絶望世界 もうひとつの私日記

第39週


7/2(月) 晴
二人共学校に来ない。
構わない。家に押し掛けて殺してやる。
まずは細江さんを刺す。その足で田村さんの家へ。
住所も知ってる。カッターの準備もした。警察に捕まろうが構わない。
私を侮辱した者タチに罰を。処刑を。
しなければならないのに・・


7/3(火) 晴
気が狂いそうです。足が動かない。
細江さんの家に行けない。順番を変えて田村さんから殺そうと思っても同じ。
私の中の何かが、足を止めてる。人殺しにならないようにするために?
処刑人なのに?牧原さんも岡部先生も板倉さんも私が殺したのに?
そんな記憶あったっけ?殺した?私が?あの三人はまだ逃げてるんじゃ?
そもそもなんで私が処刑人なの?
人殺しの経験なんてあった・・・・?
頭が混乱して記憶がうまく繋がりません。自分が何をしたいのかもよくわからない。
辛うじてできたことと言えば、二人を学校に呼ぶことでした。
明日、学校に来るように。電話でそう伝えると細江さんは「はい。」と素直に返事してました。
田村さんは親が出たので「大事なプリントを渡さなきゃいけないので、明日来れないようなら私がそちらに伺います。」と言っておきました。
明日が勝負です。


7/4(水) 晴
二人とも学校に来ました。
細江さんは虚ろな目をしながら。田村さんは震えながら。
そして私は・・・今度は手が動かなくなりました。
放課後。私は二人を呼び出すだけ呼びだしておいて処刑できませんでした。
私は呆けたまま教室を出ていきました。
帰り際、振り返って二人に言いました。
「明日までに二人で殺し合いなさい。生き残った方だけ許してあげます。」
カッターを床に放り投げておきました。
もうどうなろうと知らない。


7/5(木) 晴
二人とも生きてました。
ただ、細江さんの腕には包帯が巻かれてました。
席に座って一人でブツブツ言ってます。
近づいて聞いてみると、意味のわからないことを言ってました。
「ねぇキクちゃん。あなたの言うネットからの援軍はいつになったら来てくれるの?」
「私はね。それを信じて耐えてたの。ずっと待ってたの。なんで断ったのよ。」
「やっぱり信用できないなんて。勝手に判断しないでよ。耐えてたのは私なのよ。」
ずっと空中に向かって呟いてました。
田村さんは、私が廊下を歩いてると向こうからやってきました。
「昨日はあれから人が来ちゃったから。今度止めを刺すから。もうちょっとだけ待って。」
愛想笑いをしながら必至に言い訳してました。
無視しました。


7/6(金) 晴
夕方の学校。そこは地獄絵図でした。
田村さんが「ごめんなさい!ごめんなさい!」と泣き叫びながら廊下を走ってます。
手にはカッターを持ってました。少し血が付いてます。
私は帰ろうと思ってたんですが、気になって教室に戻りました。
教室の周りにはみんながたかって中を覗き込んでました。
私もその群衆に加わって中を見ました。
そこでは、細江さんが発狂してました。
椅子を掴んでは投げてみたり。奇声を発したり。チョークを食べたり。
ほっぺたには切り傷があってだらりと血を垂らしてました。
ロッカーにガンガンと頭をぶつけてます。
何発目かで気を失い、それで騒ぎが終わりました。
私の中で何かが急激に醒めていきました。
私は、こんなことを望んでたの?


7/7(土) 曇
細江さんが入院したそうです。もちろん頭の病院です。
先生は現代人のストレスだとか何とか偉そうなことを言ってました。
それでこの件は終了。みんなも何事も無かったように普通にしてました。
田村さん以外は。隣の教室に様子を見に行くと、彼女は青い顔してガタガタ震えてました。
私と目が合うと頭を抱えて顔を伏せてしまいました。
別に何もしないのに。彼女は怯え続けます。
そう。私にはもう「処刑」しようなんて考えはありません。
そんな気は無くなってしまいました。


7/8(日) 晴
こんなに冷静になれたのはいつ以来でしょう?
牧原さんたちにイジメのターゲットにされてから、ずっと何かに追い詰められてきた気がします。
今は大丈夫。じっくりと自分の記憶を確かめることができます。
私には人を殺した記憶はありません。
牧原さんも、岡部先生も、板倉さんも、私が殺したわけじゃない。
でも私にはもう一つ人格があって・・それが「処刑人」で・・・?
それを信じてしまったから、何かがおかしくなったんです。
じゃぁ何で信じてしまったのか。
「お前が処刑人だ。」
もう携帯にあの時のメールは残ってない。
あのメール。あれが引き金となった。
けど待って。あれは、本当に私が自分で送ったの?
冷静になって。よく考えるのよ・・・!


第40週