのが嫌でした。
壁に頭をぶつけてみました。痛かったです。夢じゃないです。
虫と似たような行動をとってしまいました。気分悪いです。私は、虫じゃ、ないです。
私は三木です。渡部美希です。
1月8日(土) ハレ
「三木」としてARAちゃんにメールを送りました。
「明日会いたい」という内容です。一時間後にはもう返事が帰ってきました。
荒木さんは承諾してくれました。
それとは別に、「sakky」としてのメールも送りました。「復讐って何をするつもりなの?」という内容です。
そっちもすぐに返事が来ました。私を殺したいらしいです。過激な内容でした。
チャットで馴れ合い、掲示板でも馴れ合い、それでも私は恨まれます。
明日会って話をします。sakkyの件には触れずに。
楽しくなるかもしれません。
1月9日(日) クモリ
私は例のコロシの依頼を受けました。
「やっぱり考え直した。協力する。」と言っておきました。
さて、荒木さんはどう出るのでしょう。
最初荒木さんの恨みは中でイジメてた人達へ向いていました。
私に協力を求めてきたけど、私は断ってしまいました。だから恨みの矛先は私に向きました。
でも今、それを元に戻してあげました。これで私を恨む理由は無いはずです。
荒木さんは喜んでました。醜い顔を歪ませて。
私は人殺しに協力する羽目になりましたが、あまり気負いはしてません。
私の知らない人だからいいです。イジメッコであるなら尚更です。
とりあえず私が殺される事は回避できました。
良かったです。
夜、ネットに繋ぐとsakkyにARAちゃんからメールが来てました。
「美希(三木の本名)がね。最近妙に馴れ馴れしいの。今更止めてよねって感じ。」
そんな始まりで、私への恨みと、殺すのにsakkyも協力して欲しいとの依頼と、色々書かれてました。
私は恨まれたままでした。これ以上どうしろと言うのでしょうか。
どうやって私を殺すというのでしょうか。私を殺すのに私に協力を求めてます。バカです。愚かです。
頭悪いです。荒木さんは顔だけでなく頭の中までおかしくなってます。生きる価値無いです。
あっちこそ死ぬべきです。
第四週「悪魔」
1月10日(月) クモリ
ネットでのコロシ協力も承諾しました。報酬をもらう、という事で。
普通の人ならこんなの相手にしてくれないよ。良かったね。相手が私で。
私が私を殺す計画です。チャットで三木を「もう寝る。」と退室させた後が、sakkyとARAちゃんの時間です。
三木の退室から数分。もう戻ってこないのを見計らって、殺人計画が始まります。
本当は退室なんかしてないのに。ここでしっかり見てるよ、ARAちゃん。
大変ね。イジメッコと、三木と、計画を二つも立てなきゃいけないなんて。
私もできるだけ協力してあげます。失敗しても知らないけどね。
頑張ってね、荒木さん。
1月11日(火) クモリギミ
チャットによる「三木」殺人計画
ARAちゃんの役割
「三木」の呼び出し。夜に呼び出す、との事。
sakkyの役割
「三木」を呼び出す場所に潜み、「三木」が現れたらこれを殺害。すぐにその場から離れる。
ARAちゃんの役割
時間を見計らって現場に。死体を処理。
死体の処理は具体的にどうするのか聞いても「まかせて。」としか答えてくれません。どうするんでしょう。
それに、「三木」を夜に呼び出すって・・・・私を夜に呼び出すって事です。
何て言って呼び出すんでしょうか。私が断ったら計画は成り立ちません。
それを聞いてもARAちゃんは「それもまかせて。」としか答えません。
彼女曰く「sakkyには一番大変な役をやってもらうから・・・・それ以上の迷惑はかけられないよ。」
そしてこう付け加えました。
準備や処理は問題なし。ただ、実行してくれる人が欲しかったのだ、と。
その理由を聞きたかったけど止めました。このままうまく流れていきたかったから。
後はずっと報酬の話をしてました。お金を払うと言ってましたが断りました。
報酬はこうして欲しいと言いました。
「逆に私が誰かを殺したくなった時、協力して欲しい。」
ARAちゃんは承諾しました。決まりです。計画は実行に移ります。
さてさて、荒木さん。私をどう呼び出すの?私次第でどうにでもなっちゃうのよ?
この計画、全ては私に委ねられているのね。準備も、実行も。
私が支配してるのね。アハハハハハ
素敵。
1月12日(水) アメ
現実での「イジメッコ」殺人計画
荒木さんの役割
そいつの呼び出し。そいつは荒木さん同様もう外に出てるらしい。
私の役割
ノコノコ呼び出されたそいつを、後ろからザクリ(足止め代わりでいいらしい)。すぐに逃走。
荒木さんの役割
時間を見計らって現場へ。
動けなくなったそいつへ止めを刺す(恨みを込めて、でしょうね)。
その後死体の処理。
私はこっちでも聞いてしまいました。「死体はどうやって処理するの?」
荒木さんはまた「任せておいて。」としか答えませんでした。
よほど自信があるらしいです。女手一つで死体処理なんて想像つきません。
けど、私には関係有りません。私はすぐ逃げるから。
荒木さんは私に犯行時はマフラーや帽子で顔を分からなくしておいて欲しいと頼んできました。
言われなくても心得てます。たぶん夜に決行するから、黒い方がいい、と付け加えてました。
もしもの事を考えると、やはり私も万全を期すべきです。
さて、ここまで来ても、一番の問題が解決されてません。
場所は?夜に呼び出して不自然じゃ無くて、誰の目にも触れられない所。
そんなのあるんでしょうか。殺人計画の二つとも、場所が決まってないなんて。
「明日までには考えておく。」と荒木さん。
今日のチャットでのARAちゃんも「場所は明日までに考えておく。」。
何も考えてないの?私は呆れました。狂気に満ちてるくせに、意外と、間抜け。
さすが顔が傷だらけなだけあります。愚かぶりが顔に良く出てます。思い出すのも不愉快です。
汚い顔
1月13日(木) スゴイアメ
日程と場所が決まりました。
イジメッコ殺しは15日夜11時過ぎ。場所は、横浜そごう二階、外が見えるエレベーター付近。
ターゲットには「黒マフラーに黒帽子」の格好をさせるらしいです。
さて、チャットでの三木殺しの打ち合わせ。こちらも決まりました。
日程と場所は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15日夜11時前。横浜そごう二階、外が見えるエレベーター付近。
「sakkyは三木に会った事有るんでしょ?念のため顔が分からない様に黒いマフラーと黒い帽子をしておいて。
あとね、三木にも同じ黒いマフラーに黒い帽子って格好させるから。その格好をしてる奴を狙って。
知り合いを殺すのに抵抗あるかもしれないけど・・・・・・・・・ごめんね。必ずお礼はするから、お願い。」
私は画面の前で大笑いしました。
凄い。凄い凄い凄い!!画面を何度も叩いてあげました。
荒木さん、アナタ悪魔よ。
何がイジメッコよ。何が傷を付けた奴を殺したい、よ。嘘嘘嘘。嘘ばっかり!!
最初から、私を殺すつもりだったのね。・・・・・・・sakkyを使って!!
いやいやそれだけじゃないわ。私も凶器を持っていきます。
死体の処理も何も・・・・相打ちになればいい、なんて思ってるんでしょ。
死体の処理なんかするつもり無いんでしょ。失敗しても自分は何もしないんでしょ!
11時前、sakkyはその場に潜んでる。11時過ぎ、私はターゲットを後ろから刺す。
って事は、11時過ぎ、ターゲットを探す私を、sakkyが、後ろから、グサリ。
お互いの姿を確認しても、それぞれが「ターゲット」の格好をしてる。・・・・・殺し合う。
失敗しても、sakkyはネットでの知り合い。ああ!杉崎先生が殺された時と同じ!
「ネットでの知り合い」sakkyは、「三木」を殺しても、「現実」では赤の他人。容疑者になりにくい!
そう言えば言ってたね。チャットでsakkyを「口説く」時、ネットの人を殺しても捕まらないって。
ああそうだ。それで納得したフリをして私は承諾したんだった。
アハ、そんなうまくいくと思う?だって、私がsakkyなのよ?
私にもsakkyにも殺してくれ殺してくれって。アナタ奥田を殺して殺し癖がついちゃったんでしょ。
気に入らない奴が殺せばいいなんで思ってるんでしょ。傷だって本当は何とも思ってないんでしょ。
本当は逆なんでしょ。顔傷つけられるだけで、人殺しはチャラになる。そう思ってるんでしょ!!
そうなんでしょ!答えなさいよ!チャットなんて暗い事やってないで、本当の事言いなさいよ!
画面から声を出しなさい!さぁ!そこにいるんでしょ!?文字だけじゃなく姿も現しなさい!!
その傷見せなさい!体中の傷をさらけ出しなさい!醜い!汚らわしい!私に見せないで!
虫!あなた虫にそっくりよ!最低!最悪!悪魔!死になさい!
アハハハハハハ!
1月14日(金) ハレェ
明日決行なのですがARAちゃんは弱気になって「sakky、本当にやってくれる?」なんて聞いてきたり
私が「頼まれた以上本気でやるよ。」と答えると「嫌なら言って。無理強いはしないから。」なんてほざいてるので
私は思わず「殺すって言ったら殺すの!」と叫んだら家族に聞かれた気がして恥ずかしくなって
チャットには「大丈夫。心配しないで。」と書いたらARAちゃんは「そう・・・・。」と答えるだけでした。
私はそんな荒木さんに腹が立って画面を殴ると手が痺れてますます腹が立ちました。
明日の11時にそごうに行ってもそこには私しかいませんsakkyも三木も私だから。
荒木さんは何時に登場するつもりなんでしょうか11時過ぎたら来るつもりなんでしょうか。
でも死体の処理なんかするつもりないんでしょうねだって荒木さんだもんするはずないわ絶対に。
かと言って私は約束を反故にはしません約束は守ります殺します殺さなくてはいけないんです。
あんな悪魔は殺すべきです生きていてはいけないんですだから殺します殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス
荒木さんを。
1月15日(土) ハ レ
燃えさかる荒木さんの家はとても輝いていました。
悪魔を消し去る聖火が空を赤く赤く染め上げます。
その神々しさはとてもとても素敵でした。
いつまでも見ていたかったけど、時間が迫ってたので行きました。
11時ぴったり。横浜そごう二階、外が見えるエレベーター付近。
なんとか間に合いました。黒い帽子に黒いマフラー。言われた通りの格好で行きました。
エレベーターの横に歩いていきました。柱に誰かがもたれてました。
黒い帽子に黒いマフラー。ターゲットです。殺さなくてはいけません。
ナイフを取り出し、刺しました。カツンと音がして手が痺れました。
私でした。
ガラスに私の姿が映ってるだけでした。
誰も来るはずないんです。私以外、誰も。誰も、来ませんでした。
そばに座ってるカップルが変な目で見てます。カップルは何組もいます。男一人ってのもいます。
みんな見てました。そして私は笑いました。
こんな所で、人を殺せるわけないじゃない!
みんなに見られる所でそんな事はできません。荒木さんの目は節穴です。
こんな人が多い所を場所に指定するなんて!
私は荒木さんのあまりの無能ぶりに大笑いしました。
カップルが逃げていきます。男が一人、ずっとこっちを見てます。
今度は私が逃げました。笑いながら走りました。
荒木さん。可笑しいです。笑わずにはいられません。
燃えちゃってやんの。死んじゃってやんの。
熱かった?苦しかった?でも仕方ないのよ?
あなたが、バカだから!
家に帰るとお父さんに怒られました。受験生がこんな遅くに遊びにいくんじゃないだって。
お母さんも怒ってました。お兄ちゃんも怒ってました。弟も怒ってました。
私は誰とも目を合わせませんでした。何の感情も込めずに謝りました。
部屋で一人になると、また笑いが込み上げてきました。
ずっとクスクス笑ってます。家族には聞こえないように、
ひっそりと・・・・
笑ぃ
********
1月16日(日) a
差出人 "ARA"
日付 2000/01/15 16:27
件名 sakky改め美希ちゃんへ
荒木です。このメールを見る頃にはもう「計画」は終わってると思います。
成果はどうだったかな?今から少し心配でいます。
さて、まずはお礼を言わなくちゃね。ありがとう。
私の下らないネタに付き合ってもらって。
美希ちゃんはどこから気付いてた?sakkyに「三木」殺しの依頼をした時から?
それともまさか、本気で信じちゃって・・・・・なんてね。
それは無いよね。ネットで知り合って間もない「sakky」に殺人依頼なんて普通じゃないもんね。
私は「sakky」が依頼を承諾してくれた時点ではっきりわかりました。
美希ちゃんは、敢えて私のネタに付き合ってくれてるんだって。
何も言わないで付き合ってくれて、本当にありがとう。
実際に会って別の殺人計画を立てたけど、こっちはどう?本気だと思った?
フフ。ネットでの殺人計画と噛み合いすぎてるから、気付かないはずないよね。
sakkyが美希ちゃんな事は割と早い段階で気付いてました。
じゃあ何故すぐに言わなかったかって?
それは「殺人計画」に関係してくるんだけど・・・・・
実はね、このメールを書いたのはちゃんとその説明をしなきゃって思ったからなの。
そもそもこの殺人計画はね、美希ちゃん。あなたを脅かしたかったの。
私が怒ってる事を表現したかったんだけど・・・認めます。要はイタズラです。
なんでそんな意地悪したくなったのか?
疑問に思うかもしれないけど・・・・・これは美希ちゃん。あなたのせいでもあるのよ。
久々に会った時、あなたはどんな顔した?私の傷を見て、とってもイヤな顔したでしょ。
確かに美希ちゃんとは過去にちょっとした事があったけど、私はもう昔なんかどうでも良かった。
傷も気にしてはいたけど、友達なら受け入れてくれると思った。
なのにあなたは・・・それから何回も、会うたびに嫌な顔したよね。
口に出さなくても、そーゆーのって雰囲気でわかっちゃうんだよ。
でね、心も傷ついちゃった私は・・・・もうそんな長い説明はいらないよね。
「殺人」なんて大層な計画立てて。sakkyが美希ちゃんだって知っててわざと・・・・
あなたを酷く書いたりして・・・・・・。
だけどね。私はその後すごく後悔したの。
せっかく出迎えてくれた友達を、自分の手でまた突き放すなんて・・・・。
私には感情が高ぶると、ついやり過ぎちゃう癖があるみたい。
ごめんね美希ちゃん。反省してます。
だから私、今日の夜11時。そごうに行きます。あなたに謝りに。
また昔みたいに、仲良くしようよ。
美希ちゃんは来るかな?誰も殺されない殺人計画。これに最後まで付き合ってくれる?
私は来てくれると信じてます。だって計画では私も行く事になってるでしょ?
最後まで、このネタを見届けてくれるよね?
私がそこで何をするつもりなのか、気になっているんじゃない?
話し合おう、よ。
二人の和解。それがこの計画の真の目的なんだから・・・・。
ごめんね。こんなに長々と書いちゃって。
このメールを読んでる美希ちゃん、もう計画は済んだ?
私はあなたとうまく話し合えてた?
ちゃんと、仲直りできた?
できてる・・・よね。
それでは、「計画」の成功を信じて・・・・
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→第1部<追撃編>
第2章「鎖」