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希望世界 オレの日記

第一部<追撃編>
第二章「鎖」


第五週「新参」

1月17日(月) 雨
荒木が死んだ。家ごと燃えたらしい。
いつの間に戻ってきてたのか。荒木の家が燃えたとの知らせを聞いた時、俺は恐ろしさのあまり耳を塞いだ。
奥田。虫。杉崎。そして・・・・荒木。
虫の呪いはまだ続いているのか。だとしたら、次は誰だ?それに、あの「希望の世界」は?
センター組は学校に来てそれぞれの結果を報告し合ってた。
就職組や俺のような私立組は来たり来なかったり。渡部が来てないのが気になった。
次に呪われる候補には渡部も考えられる。それと、俺か。
かつての奥田組。これもまた呪いの対象になるのか・・・。

この呪いは「希望の世界」に関係あるんだろうか。
奥田に教えてもらって以来、ずっとROMってきた「希望の世界」。
仲間内でパソコンを持ってるのは奥田と俺だけだった。奥田は面白いページだから、と勧めてたな。
確かに面白かった。洒落にならないくらい。目が離せなかった。
杉崎の名前が出てきた時は死ぬほど驚いた。ネットでの殺人依頼が、本当に殺された。
ちょい前までは特に何もなかったのに、最近またおかしくなり始めた。
「三木」を殺す計画があるとか。
あれはもう一昨日の事か・・・・。夜11時。横浜そごうエレベーター前。
壁により掛かり、煙草を吸いながら待ってた。寒くて自販機で紅茶を買ってすすってた。
そしたら本当に来やがった。黒い帽子に黒いマフラー。顔は隠れててよく見えない。
意味不明の行動。周りのカップルは逃げていった。俺はしばらく見ていたが、奴も走って逃げてった。
あれが・・・・sakky?結局あそこでは誰も殺されはしなかった。でも荒木は死んだ。
あの「ARA」、名前から言ってもしかして荒木なのかもしれない。
虫の呪いと「希望の世界」。何か繋がりがあるかもしれない。
今までずっとROMってたコトで存在を隠し続けてきたが、いい加減そうも言ってられなくなってきた。
ついに掲示板に書き込んだ。さすがに本名の川口では書けなかった。

ハンドルネーム「ROMマニア」
「今まで黙ってROMってたけど、これは書かずにはいられないね。
15日の夜、俺もそごうに行ったよ。で、sakky見たよ。本当に黒い帽子に黒いマフラーだったね。
それよりさ。sakky、三木じゃなくてARAを殺したんでしょ。家燃やしたんじゃないの?」

ハッタリだ。しかし何かしらの反応はあるはず。
もし本当に「希望の世界」と虫の呪いに関係があるのなら、俺も無事でいられるかわからない。
何が起こるかわからない。ただ、あの荒木がここで殺されたのだとしたら、俺は・・・・。

来るべき事態に備え、ここに日記として俺の記録を残しておく。


1月18日(火) 晴
「希望の世界」
ARAは生きていた。平然と「ROMマニアさん!勝手に私を殺さないで下さい!」と書いてる。
sakkyも「あなた誰です?どうやってここを見つけたんですか!?」と書いて
さらには三木までもが「ROMなんてヤラシイ!見てるんならちゃんと書き込みなさいよね。」と。
俺の勘は間違ってた?いやでも荒木は実際死んでるわけだし・・・。
もう少し様子を見た方がいいかもしれない。
どうやって見つけたのかって・・・・そう言えば以前勝手に消えた時が有ったな。
俺もあれで全てが終わったかと思ってたのに。
何処ぞの掲示板で復活が宣伝されてたんだった。ま、これは書き込む必要無いだろう。
「sakky。ARA。俺はあんた達のチャットもしっかりROMってたんだぜ。
三木を殺す計画だって?良かったらログアップしてやろうか?三木。あんたあの二人に嫌われてるよ。」
また脅しだ。なんだか虫をいじめてた頃の勢いが戻ってきた気がする。
だがやりすぎるとまた・・・後悔する羽目に・・・・荒木・・・・
虫の呪い、か。虫だけの呪いならまだ救いようはある。ターゲットは俺だけじゃないはずだから。
しかし虫が死んだのは奥田の呪いだ。死んだヤツが誰かを呪う。
だとしたら、今回死んだ荒木が呪うのは・・・・俺。あんな事しなければ良かった・・・
呪いを防ぐにはやはり「希望の世界」との因果関係を確かめないと。
絶対、繋がりはある。それさえ分かれば対策の立てようはある。
俺は生き残れる。


1月19日(水) 雨
かつての奥田組に声をかけて回った。荒木が死んだのは虫の呪いのせいじゃないか?と。
みんな答えは同じだった。「知るか。そんなのもう忘れようぜ。」
奥田が死んで以来、皆ビビってた。俺もだった。
虫へのイジメ。荒木へのイジメ。やましい事が多すぎた。
思い返すと、俺も含め、仲間はみんな奥田の後ろについて回ってるだけだった。
大将が殺されると・・・・その後は何もできなかった。大将がいなきゃ、何もできない。
荒木が捕まった時、俺達は心底ホっとした。もう大丈夫。もう復讐はされない。
そして渡部をイジメた。誰が始めたのでもなく。自然にイジメは発生した。
常に誰かの優位に立ってないと安心できなかった。
渡部は「荒木を売った」として格好のターゲットになった。イジメても誰も文句は言わなかった。
それまでは奥田が「強者」の立場を確保してくれてた。俺達はそれにすがってた。
それがもうできなくなっていた。だから自分で築くしかなかった。
だがそれも杉崎の死で崩れてしまった。
あの先公が死んだと聞いた時・・・・俺が言い出したんだ。
「もう、止めようぜ。洒落になんねぇ。」
皆頷いた。これでイジメは終わった。みんな、「呪い」を恐れ、大人しくなった。
・・・・俺もここでみんなと同じ様に終わってしまいたかった。
「希望の世界」。ここに杉崎の名前が出て来なければ、何も知らずに終われたのに・・・。
俺だけ続いてる。
その「希望の世界」が今、荒れ始めている。ずっとROMってた俺が書き込んだ事で。
ARAも三木も書き込んでいない。
sakkyが「ROMマニアさん。あなたは誰なんですか!?」と書いてるだけだった。
俺が知りたいよ。sakky、お前は誰なんだ?
俺が知ってる奴なのか?それとも、遠く離れた赤の他人なのか?
ARAは?三木は?ちょっと前に居た渚は?K.アザミは?カイザー・ソゼは?今は無きNSCは?
向こう側で、何が起こってる?
チャットのログを本当に持ってればアップしてやったんだけどな・・・。
「俺が誰とかはどうでもいいんだよ。三木殺し計画なんかもな。ハッキリ言ってどうでもいいんだよ。
荒木。この名前知ってるか?決行日に死んだ女だ。偶然なんて言うなよ?俺はsakkyを見てるんだぜ?」
荒木・・・・すまない。お前の名前を使った。
ああ。本当に死んでしまったのか?俺はお前に言いたい・・・
女々しい。今更何言っても無駄だ。


1月20日(木) 曇
渡部は相変わらず学校に来てない。気になる。
学校の外にはもうパトカーは来なくなってる。放火犯はもう捕まったんだろうか。
それとも本当に事故だったのか。「希望の世界」と荒木は関係なかったんだろうか。
昨日のカキコに対するレスはなかった。三人とも一斉に口を閉ざしている。
ネットでこれをやられると何もできない。何とか奴等の口を割らないと。
いつか現実世界に引きずり出してやる。
荒木・・・・。燃えてしまった。家族だっていただろうに。無念だったろうな。
俺も弟や両親とは決して仲が良いとは言えないが、それでもみんな一緒に燃えちまうのはゴメンだ。
放火か、事故か。俺にはそれすらわからない。
ただ、「希望の世界」と荒木は何か繋がりがあるはずだ。
何もなければすぐに否定するはず。だが奴等は沈黙のまま。何か、あるからだろ?
sakky、ARA、三木。・・・・・三木も気になる所がある。
あいつはなんで他の2人に嫌われたんだ?ROMってた限りじゃ特に悪い奴では無かったのに。
ARAも何なんだ。荒木に名前が似てるのに関係が?sakkyなんて何のつかみ所が無い。
しばらくあの三人のコトを色々考えてると、ある仮定が浮かび上がってきた。
荒木が「希望の世界」に関係あることを前提にして、今の状況を見る。
そごうに現れた黒帽子に黒マフラー。sakkyはこの格好で来ると書いてた。
いや、sakkyだけじゃない。確か三木にもその格好をさせると書いてたよな?
だが現れたのは一人。死体処理に来るはずのARAも顔を見せてない(カップルに混じってなければ)。
来るべき者が来なかった。・・・・・来れなかったのかも。
もう、その時点では死んでいたから。荒木は、あの三人のうちの誰かだった・・・・・・?
この考えは飛躍し過ぎだろうか。でも俺にはそう思えてならない。
今「希望の世界」に居る三人。一人は、騙りだ。
死んだ荒木を騙ってる。荒木が関係しているのだとしたら、そうゆう事になる。
けど三人居て一人はあの黒衣装、一人は荒木だとしたら、もう一人は・・・?
ああもうワケがわかんねぇ。とりあえず誰か騙ってないか調べる必要はありそうだ。
どっかでその方法を聞いた気がするが・・・。


1月21日(金) 晴
色々回ってようやく理解できた。串。これで騙ったりするんだな。
掲示板には今日もカキコが無い。とりあえず今までの発言のソースを調べてみた。
一応三人の串は違ってる。でも、どう見ても串だ。ナマじゃない。
しかしすぐに違いが見つかった。・・・・震えた。
ARAだ。
ARAが登場した時の串と、荒木が死んだ後に書き込まれたARAは串が違ってる。
やっぱり・・・か。やっぱりARAは荒木で、何かのトラブルに巻き込まれたのか?
sakkyか、三木か、それとも2人ぐるになって・・・・荒木の家を燃やしたのか。
まだ断定はできないが、その可能性、増してきたな。
虫の呪いと「希望の世界」は繋がっている。さて、それをどう暴く?
荒木の名前を出しただけで奴等は無視を決め込んでいる。
無視させない。無視できないような事、何かあるか?
今日仕入れた知識をフル動員して考えてみた。騙り。煽り。串。自作自演。ネタ・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺も、騙るか?
ただ名前を騙っただけじゃすぐにバレる。なら・・・・串ごと騙ればイイ。
騙って有効なのは、旧ARAだ。現ARAは騙り。そこに「死んだ」ホンモノが登場すれば焦るだろうな。
sakkyか三木か。奴等は串騙りは思いつかなかったのか?
意外と気付かないかもしれないな。返って俺のように勉強したての方が思いつき易いんじゃないかな。
問題は、旧ARAの串が騙れるかどうかだ。
確かポートは8080と80が多いんだった。これでソースから串ごとパクればオッケーだ。
旧ARAの串は「yellow.javanet.com」。とりあえずポート8080で打ってみる。
・・・・表示されません。駄目か。ならポート80だ。
・・・・・・・・・・「希望の世界」。出た!良し。これで騙れる!串なんて分かっちまえば大した事ねぇな。
要は発想か。簡単な操作で出来る分、その活用は自分次第。
さぁ、何を書くか。荒木が死んだのにそれを隠そうとARAが生きてるフリをしてる奴等に。
思いついたぞ。
「勝手に私を殺さないで下さい、ね。確かにその通り。勝手に私を燃やさないで。

                               呪ってやる。」
これを旧ARAの串で、ARAの名前で書き込んだ。
一瞬騙りだって思うだろうが無視できないはず。奴等は串を刺している。
当然確認の為にソースを見る。本物だって思い知らされる。
後は串騙りであることを見破られない事を祈るだけだ。
ま、今までそんな方法気付かなかったんだから大丈夫だろうな。
荒木。またお前の名前を使った。


1月22日(土) 曇
なんて事なくsakkyと三木の串も騙ってみたら、見事にうまく表示された。
そこで初めて気が付いた。sakkyも、三木も、串を変えてるだけの、同一人物?
そしてARAも・・・・。旧ARAまでも同一人物なのか?
そうだとしたら、俺がやったのは意味が無くなる。
いや旧ARAまでは同一人物では無いだろう。もし同じなら、串もそのまま使えばいいはず。
わざわざ串を変える必要は無い。なら、串ごと騙るのを思いつかなかっただけだ。
大丈夫。俺の戦略は間違ってない。
そう思いながら「希望の世界」に繋いでみた。反応は・・・・・・。
これは・・・どう判断していいのか分からない。
串はsakkyのだ。ならこいつはsakkyだよな?何がしたいんだ?
名前。題名。発言内容。いやHPアドレスにもか。全てに一つずつ「a」が打ち込まれてる。

********
「a」
投稿者:a
投稿日:01月23日(日)00時12分25秒

a

http://a
********

・・・・何が言いたいんだコイツは。反応はしてるからとりあえず見てはいる、と。
こんな意味不明な返事が返ってくるとは思わなかった。不可解。
俺は・・・どうすればいい?まだ様子見ておくか?


1月23日(日) 雨
夢を見た。奥田が死んだあの日から、何度も見た夢だ。
荒木が押さえつけられている。奥田が覆い被さっている。
俺はデジカメを持っていた。奥田と荒木を写していた。
仲間はみんな引いていた。奥田、それはやり過ぎだろ・・・。それでも皆逆らえず、荒木を押さえつけている。
荒木は泣いていた。奥田は笑っていた。他の仲間が青ざめてる中、俺は・・・・・
・・・・・・・興奮していた。
目隠しされれて陵辱を受ける荒木。口も押さえられ、悲痛な呻きが漏れていた。
目隠ししてる・・・・。目隠ししてる・・・・。目隠ししてる・・・・・。
奥田が果てた。それを見て俺は奥田にそっと耳打ちする。
止めろ。それを言うな。一生後悔するぞ。一時の欲望で人生を棒に振るな!
俺の意志とは裏腹に、俺は勝手に喋っていた。
止めろ!止めてくれ!頼むから・・・・・・・・・・・・・・言うな・・・・・・・・・・・・イ・・・ウ・・・・ナ・・・・
「なぁ、俺にもヤラせてくれよ。」
言ってしまった。ニヤリと笑って場所を譲る奥田。
奥田にデジカメを渡した。ニヤニヤしながら自分の記録を見ている。
今、新しく撮られる事はない。荒木は目隠し。バレない。俺だとバレない。
俺も・・・荒木に覆い被さった。途端に背筋に悪寒が走る。
何だ?周りを見る。仲間の視線?違う。皆は奥田の時と同じように、ただ黙って荒木を押さえつけてるだけだ。
奥田?いや違う。奥田は相変わらずデジカメの記録を見て笑ってる。
ふと荒木の顔を見た。思わず悲鳴をあげた。
鬼の形相だった。歯を食いしばり、目を真っ赤にして睨み付けてくる。
目隠しが外れてた。ギリギリと歯ぎしりの音が響く。凄まじい視線で俺を射抜く。
振り返ると奥田がバラバラになっていた。
視線を荒木に戻すと、仲間は誰もいなかった。荒木が、俺を睨んでいる。
俺はまた悲鳴を上げた・・・・。

ここでいつも目が覚める。そして何度も自分に言い聞かせる。
大丈夫。ちゃんと目隠しはしてあった。現実では、口も押さえつけられ、目隠しも、してあった。
夢だ。あれは夢なんだ。夢でしか無いんだ・・・・。
そう納得した後は、必ず荒木に謝罪する。
ごめん。荒木。ごめんなさい。本当に、すまなかった。悪かった。俺が、悪かった。
決して許されないことは分かってた。それでも、謝らずにはいられなかった。

「希望の世界」は壊れていた。
繋いだ途端、あの夢の中と同じ感覚に包まれた。背筋に悪寒が走った。
昨日の「a」。あれに意味なんてありゃしなかったんだ。
俺はとんでもない事に手を出してしまったんだ。
掲示板。狂ったように「a」で埋められていた。投稿者も内容もアドレスにまで。
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa・・・・・・・・・・・・・
それだけじゃない。「私の日記」までもが「aaaa」で埋められている。
前の分まではマトモに書かれてた。だが今日久々の更新となったのが・・・・・これか。

1aa23aa(aa) aaa

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
aaaaaaaaaaaaaaaa aaaaaaaaaaaaaaaaaa
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa aaaaaaaaa
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
aaaaaaaaaaaa aaaaaaaaaaa
aaaaaaaa

壊れてる。これを書いたsakky。完全に壊れてる。
俺が・・・・・壊したのか?俺が荒木を騙ったせいで、sakkyは壊れてしまったのか?
やっぱり荒木を殺したのはsakkyだ。しかしこれじゃぁ・・・・壊れちまっては・・・・どうすればいいんだ。
呪われてる。sakkyは呪われてる。俺も、呪われた。



第六週「裏道」
1月24日(月) 晴
弟が妙な事を言い始めた。俺が以前教えてやったウチの高校の呪い。
「兄貴のガッコってさぁ。前になんか呪い話があったじゃん。」
俺と同じ高校を受験しようとしてたからちょっとビビらせるつもりで喋ったんだった。
適当に「そんなこともあったなぁ。」と言っておいた。
「それでさぁ。俺の友達に、兄貴の高校受けようとしてる奴がいたんだけど・・・・。」
なぜか口ごもった。少し気になって「何だよ。そいつがどうかしたのかよ。」と聞いてみた。
「そいつ・・・・行方不明になっちまったんだ。」
一瞬死んだのかと思ったが、そうではなかったらしい。安心した。が、話は終わらなかった。
「それがさぁ。これ、噂なんだけど・・・・そいつ、なんか狂っちゃったらしいんだよ。」
狂った?と俺は聞き返した。話が変な方向に向かってる。
「なんかさぁ。精神病院に通ってたらしいんだ。そんで入院したまま・・・・消えちまった。」
何だよそれ。それがどうかしたのかよ。
「最近学校来てないから変だな、とは思ったんだよ。そんでさ、来なくなるちょっと前にさぁ。
そいつに・・・呪いの話をしたんだよ・・・・。兄貴の高校受験するって聞いたから・・・・・。」
何が言いたい。
「もしかして、これも呪いに関係あるのかなぁって思って・・・・そんだけ。」
俺は今その呪いの中にいるんだぞ。ビビらせるなよ!心の中で叫んだ。
ふと、なんとなく気になって、ちょっとした質問をしてみた。
「そいつ、インターネットやってたか?」
弟は変な顔をした。それが何か関係あるの?といった表情だった。
「インターネット。やってたか聞いてないか?」もう一度聞いた。
「何で?あ、いや、やってたよ。そう言えば昔何か自慢してた。なんだっけな?ちょっと待って、今思い出す。」
やってたよ、の言葉が頭に響いた。とても嫌な気分になる。まさか・・・
まさかそいつも「希望の世界」に関係してないだろうな。そんな偶然あってたまるか。あっちゃならねぇ。
「あ、思い出した。『俺、ネットの中じゃ帝王なんだぜ』とか吹いてたよ。」
帝王?何だソレは。疑問に思うと同時に安心もした。良かった。「希望の世界」とは関係ない・・・。
「それがどうかしたの?ネットがその呪いに何か関係あんの?ねぇ。」
あるかもしれない・・・と呟いた。すると弟は面白がり始めた。
「マジで?俺ちょっとみんなに聞いてみるよ。そいつ他にも何か言ってなかったか。
今度さ、俺にも呪いの詳しい話教えてな。うまくいけばそいつ何処にいったのかわかるかも。」
捲し立てられた俺は、ただ曖昧に頷いてるだけだった。

「希望の世界」は今日も壊れてる。「a」で埋められているだけ。
行方不明になった中学生。
関係ない。ウチの学校を受けるだけで呪われるワケがない・・・はずだよな。


1月25日(火) 雪
弟が大はしゃぎしていた。
「兄貴!昨日の奴さぁ、結構ネットの中じゃ大物だったらしいんだよ!」
大物?どうゆう事だよ。聞き返した。
「俺ネットの事よくわかんないけど・・・。なんか凄いホームページ持ってたんだって。
犯罪スレスレのヤバイヤツだって聞いたんだけど、詳しくはみんな知らなかった。かなり前の事だったし。」
ヤバイヤツかぁ。見てみてぇな、それ。アドレスを聞いたが、弟は知らなかった。
ひとまずそいつが「希望の世界」を作ってるわけではない事が分かった。良し。
一見マトモそうだし、な。「希望の世界」は。今日も「a」ばっかりだった。壊れっぱなし。
そいつは呪いとは関係なく消えただけか。行方不明ってのも怪しいけどな。
安心した俺は部屋に戻ろうとした。・・・・この時すぐに戻ってれば良かったんだ。
別に知りたかったわけでもない。自然の流れだった。何の意味もない。何の意図も無い。
いつまでも「そいつ」ってのもなぁ、と思って、ふと出た言葉だった。
「ところでさぁ。そいつの名前、何?」
弟はすぐに答えた。
「名前?風見ってヤツだけど。」
ああそう、と答えて特に気にせず部屋に戻った。
部屋に入り、ドアを閉める。バタン、という音と共に、頭の中で一陣の風が吹いた。
風見。風見。風見。カザミ。カザミカザミカザミカザミKAZAMIKAZAMIKAZAMI
K.AZAMI。
小さく悲鳴をあげた。なんだよそれ。なんでその名前が出て来るんだよ。
K.アザミって・・・・居た。確かに、少し前まで居た。
弟の言葉を反芻する。凄いホームページ持ってた。犯罪スレスレのヤバイヤツ。かなり前の事だった。
「希望の世界」の歴史を思い返す。引っ越す前。どうして引っ越したんだったか・・・・。
NSCか。犯罪スレスレ。ネットストーキング。馬鹿な。違う。違うページだ!
考えると他の色々な事が繋がっていきそうだった。こじつけてしまいそうだった。
違う。俺はビビってるだけだ。無理に繋げて考えてるだけだ。
落ち着いてから冷静に考え直そう。今はダメだ。


1月26日(水) 晴
とにかく風見なる人間について知りたかった。弟はかなり乗り気になっていた。
「風見が行方不明になった理由がわかるかもしんないの?マジで?俺超協力するよ。」
今度家まで行って来るとまで言っていた。風見については弟に任せておこう。
俺はネット内の事を調べた。K.アザミがどんな事を書いてたか。
すぐに思い当たって、俺はまた頭を抱えた。
K.アザミが居た頃だった。掲示板で「渚」がどっかの病院名を書き込んでいた。
「サキはここにいます。」みたいな感じだったな。あれは・・・10月中旬ごろだったか?
そして・・・・カイザー・ソゼだ。「会いに行く。」と書いてた気もする。
へぇ、と思って見てただけだったから、記憶が曖昧だ。畜生。もっと真面目に見ておけば良かった。
掲示板のログはもう流れてしまってる。「a」のせいだ。もう何処の病院かわからない。
風見は精神病院に通ってた。掲示板に書かれた病院。サキは・・・・sakky・・・か?
それに三木とカイザー・ソゼ。ああ、ここまでくるとこじつけずにはいられない。
自称帝王の風見。カイザー・ソゼ。NSCのメンバーだったヤツだ。
カイザー=帝王。また・・・繋がった。
もう無視できない。風見は、なんかしら「希望の世界」に関係してた。
それで、どうして行方不明に?三木か?それともsakkyか?
あるいは、三木=sakkyの何者か、が?


1月27日(木) 曇
「希望の世界」で「ROMマニア」として脅しをかけてみた。
「カイザー・ソゼ=K.アザミ=風見って事か。それもsakkyが手ぇ出したのか?
酷いヤツだなお前は。あいつはまだ中坊だぜ?荒木まで殺してなぁ。
俺が何者か知りたいか?会う勇気が有るなら名乗りでな。考えといてやるよ。」
「a」で埋もれる掲示板の中に、初めて意味有る文が書き込まれた。
どうだ。コレでも黙っていられるか。壊れたままでいられるか。
荒木と風見。これで二人の実名が出た。以前の杉崎の時も名前が出た。
虫の呪い、荒木の呪い、奥田の呪い・・・・・・。
いや違う。呪いと「希望の世界」は鎖でガッチリ繋がってる。
これはもう、呪いじゃない。「希望の世界」の誰かの意図が働いてるんだ。
俺は久々に武者震いをした。相手は呪いなんかじゃない。人間だ。
ネットを駆使して人を消す、歴とした人間だ。
荒木は「誰か」に燃やされて、風見も「誰か」に消された。
風見は何処に消えたんだ?連れ去られたか、あるいは。
精神病院に入院してた。狂ったって自分から消えたのか。
誰がそんなに追い詰めた。
sakky。三木。この二人は引っ越す前から、風見が消える前も、荒木が死んだ時にも居た。
病院にいるってのはサキだった。サキ。これがsakkyの本名か。
俺を「呪う」のか。いや、俺が「呪い」の中に身を投じようとしてるんだ。
コイツと関わったら、虫、杉崎、荒木、風見、もしかしたら奥田も・・・・こいつらの様になるのか。
もう引けネェ。ここまで来たら。サキ。俺をどうする。どうしてくれるんだ。


1月28日(金) 晴
「a」が収まった。
俺の書き込みの後もしばらく続いていたが、「sakky」のカキコからピッタリ止まっている。
sakkyの書き込みは・・・・これはどう判断すべきか?
ただ一言、「会う。」と・・・・。
驚いたのは、串を刺してなかったコトだ。どう見てもナマIPだ。さて、どう見るか。
何かを意図して書いたのか。それとも本当に、俺に会うつもりなのか。
あっちも、俺に会いたがっている?
そうか。そうだな。突然現れたROMマニア。さぞかし戸惑ってるコトだろう。
お互い正体を知りたいってワケだ。
良し。こうなりゃ話は早い。直接会って、真実を確かめ合おうじゃないか。
「30日の日曜日午後1時。横浜駅西口東横線改札前な。目印は、ベルだ。」
俺はこう書き込んでおいた。
以前のゲリラオフ会。俺は改札前にちゃんといた。ベルは、持たずに。しかし誰も来なかった。
見渡してもベルを持ったヤツは居なかった。だが今度こそは。
ベルは買っていく。だが見せたままでは待たない。
ベルを持ったヤツに話しかけ、そこでベルを見せればイイだろう。
sakky。こんなに早くお目にかかれるコトになるとは思わなかった。
荒木のコト。風見のコト。そして「希望の世界」のコト。聞かせてもらおうか。


1月29日(土) 曇
何故か再び「a」で埋められている。まぁいい。どうせ明日に会うんだから。
弟は「新情報!」と張り切っていた。
「風見の家行ってきたよ!母親にも会った。『心配になって様子見に来ました』っ言ってね。
そたらさぁ。なんか行方不明になったのは病院でらしいんだよ。入院中居なくなったんだって。
病院側は院内の何処かに居るはずだって言ってたんだって。親は詳しいコトは分からないって言ってた。」
それから弟は付け加えた。
「俺さぁ。何も考えず『風見君狂ってたんですか?』って聞いたんだぁ。したらすっげぇ怒られた。
『ウチの子はマトモです!』だって。ちょっと聞き方まずかったなぁ。」
それはどうでもいいさ。風見のコトは引き続き弟に任せた。
俺は、「希望の世界」の方をどうにかしなきゃな。

「a」で埋もれた掲示板。見てるこっちも狂ってきそうだ。
目をつぶると例の夢が思い浮かんだ。背筋が凍る荒木の視線。
明日。誰が来るんだ。もしかしたら荒木が来るかもしれない。
sakky。三木。ARA。荒木。荒木・・・・・。
あの夢は頭から決して離れない。いつも同じセリフ。同じ行動。同じ感情。
「なぁ、俺にもヤラせてくれよ。」
ニヤリと笑って場所を譲る奥田。
荒木に覆い被さる俺。途端に背筋に悪寒が走る。
荒木の顔を見る。思わず悲鳴をあげる。
鬼の形相だった。歯を食いしばり、目を真っ赤にして睨み付けてくる。
目隠しが外れてた。ギリギリと歯ぎしりの音が響く。凄まじい視線で俺を射抜く。
振り返ると奥田がバラバラになっていた。
視線を荒木に戻すと、仲間は誰もいなかった。荒木が、俺を睨んでいる。
俺はまた悲鳴を上げた。・・・・・・・・・喜びの声だ。
背筋が凍る荒木の視線。
それが、たまらなく心地イイ。

気がつくと俺は自慰にふけってた。いつも見るあの夢。必ず夢精する夢。
悲鳴と共に射精する。目覚めるタイミングはいつも変わらない。
現実ではちゃんと目隠しがしてあった。夢だ。あれは夢なんだ。夢でしか無いんだ・・・・。
そう納得した後は、必ず荒木に謝罪する。
ごめん。荒木。ごめんなさい。本当に、すまなかった。悪かった。俺が、悪かった。
決して許されないことは分かってた。それでも、謝らずにはいられなかった。
謝りながら、自分を慰める。

あの時奥田に言われた。荒木に酷いことをしてた時。
俺は腰を振りながら謝罪の言葉を繰り返していた。ごめん。すまない。許してくれ。
現実でも目隠しが外れてて欲しかった。睨んで欲しかった。あの夢は、俺の願望か。
謝るたびに興奮が高まった。奥田が耳元で囁いた。
「お前、変態だよ。」
奥田ほどじゃねぇサ。俺は心の中で呟いた。

明日が楽しみだ。


1月30日(日) 晴
約束の時間よりも少し早めに行っておいた。
ベルは後見せだからな。こっちが早く行っとかないと、見失う。
ハンズから直行して改札前には30分も前についた。ざっと見渡した所、ベルを持ったヤツは居なかった。
少し待つことになるか。そう思って壁にもたれかかっていた。
それから何分経ったか・・・・。ベルの音が聞こえてきたのは。
チリリ・・・と軽い音色が響く。周りは特に気にしてないようだった。
俺のようにベルの音が聞こえないかと耳を澄ましてない限り、聞こえないほど小さな音だった。
音の出所を探す。ふと時計を見た。まだ20分前だが、来てもおかしくない。
周りを何度も見渡した。再び音が聞こえる。何処だ。何処から・・・・。
そいつは、丁度向かい側にいた。右手にベルを持って、チリリと鳴らす。
鳴らす毎にキョロキョロと周りを見ている。俺と目が合った。・・・のだと思う。そいつはサングラスをしていた。
俺もベルを取り出し、チリリと鳴らしてみた。そいつも鳴らした。
真っ黒なサングラスに洒落た帽子をかぶっている。あまり表情が分からない。
突然、ベルを片手にそいつが走り出した。俺の横を通り抜ける形になった。
俺もつられて走り出した。なぜ逃げる!走りながら考えた。
西口をモアーズ方面に駆けていく。人混みが多くてスピードは出ない。俺も同じだった。
道はどんどん狭くなっていった。寂しげな所に着いた。
工事中の角を曲がった所で、そいつは待っていた。
俺も足を止め、そいつと向かい合った。

「アナタが、ROMマニアさんですね。」
俺は頷いた。「sakkyか?」とすぐに返した。
「一応、そうですと答えます。」
わけのわからないコトを言う。「どーゆー事だ。」と聞き返した。
「僕もsakkyだった、とでも言いましょうか。・・・まぁ詳しい話は後にしましょう。
とりあえず、お互い何者なのかはっきりさせましょう。」
そうだ。お前は一体、誰なんだ?
そいつは少し息をついてから、言った。
「僕が、風見です。」
思わず「はぁ!?」と言ってしまった。風見。風見はだって・・・「行方不明じゃなかったのか!?」
言ってみてから、改めて風見の姿を見てみた。俺が何か言おうとすると、風見は自分の口に人差し指を置いた。
「言わないで下さい。」
それから風見はサングラスを外し、服を腹の部分だけ捲り上げた。・・・・・傷跡。
「死ぬ思いをしましてね。」
俺はそれ以上何も聞けなかった。言えなかった。
きっと、俺には想像もできない様なコトがあったのだろう。
それから俺達はその場で少し話し込んだ。
俺のコト。虫の呪いのコト。「希望の世界」のコト。荒木のコト。・・風見は荒木を知っていた。後は弟のコト。
「あいつには言わないで下さい。病院からこうして抜け出してる身なんで・・・見つかるとマズイんですよ。」
結局、風見は俺とほとんど同じ立場だった。ヤツも、sakkyを探している。
ただ、風見には見当がついてるのだという。聞きたかったが「確証が無いから言えない。」と頑なに拒否された。
あまり人前に長くいると見つかるから、と言って風見はすぐに帰っていった。消えた、と言うべきか・・。
メアドを交換し、「何かわかったらメールしますよ。」と言い残していた。

家に帰ってから、今の状況を整理するのが大変だった。約束通り弟には風見のコトは言わなかった。
それにしても・・・・実によくわからない。sakkyも謎だらけなら、風見も謎だらけだ。でも風見は存在してる。
素直にROMってた方が、よっぽど楽だった。ややこしすぎる。



第七週「到達」
1月31日(月) 晴
荒木のコトを想った。風見がsakkyなら、荒木を燃やしたのは誰なんだ。
やはり風見の言う「もう一人のsakky」か。それが、わからない。
あの黒装束は風見じゃない。・・・なかったと思う。それすらあやふやになってきた。
風見くらいの背格好なら、それもあり得る。結局顔は見えず仕舞いだったからよくわからねぇが。
あの日に荒木の家は燃やされた。
燃える荒木の姿を想像する。黒装束が家に火を放つ。
あの荒木が燃える・・・・どんな顔をして苦しんだんだろうか。どんな悲鳴をあげたんだろうか。
胸が痛む。せつなくきゅっと引き締まる。奥田の声が聞こえた気がした。「ソレが気持ちイイんだろ?」
その通りだよ。たまらねぇんだよ。
風見の痛々しい傷跡もまた・・・・俺の胸を熱くする。
早くメールをくれ。一緒にsakky探そうぜ。
「希望の世界」は飽きずに「a」で埋められている。
素敵だ。


2月1日(火) 晴
弟との会話がどうも後ろめたいものになる。
「風見のヤツさぁ。言われてみればなんか狂ってたかもしれないんだよなぁ。
つっても防災訓練の時一人だけ駆けだしたコトがあった、とか下らないことなんだけど。」
俺は風見に会ってるんだ。だが約束があるので言えない。
いっそのこと風見には黙って言ってしまおうかとも思う。
だかそれをやると、sakkyへの道が遠のくような気がした。
「なぁ。お前風見と親しかったのか?」
親友のようなら、無事にやってる・・・とは言えない状態だが、とりあえず生きてはいるコトを教えてもいいな。
「いや、そんなすっげぇ親しいってワケではなかったけどサ。一応同じグループの仲間だった。」
まぁ普通の友人か。教えるか迷っていると、「それにさ」と話を続けた。
「やっぱ知り合いが行方不明とかになっちゃうとさぁ・・・・・・心配じゃん。」
最後のセリフにはわざとらしい照れがあった。
嘘つけ、と頭を軽く叩いてやった。大きな音を立ててフっ飛んだ。
へへへと笑いながら血を拭っていた。口の中を切ったらしい。
「ホントだよぉ。心配なんだって。」
それからフラフラと立ち上がった。血をペロペロ舐めている。味わってる様だった。
イカレた弟だよな。心の中で言ってやった。
ヤツは喜んでるように見えた。


2月2日(水) 晴
「さて、そろそろsakkyのあぶり出しを始めたいと思います。」
風見からのメールだった。具体的な戦略については長々と書いてあった。
単純だがうまくいきそうな気がする。俺も乗ることにした。
日曜日にまたオフ会か。本当にsakkyが来ればいいんだけどな。
まぁいい。風見の言うとおりにやってみるか。
sakkyを騙ると言う風見。じゃ今までのsakkyは風見じゃなかったのか。
と言うより、風見がsakkyだったのがいつからいつまでだったのかがよくわからない。
あいつは重要なコトは何も教えてくれない。寂しいじゃねぇか。
三木殺人計画の時のsakkyは風見だったかな。つーかややこし過ぎる。
余計なコトを考えるのはよそう。パニクる。
あいつの言った通り、「a」はおさまっていた。その後にsakkyのカキコ。
「なんで日曜来てくれなかったんですか。」
その上に俺が書き込めばいいんだな。ROMマニア登場。
「ワリぃな。急に用事入っちまってよ。今週の日曜にまた相手してやるゼ。」
風見と一緒にな。


2月3日(木) 曇
「今度こそ、しっかり対面して下さいね。日曜日。受けてたちます。」
sakkyのカキコが加わった。これで日曜日オフ会が行われる事がROMってるヤツにもわかる。
「よしじゃぁ6日も午後1時に東横線改札前な。ベル持ってこいよ。」
俺もそう書き込んで置いた。
そう言えば俺がゲリラオフ会に行ったときもこんな感じだったな。
何喰わぬ顔して改札前に立ってたんだった。
ありゃ誰が来るのかハッキリしてなかったから失敗したのかもしれない。
今度はROMマニアと騙りsakkyが会う手はずになっている。
ホンモノsakkyにとっちゃ見逃せないシチュエーションだよな。
風見はsakkyが誰なのか見当がついてるから遠巻きに眺めててもわかっちまうワケだ。
風見にメールを送った。
「俺達の待ち合わせは何時にする?」
オフ会表向きの待ち合わせは1時だが、その前に二人で打ち合わせをする。
万全の状態でsakkyを罠にかける。


2月4日(金) 晴
「ベルはちゃんと持ってて下さいね。先週私は1時きっかりにベルもって改札前にいたんですから。」
sakkyの発言に少し笑った。確かにベル持ってたよな。風見。俺は後から見せただけだが。
カキコでもちゃんと返事書いておいた方がいいな。
「俺も、ちゃんとベル持って改札前に立ってるよ。」
ROMってるホンモノsakky、見てるか?俺はベル持って立ってる。騙りsakkyも。
見に来い。風見がお前を見つけだす。
昨日のメールの返事では「12時半ごろ待ち合わせましょう。」と書いてあった。
さすがに改札前でなく、ちょっと離れた高島屋前の広場で待ち合わせとなった。
メールには他にもsakkyの事について書いてあった。
「ホンモノsakkyは絶対に現れますよ。誰なのかももうわかりました。
川口さん。アナタも見たこと有る人ですよ。間違い有りません。」
sakkyが分かった?俺も見たこと有るって?誰だ・・・・。
急に荒木の顔が思い浮かんだ。
アイツはまだ生きてるのかもしれない。生きてて俺に復讐しようとしてるのかもしれない。
そうであって欲しい。風見。遠回しな言い方しないで教えてクレヨ。
俺も見たことある。この言葉に俺は股間を熱くした。
荒木じゃないとしたら。他には・・・。
クラス中の女の顔を思い浮かべる。この中の誰でも良くなってきた。
クラスだけでなく知ってる女全部思い浮かべた。スゲェ。こん中にsakkyが居る。
sakkyはROMマニアの事を不気味がってる。俺を、不気味がってる。
だから、正体を知るために、日曜日にやってくる。本当に来るのか・・・・風見を信用しよう。
正体が俺だと知ったら、どんな顔するか。驚きの次は、恐怖か、嫌悪か、あるいは憎しみか・・・・。
スゲェ。スゲェスゲェスゲェ。


2月5日(土) 晴
いよいよ明日オフ会となった。
風見とホンモノsakkyと会うのか。荒木とも会いたいな。
弟が風見の情報をいちいち報告してくるが、どれも無意味なモノばかりだった。
俺はもうホンモノと会ってるんだ。明日も会うんだ。
なんとなく風見は困ったらどんな顔するのか見たくなった。
「なぁ、風見に会いたいか?」
弟に話を持ちかけた。
「そりゃ会いたいさ。え?何?もしかして兄貴あいつの行方知ってるの?」
「まぁな。」と答えた。
「嘘!?マジ?何処にいんの?どうすりゃ会えるの?」
俺はベルを弟の顔に投げつけた。歯に当たってチリンと音が響いた。
喉の方まで入ったらしく。ウエっと口を押さえてベルを吐き出した。
「え?え?何コレ。ベルじゃん。これがどうかしたの?」
「明日それ持って、1時に東横線改札前で立ってろ。風見に会えるぞ。」
「ホント?え、でもさ。なんでベル持つ必要があんの?」
とりあえず腹を殴って「いいからソレ持って立ってりゃいいんだよ。」と言っておいた。
弟は悶絶しながら「わかったよぅ。」と繰り返し、涙を流して喜んでいた。
ああ、これで風見と弟が鉢合わせになっちまう。バレると困った事になるんじゃないのか。
ヤバイぞ風見。ホンモノsakkyにかつての友人。修羅場だぞ。
明日はガンバレよ。


2月6日(日) 曇
弟には誰かに話しかけられたらロムマニアと名乗れ、と言っておいた。
俺より早くsakkyが現れたら弟に対処させるつもりだった。
俺等が横浜に着いたのは12時25分。丁度イイ時間。
弟を東横線改札前に残し、俺は高島屋の前の広場まで出向いた。

風見は既に待っていた。よくもまぁ人の多い中に居れるよなぁ。
目が合うと「待ってましたよ。」と話しかけてきた。
心地よい風見の声が俺に染み入ってくる。さて、こいつはどんな顔するか。
「じゃ、今日の打ち合わせをしましょうか。」
適当に話をしてるとあっという間に1時になった。
「そろそろ行った方がいいんじゃねぇか?」
いよいよホンモノsakkyの登場。弟との鉢合わせ。楽しくなってきた。
「・・・・その必要は無いですよ。」
変なことを言う。なんでだ?もう時間だろ?急かそうとしたが風見はふぅとため息をつくだけだった。
「sakkyはアナタの見たことある人です。」
それはもう聞いたよ。だから早く知りたいんじゃねぇか。
「ROMは・・・存在を知られてはいけません。最後までROMってるべきでした。」
突拍子もない事を言い始めた。何が言いたいんだ。
「一度でも書き込んだら、ROMの意味は無くなります。存在を教えてしまいますからね。」
何故そんな話を今しなくちゃいけねぇんだ。風見は言葉を続ける。
「NSCってページ、知ってますか?」
いきなり話を振ってきた。NSC。かつて希望の世界が引っ越す原因となったページだ。
知ってる、と答えた。
「あれは規模が大きすぎました。メンバー全ての書き込みを制限する事はできません。」
だからそれがどうしたと言うんだ。
「その意味じゃ今回は成功です。少人数だから目が行き届く。見事に存在を知らせなかった。」
・・・・・。
「川口さんも、こっち側だったら良かったのに・・・・・。」
俺は怒鳴った。てめぇナメてんのかよ。わけわかんねぇ事ばっか言ってんじゃねぇ。
周りのカップルやらがチラチラこっちを見る。風見は気にせず言い放った。
「まだ分からないのですか。」
何がだよ。ちゃんと説明しろよ。
「ROMってたのは、アナタだけでは無かったんですよ。」
それだけでは何もわからなかった。そうなのか。けどそれが今日のオフ会と何の関係があるんだ。
意味不明の問答はもうウンザリだった。今日の目的は何だ?sakkyに会う事だろ?
「もういい。俺はsakkyに会いに行く。」
また怒鳴った。1時過ぎ。東横線改札に居るはずだ。
歩き出そうとした瞬間、背後から、風見が囁いた。
「もう会ってるじゃないですか。」
俺は動きを止めた。その言葉が頭の中でグルグル回ってた。それは・・・そういう事だ?
振り返ると風見が笑っていた。
「アナタの見たことある人。つまり・・・・。」
人差し指を汚ネェ顔に向けた。

「僕です。」

その意味を理解するのに数秒かかった。
俺が何も言えないでいると、風見はメモを渡してきた。
「とりあえすこのページをROMって下さい。それで、全てが分かると思います。」
それだけ言い残し、風見は去っていった。
残された俺は、メモを片手にただ突っ立ってるだけだった。
風見の困った顔、見れなかったな。そんな事を考えていた。

家に帰り、早速メモのページに行ってみたが、何もなかった。
ページが見つかりません。
検索中のページは、削除されたか、名前が変更されたか、または現在、利用できない可能性があります。
何だこれは。ここで何が分かるって言うんだ。
思わずパソコンを殴った。畜生。風見、これはどうゆう事だ。
「希望の世界」に書き込みは増えてない。何だよ。何なんだよ。
確かにsakkyの正体までは辿り着いた。だが、結局何もわかっちゃいない。
sakkyが風見って何だよ。荒木はどうなったんだよ。教えろ風見。教えろよ!
こんな中途半端なままで終わりなのか?バカな!楽しくなるのはこれからなんだろ!
怒りにまかせて壁を蹴る。誰かを殴りたかったが弟はまだ帰ってなかった。
イライラは溜まるばかりで発散すらできない。歯ぎしりの音が頭に響く。
これで終いなんて認めねぇ。俺は、認めねぇ。認めねぇぞ。

弟は、そのまま帰ってこなかった。



第八週「連結」
2月7日(月) 晴
弟の意識は回復していた。頭の方はもう大丈夫らしかった。
ただ、階段から変な角度で転んでしまった為に、足の骨を折ったようだ。
今はギブス姿でベットに寝そべってる。ひ弱なヤツだ。
女の人に声をかけられたらしい。相手から「ロムマニアさん?」と言ってきたそうだ。
素直に頷いた。俺が「ロムマニアと名乗れ。」と言ったからだ。
「とりあえず、どっかで落ち着きましょう。」と言って女は歩き始めた。
わけがわからないけどとりあえず着いて行くしかないのか、と思って後を追った。
改札前の階段を下りようとした時、突然誰かに強く押された。
受け身も取れないまま転げ落ちる。頭を強く打ち、足も変な形に曲がった。
そのまま意識不明。今日の朝方まで目が覚めなかった。
弟の話、は何の足しにもならなかった。
ホント使えないヤツだ。女は知らない人だと言うし、誰に押されたのかもわからない。
足をギブス越しにブっ叩いておいた。苦悶の表情を浮かべながら喜んでいた。

「希望の世界」の掲示板にROMマニアを登場させた。
「てめぇ風見。俺の弟が怪我したぞ。あの女は誰だ。お前、あの女を知ってるのか?グルなのか?
しかもあのメモにあったページ行けねぇ。どうゆう事だ。
お前一人の仕業じゃないんだろ?お前等何がしてぇんだ。sakkyが風見ってってってどうゆう事だ!」
キーボードを叩くのに異様に力が入った。ナメやがって。
お前等、絶対潰してヤル。


2月8日(火) 雪
「希望の世界」の掲示板にまた「a」で埋まり始めた。
だが今日は少し違う。風見の反応が早く見たくて、夜を待たずにネットに繋いでた。
掲示板の「a」は連続投稿だ。今日のいつ頃から始めたのか確かめてやろうと
ページを遡っていくと、「a」に挟まれて一つだけマトモな発言があった。
それがまた、実によくわからない。

********
「ごめんなさい」
投稿者:ボレロ
投稿日:02月08日(火)15時58分46秒

sakkyごめんなさい
カノンごめんなさい
もう二度と勝手な真似はしません
もう二度と逃がしません
僕反省してます
お願いします許して下さい
本当にごめんなさい
********

更新ボタンを押したらまた「a」が増えて、「ボレロ」の発言は流れていった。
誰だコイツは。これまでROMってきた中でもこんなヤツは知らない。
俺の発言は「a」で流されてしまってるが・・・・・・それを受けての発言なのか?
風見や、弟を突き飛ばしたヤツや、例の女。こいつらと関係有るのか?
「ボレロ」は謝ってる。何に?sakkyと、「カノン」ってヤツに対してだ。何だこれは。
「なぁ風見。ボレロって誰だよ。」
そう書き込んで置いた。益々意味不明なことが増えていく。
しかし俺の発言も明日になれば「a」で流されてしまうのか・・・・
そこまで考えると俺はキーボードをブッ叩いた。畜生。そうゆう事か!
「a」はただ単に狂ってるだけだと思ってた。違う。これは、そうじゃない。
発言を流してやがるんだ。今日はたまたま「ボレロ」の発言を見れたが、いつもなら見れない。
流されていまうから。「a」に。やられた!俺に、他の奴の発言を見せないつもりだったんだ。
風見がsakkyを騙って会話した時は何も流れなかったが・・・間違いない。「a」は風見だ。
都合の悪い発言は流し、俺に見てもらう時は流さない。そうだろ?
弟がいないから誰も殴れない。拳に力を込めるだけで、怒りは溜まるばかりだ。
不愉快極まりねぇ。


2月9日(水) 曇
掲示板を張ってると「a」の合間にsakkyが書き込んできた。
「ROMマニアさんメール頂戴!HPの方からお願い。」
すぐに「a」の中に埋もれていった。
なんだよ風見。お前、自分の発言流して楽しいか?まったく意味不明なヤツだ。
あの発言も俺が見なかったら意味無いじゃねぇかよ。
しかもあの発言の意味は・・?
風見。あのまま消えたかと思ったら、メールを欲しがるとはな。
ご要望通り、「希望の世界」HPに記載されてるメアドから送ってやった。
「何がメールくれだこの野郎。自分から消えたクセによ。風見、お前は何がしたいんだ?
杉崎はお前が殺したのか?荒木もお前が燃やしたのか?もしや、奥田もお前が?
答えろ。ウチの学校に恨みでもあんのかよ。てめぇは、何を、望んでるんだ。」
書くメールにも力がこもった。昔の事を思い出していた。
殴りたい衝動に駆られたが、弟はまだ入院中だ。
杉崎も死んだ。荒木も燃やされた。奥田も死んだ。虫は・・・自殺か。
奴等の死は全て風見に絡んでるのか?いやそんな事はどうでもいい。
今一番頭にキテるのはそんな事じゃない。
何がどうなってるのか考えるのはもうやめた。荒木にしろ黒装束にしろボレロにしろ頭が痛くなるだけだ。
そんな事より、今はもっと重大な問題があるんだ。
日が経つごとに、この重みは増してくる。我慢できずに壁を殴る。堅い感触。
ドアを蹴っても同じだ。畜生。何を蹴り、何を殴っても、奴等は声を上げない。
許せねぇ。「希望の世界」に巻き込まれたおかげで、風見のせいで、これは風見のせいだ。
俺の玩具を、返せ。
頭を打ったせいで、そんな簡単には退院できないらしい。
家になきゃ困るんだよ。殴りたいときになきゃ困るんだよ。荒木の夢だって好きな時に見れるワケじゃねぇんだ。
俺の快楽を奪いやがって。虫はイイ声で鳴いてくれた。荒木の目もイイ。渡部は意外とツマラナかった。
あいつらは次々と俺から消えていった。玩具をくれる奥田もいない。
そこで辿り着いた、最高の作品。こんなに身近にあったなんて。
それが、今、無い。風見のせいで。許せない。許せねぇ。
許せネェ。


2月10日(木) 晴
メールの返信は一行だけだった。
「明日の昼11時に学校のパソコンルームにて。」
なんだそりゃ。お前、明日は休日だろ。
と思ったが、むしろ風見にとってはそっちの方が都合がいいんだろう。
ウチの学校は休日でもパソコンルームは解放してるしな。
平日だったら制服着てなきゃ怪しまれるし、仮に着てても風見のあの顔じゃすぐバレるだろう。
そうなると、休日ってのはイイ選択だな。
学習がなんたらとか大層な名目つけてあの教室あけているが、たまにパソコン持ってないヤツが
暇つぶしに来るくらいだ。人目は、圧倒的に少ない。明日は俺等だけってのもあり得る。
「いいだろう。行ってやる。」
それだけ書いて送っておいた。
掲示板の「a」を見てるとまたイライラしてきた。とうとう我慢できず、夕方だったが弟の見舞いに行った。

面会はなんとか(身内ってことで無理矢理)できた。だが弟のその姿に驚いた。
あいつ、勉強してやがった。聞くと「3月の受験まであんま日が無いから。」とかぬかしやがった。
ギブスはまだ取れネェらしい。しかも頭の検査まである。
ここで勉強しなきゃダメって事か。よくやるぜ。俺も受験生なんだぜ?
それを言うと「兄貴は浪人するつもりなんでしょ?」と返してきた。
もちろんさ。だから、風見なんかの相手をしてられるのさ。
「ねぇ兄貴。」と話しかけてきた。ナンだ、と答えた。
「俺を突き落としたのってさぁ。やっぱ風見なの?」
そうだ。風見がお前を突き落としたんだよ。そう答えると、弟は「なんで・・・。」と呟いた。
俺は言ってやった。「お前、アイツに嫌われてるんだよ。」
顔を歪めて喜んでいた。思わず撫でたくなったが我慢した。
ここは我慢。明日の風見の為に取っておこう。風見、思う存分撫でてやるさ。
お前が新しい玩具になるのも、悪くない。


2月11日(金) 曇
約束通りの時間に学校に行った。
予想通り人気が少ない。勝手に入るにしても守衛室の前で学生証を見せないと入れてくれない。
・・・この時点で、俺は何か勘違いしてる事に気がついた。
そうだ。ウチは学校休みの日は学生証見せなきゃ入れないんだった。
・・・てことは、風見はアウトだよな。どう考えても。
じゃあ、誰が来るんだ?

パソコンルームに入ると誰もいなかった。
一台だけ起動してるパソコンがあった。近づいてみる。ため息が出た。
「希望の世界」が表示されている・・・・。
間違いない。sakkyは、もう来ている。が、見あたらない。
誰もいない教室に鈍い光を放つパソコン。それに近づく俺の足音が妙に響いた気がした。
パソコンの前に座る。これは・・・「希望の世界」の掲示板か。
マウスを握って何か操作しようとすると、掲示板に書かれてる文字が目に入った。
新たに一行だけ投稿されてる。投稿者は、「sakky」
「待ってましたよ。」
体中に緊張が走った。来てる事はわかってるつもりなのに、こうして文字だけ書かれると・・。
嫌な気分だ。マウスをデスクに叩きつける。畜生。誰なんだよ。
叫ぼうと思った瞬間、背後でカーテンが擦れる音が聞こえた。
振り向くより早く、そいつは声を上げた。
「なんで・・・川口君が・・・。」
俺は振り向いた。カーテンの影から出てきたそいつは・・。思わずそいつの名前を口に出してしまった。
「渡部!」
俺も戸惑っていたが、渡部も戸惑っていた。お互い想像もしなかった相手が出てきた。
虫の呪いを急に思い出した。渡部も、あの呪いを受ける可能性のある人間だ。
渡部が、sakky。これが意味する事は何だ?
「じゃぁあのROMマニアは・・・弟って・・・川口君の弟だったの?」
頷いた。そしてこの言葉で理解した。弟と一緒にいた女は・・・渡部だ。
「俺が本当のROMマニアだ。弟はあの場に立たせただけで、俺は別の場所に居た。」
「別の場所って・・?」
「風見ってヤツと一緒だった。俺は・・・そいつがsakkyだと思ってた・・・。」
「風見君が・・・なんであの子が・・・。」
「あいつの事、知ってるのか?」
「一応ね。あ、でもある意味風見君がsakkyってのは合ってるよ。私と風見君が、sakkyとなる権利を持ってる。」
「なんだよそりゃ。」
「そんな事より・・・。」
渡部はキっと俺を睨んだ。虐められてた頃の目じゃない。もっと・・・良い目になってる。
「なんで、川口君が『希望の世界』に関わってるの?」
そこから俺達は、実に長い話をした。

正直、今でもあまりうまく整理できてない。
渡部とは協力することになった。だが俺は見逃さなかった。
あいつ、俺と話してる時ずっと震えてやがった。俺の話、信じてないのか?
違うな。あの震えはもっとこう・・・思い出した。渡部が虐められてた頃、よく見た震えだ。
そうか。気張ってはいたが、本当は怖かったんだ。得体の知れないROMマニア。急に出てきた俺。
平然受け止められる方がおかしい。
怖いのに平然を装っていた渡部・・・。おおおお。

掲示板には新たに書き込みが加わっていた。
もう「a」は無かった。代わりにあったのは・・・例の「ボレロ」のカキコで見た名前の奴だ。

********
「仕方ない」
投稿者:カノン
投稿日:02月11日(金)15時12分38秒

学校じゃ手は出せないですね。
********

これが、俺達の敵か。渡部も俺も、こいつらに翻弄されている。
渡部曰く「もうワケがわからない。」俺もワケガワカラナイ。
ただ、最近奴等の姿が見えてきた。書き込みしにろ。オフ会にしろ・・。
オナと同じだ。溜めれば溜めるほど、快楽は増していく。
ああ、早く奴等にあいたい。


2月12日(土) 曇
その電話は夕方に来た。
電話を取るのはいつも弟の仕事だ。親は両方とも夜まで帰ってこない。
弟がいない今、俺が取るしかなかった。煩わしい。
ほっとくといつまでも鳴っていた。仕方ないので、観念して受話器を取った。
「もしもし。」
その声を聞いて、受話器を持つ手に力が入った。
この声は忘れようがなかった。耳に残り、いつまでも消えなかったあの声だ。
「風見か。」
相手は少し間を置いてから答えてきた。
「・・・・風見です。よく分かりましたね。」
お前の声は忘れネェさ。俺も、お前と話がしたかった。切るなよ。
「切りませんよ。僕も川口さんに聞きたいことがあって電話したんですから。」
イイ度胸だ。で、何の用だ。
「・・・・・首尾は、どうでした?」
何もかもお見通しってワケか。けど・・・無駄だ。俺達はもう、会っちまったんだから。
渡部と会ったぜ。そう言ってやった。
「やっぱり。で、何処まで知ったんですか?」
フン。そいつは言えネェなぁ。
しばらく沈黙が続いた。受話器越しに風見のため息が聞こえてきた。
「こっちは大失敗です。まさか、弟さんを・・・あいつを、あの場に置いておくなんて。・・・予測できませんでした。」
そうか。良かったな。アレは俺の気まぐれでね・・・。で、成功するとどうなったんだ?
「あのまま終わりですよ。適当なアドレスを残して、謎だらけのままサヨウナラ。」
それも弟のおかげで失敗に終わったんだな。
「そうです。ROMマニアは、ちゃんとこっちで用意しておいたのに。先を越されてしまいましたよ。」
これを聞いて、ボレロの「ごめんなさい」を思い出した。そして「勝手な真似をして」、だ。
一瞬のウチに頭をフル回転させて、そこら辺の辻褄を合わせてみた。
「まさか、弟を突き飛ばしたのは『ボレロ』か!?」
「ご名答。」
即答だった。「みんなからひんしゅく買ってたでしょ?ちゃんと決めてあったターゲットをやれば良かったのに・・・。」
「荒木の次は、渡部ってワケか。放火は成功したのになぁ。」
舌打ちが聞こえた。長い沈黙があった。
「やっぱり・・・全面対決しかないか・・・。」
俺はしばらく無言だった。そして一言、やってやんぜ、と言った。
風見は決めたようだ。気配でわかった。
「わかりました。では、僕達の存在を教えましょう。今から言いますからメモして下さい。」
そのアドレスをすぐにメモった。このページに、俺達の敵がいる・・。
「以前、『僕がsakkyだ』と言いましたよね。そこに行けばその意味もわかりますよ。」
ちょっと間を置いてから、続けた。
「僕はそこで、sakkyとしてお待ちしてます。どんな風に戦いを挑んでくるのか楽しみですよ・・・。」
ここで、電話は切られた。

メモったアドレス、今度はちゃんと有効だった。
そこに、sakkyと、奴等が居た。
・・・・・「sakkyを守る会」


2月13日(日) 塵
病院で弟は相変わらず勉強をしていた。
その姿を見ると俺も受験生であったコトを思い出す。もう、どうでもイイ事だ。
受験の頃には退院できるかもしれないと喜んでいた。
持ち込んでる教科書を一つ取り上げて読んでみた。色々線が引いてある。
駄目だな。お前はそんな事で喜んじゃいけない。
お前にはもっと楽しい事があるだろ?
読んでる教科書を取り上げ、ビリビリと破いた。
涙を流して喜んでくれた。
ギブスを叩く。イイ声で鳴く。そうだ。これだよ。この声が聞きたかったんだ。
しばらくお前の相手をしてやれない。今日は一応の聞き納めだ。
今度からは風見に鳴いてもらう事にする。今はまだ捕まえてないが、いずれ必ず、鳴かせる。
それまでは溜めることにした。その方が、なぁ?
我慢し続けて、やっと辿り着いて聞く悲鳴。・・・震えるぜ。
弟の鳴き声も名残惜しく、まだしばらく叩いてた。
するといきなり横から声がかかってきた。
「ちょっとアンタ。」
隣のババアだった。弟の隣のベットにいるガキの母親だろう。
何ですか、と答えた。
「病人虐めてんじゃないわよ。その子、嫌がってるじゃない。」
何を言ってるんだ。失礼な。こいつはこんなに喜んでるじゃないか。
別に虐めてないですよ、言ってやった。
「虐めてるじゃない!泣いちゃってまぁ、かわいそうにねぇ。」
泣いて喜んでるんだろ?何でそれがわからない。
虐めてなんかないよなぁ?と弟に聞いた。
笑顔でコクっと頷いた。ほら見ろ。こいつも、嬉しいんだよ。
「脅しながら言ったって・・・・。アナタもそんな、無理に笑わなくていいのよ?」
いいんです、と弟は答えた。そうさ。いつもやってる事だもんなぁ。
お前はいつも、俺の言うことを聞いてくれる。俺の機嫌を取ってくれる。俺の好意に、答えてくれる。
お互い楽しんでるんだ。何の問題もナイ。問題、ナシだ。
ババアはまだ何か言いたそうだったので椅子を蹴り上げてみた。
何も言わなくなった。

「sakkyを守る会」
改めて見たところ、sakkyが中心となってメンバーが囲ってる、みたいな感じだった。
メンバーは、カノン。ボレロ。ラカンパネラ。ワルキューレ。エア。トロイメライ。
・・・こんなに居たのか。こいつら全員、ROMってやがった。
以前風見は「ROMは最後までROMるべきだ。」と言ってたな。
その通りだった。カキコをしちゃいけない。存在を、知らせてはいけない。
こいつらは最後まで隠し通した。そのおかげで、俺達はワケがわからずあたふたしてただけだった。
けどな。もう隠し通せないぜ。お前等の守ってる「sakky」が俺を招待してくれたんだ。
哀れな奴等め。「希望の世界」の「sakky」は渡部。「sakkyを守る会」の「sakky」は風見。
それも気付かすに、健気に守ってやがる。
「希望の世界」には幾つかの鎖が絡まってる。「sakkyを守る会」に伸びていたり、虫の呪いにも・・・。
それらが全て繋った。俺と渡部が連結し、「希望の世界」と「sakkyを守る会」にも連結した。
もう、外れない。外さない。

さて、俺はまたROMに戻るとするか。
存在を消して、忍び寄らなきゃな。会員の奴等は俺の存在は知るだろうが、姿を知らない。
これがROMの醍醐味だ。ツラが割れてなきゃ、やりようはいくらでもある。
風見は恐らく俺が来る事を会員に伝えるだろう。
「希望の世界」はどう見るか。そこからまず考え直さなきゃな。
騙し合いが始まる。これからは、何も信じられなくなる。
全て壊す。せめて、イイ声で鳴いてクレ。

宣戦布告をしてやろう。「希望の世界」の掲示板に。ROMってる会員共。しっかり見とけ。
これを書き込んだらROMに復帰だ。
「おまえら、皆殺しな。」
ROMマニアで書こうとしたが、少し面白い名前を思いついた。
お前もこーゆーの好きだったよな?人を、陥れるのが。俺が、代わりにやってやるよ。
その名前で書き込んだ。
ハンドルネーム、ROMマニア改め・・・・・・・

「奥田の遺志を継ぐモノ」


第1部<追撃編>
 第3章「塊」