「解放」-6

4月28日(土) 暗雲
こうして自分を取り戻した今、私が考えなければならないのはひとつだけです。
私を狭間の世界に閉じこめた原因。父と母をどうするか?
特に父は私が狂気の人生を歩むきっかけを作った人間です。
許せません。「ケンジ君」に託していた殺したい気持ち。
私が他の感情を失った中で、これだけはまだ心の中に残ってます。
兄は、健史さんは本当に父を刺した。
あの傷跡が残ってるのは私も「ケンジ君」を通して見てました。
でも生きている。目の前で生きてることが、許せない。
あの二人は私が首を絞めたことに対して恐怖を感じてるようです。
怒鳴ってれば大人しくなる私が抵抗したものだからショックを受けてるのかもしれません。
父は私を避けています。かつては殺されそうになんてなったら拳で応酬するような人でしたが
老人となってはその力も、気力も無くなってしまったんでしょう。
その父を、改めて殺すべきなのか?
やるなら刃物でないといけません。首を絞めるのでは失敗する可能性が高いことは実証されてます。
台所には包丁があるはずです。失うものが何も無い私には父を刺すのに抵抗は感じません。
母はうろたえるでしょうが、後のことなど知らない。
ただ、誰かが言ってたように父を殺してしまったら私は食事にありつけなくなるでしょう。
恐らく母だけでは私を満足に養うことはできないと思います。
養ってくれる人がいなければ私には生きる手段がない。となると捨てられる。最悪の場合、死ぬ。
父を殺そうか迷ってると、ふと「ケンジ君」がいた頃を思い出しました。
昔のでなく、この家に戻ってきてから出てきた二人目の方です。
「タケシ君」に誘われて殺そうとした時は失敗した。
自分から殺しに行った時も失敗。それで私は思いました。
人任せでは成功しない。結局は自分でやらなければいけないのね。
さてどうしましょう。その気にさえなれば老人なんていつでも刺すことはできる。
本当にやってしまっていいのでしょうか。
これが最後の選択です。
殺して、全ての運命に決着をつけるか。
殺さず、無駄に生き続けるか。

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