絶望世界 もうひとつの僕日記

第2週


11月27日(月) 晴れ
朝、メールはひとつも来てなかった。
つまらない。こんな大勢いるのになぜ誰もメールくれないんだ!
不機嫌なままバイトにでかけた。
運良くコンビニに美希ちゃんがやってきた。「首尾はどう?」
全然ダメ。美希ちゃんが顔をしかめた。そんな顔されても。
登録の仕方に問題あったか確認してもらった。
変な名前は避ける・・・ちゃんと本名使ったから大丈夫。
自己紹介文がおかしくないか・・・美希ちゃん曰く「そんなもんでいいでしょ。」
カテゴリは合ってるか・・・顔を見合わせて頷いた。「無職仲間以外あり得ない。」
「あとは時間の問題よ。一日くらい泳がせとけば来ると思う。」
その言葉を信じて夜になるのを待った。
本当に来てるかと、家に帰ると急いでメールチェックをした。
すると待望のメールが一件来ていた。
「初めまして。募集見たのでメールを送りました。」
名前は「ARA」。年は僕と変わらず20歳。そしてもちろんフリーター。
素晴らしい。


11月28日(火) 晴れ
ARAさんと急激に親しくなっていった。
話す内容はなんてことない世間話ばかりだったけど、その方が打ち解けやすい。
フリーターと無職は違うのか。マジメに大学通う人の気が知れない、等々。
あっちもオンラインだったので一晩で三回も送った。
気が合うし会話に詰まることもない。滑り出しとしては順調。
さらに嬉しいことに、新しいメールが二件も来てた。
「渚」さんと「紅天女」さん。二人にも返事を書いておいた。
やっぱり世の中、出会いに飢えてる人が多いんだな。
奥田が美希ちゃんとメールしてた頃はバカにしてたけど、
実際やってみるとこんなに楽しいと思わなかった。
もっと早く始めとけば良かった。


11月29日(水) 曇り
今日も新しい人からメールが来た。年上の「ケイ」さん。
これで計四人。この中から恋人を見つかれば。
なんか簡単に見つかりそうな気がする。ARAさんとはすでに意気投合してるし
渚さんと紅天女さんもすぐに返事をくれてる。トラブルが起こりそうな気配もない。
奥田と美希ちゃんに経過報告しておいた。
「何回くらいやりとりした?」一人は5回。あとはまだ全然。
「いい感じになって来たら一度会って見ろよ。」まだ早いよ。
美希ちゃんが横から口出しをしてきた。
「メールではね。日数よりやりとりした回数が大事なのよ。」
奥田がうんうんと頷いた。「頻繁に来るってことはお前に興味がある証拠だ。」
言われてみればそんな感じもする。
ARAさんとは夜11時ごろからはオンラインでやりとりしてるし
うまく進めていけば早めにご対面できるかもしれない。
僕もその気になってきた。


11月30日(木) 晴れ
バイト帰りに奥田に出くわした。これから仕事なんだと言っていた。
仕事は昼じゃなかったか?聞いてみると「仕込みを教えてもらってるんだよ。」と。
どうやら本気でソバ屋に就職を考えてるらしい。
最近は泊まり込みで店の親父さんに料理人の修行をしてもらってるとか。
美希ちゃんもウエイトレスで雇ってもらえることが決まったそうだ。
その美希ちゃんが奥田を迎えにやってきた。
これから店で食事して、奥田はそのまま修行。美希ちゃんは奥田のアパートへ。
「メールがんばれよ。」と言って二人は去っていた。
美希ちゃんに寂しい思いをさせてるんじゃないのか?そんないやらしい疑問は全く沸いてこなかった。
背中を丸めてトボトボ歩くその姿。まるで老夫婦みたいだったから。
僕らのような人間がカップルになるとああなるのか・・。
それでもうらやましかった。はやくあちら側に行きたかった。
所詮僕らに明るいカップルなんて無理なんだ。地味でいい。つつましく生きたい。
そして側には誰かを。
夜、チャンスは思いがけないほど早くやってきた。
ARAさんから「ねぇ。一度会ってみない?」と。すぐに返事を返した。
「いいね。会ってみよう!」


12月1日(金) 晴れ
話はトントン拍子で進み、日曜にもう会うことになった。
二人ともオンラインのままやりとりしたから完全にチャット状態だった。

>>>>いつ暇?
>>>来週はバイトが忙しいから・・日曜は暇なんだけどね。
>>日曜?日曜は僕も暇だよ。明後日も空いてる。
>ホントに?じゃあ明後日にする?私はそれでも構わないよ。

うまくいく時ってのは何でもうまくいく。食事して適当にブラブラすることになった。
美希ちゃんの言う通りメールは日数よりやりとりの回数が大事。
メールを書くのが楽しかった。書けば書くほど時間の流れが早くなる。
他の三人ともメールは続いてるし、みんな結構親しげになりつつある。
ARAさん。どんな人だろう。できれば美人の方がいいな・・・
想像してるだけで心が弾んだ。会う前が一番楽しい時間なのかもしれない。
そんなうまい話は無いと思ってもどうしても期待してしまう。
仮にARAさんで失敗してもそんな痛手にはならないな。まだストックが三人いる。
奥田に電話してみようかと思ったけどやめといた。
二人には秘密にしておいて、後で驚かせてやろうと思う。
こっそり成功してやる。


12月2日(土) 晴れ
今日もARAさんと明日の具体的な打ち合わせを。昨日と同じチャット状態。
そこでちょっと妙なことを聞かれた。

>>>とろこでさ、処刑人って知ってる?オフで会う時は
>>>奴に気をつけなきゃいけないんだけど。
>>処刑人?何それ。聞いたことないな。
>えっとね。処刑人はネットに巣喰う正体不明の殺人鬼で、
>オフ会に紛れこんで誰構わず殺していく奴なの。
>今回のオフは二人きりだから大丈夫だとは思うけどね。

なんだそりゃ。
馬鹿馬鹿しいと思ったけど、とりあえず明日のことを決めておいた。
午後3時に渋谷のハチ公前。待ちに待ったご対面。
でも少し不安になってきた。処刑人って何だよ。いきなり殺人鬼だなんて言われても。
かと言って今更止めるのももったいないし・・・
まぁ、気にせず楽しもう。


12月3日(日) 曇り
目印の紺のフリースを着てハチ公の前で突っ立ってた。
地味な格好だけど、渋谷のワカモノ達が派手だからかえって目立ってた。
スポーツ新聞読みながらたまに腕時計のチェック。約束通りの行動。
しばらく待ってたけどARAさんは来なかった。
電車が遅れてるのかもしれない。携帯の番号交換しておけば良かったな。
そんなことを考えながらもう少し待ってみた。
日が沈み始めた頃、僕はようやくすっぽかされたことに気が付いた。
なんて無駄な時間を過ごしたんだ。
ものすごい脱力感に襲われながら帰路に就いた。
けど途中で思い直した。
いや、きっと何か行けない事情ができてしまったんだ。
ARAさんは約束をすっぽかすような感じじゃなかった。お詫びのメールが来てるはず。
そう思って家に帰るとすぐにメールをチェックした。
案の定、ARAさんからメールが来てた。
やっぱり何かあったんだ。さっそくメールを開いてみた。
そこにはたった一行こう書かれていた。

「やっぱり処刑人が怖いからやめとく。」

ふざけるな。


第3週