絶望世界 もうひとつの僕日記

第24週


4月30日(月) 曇り
昨日送ったメール
「そこまで言うなら続けましょう。僕としても処刑人情報を得られるのは助かりますからね。
まず知りたいのは掲示板に書かれてた人たちです。あの人たちは処刑人とどんな関係があるんですか?
処刑人がわざわざネットであんなことを書く理由も気になります。
あと、もっとも知りたいのは密告者さんはなんで僕とコンタクトを取りたがってるのかってことです。
非常にまずいことってなんしょうか。そこら辺のことも教えてもらえると助かります。」

今日来た返事
「お返事ありがとうございます。一つ一つ答えていきたいとおもいます。
まず掲示板に書かれてたターゲットの人たち。あれは全てSをいじめてた人たちです。
あの中には私の友人も含まれてて、今まさに狙われてるところなんです。
私は彼女を助けたいと思ってます。けど狂気のSに一人で立ち向かうのは難しいと思って虫さんに助けを求めてるわけです。
Sがなぜネットにあんなことを書くのかは私もわかりません。自ら首をしめてるようなものですからね。
Sの行動には私たちにも理解できない不可解なことがたくさんあるんです。まさに狂人です。」

「なんてこった。」と口に出して言ってしまった。
こいつ、本当に助けを求めてたのか。いや、これもまたフリだけなのか?
美希ちゃんは「私にはもうよくわかんない。様子見ることにするわ。」と頭をうなだれるばかりだった。
どこからどこまでが本当なのか。僕にだってわからない。
わかったら苦労しない。


5月1日(火) 曇り
僕のメール
「あと気になるのは、なぜそんないじめられっ子の復讐が、ネットで話題になるかってことです。
処刑人に関してはいろんな噂がありますけど、なんらかの出来事があったからこそ噂ってものができたんだと思うんです。
火の無いところに煙はたたずってやつですね。とにかくそのSとネットの絡みです。
Sはリアルでも『処刑人』と名乗ってるんですか?そうでないとしたら、なぜ密告者さんはSが処刑人だとわかったんですか?」

密告者のメール
「私は虫さんのサイトで数々の噂を知ったんですが、掲示板を見てるとどうも結構有名なようですね。
なぜそんなに広まったのかは私にもわかりません。おそらくSがターゲットを募集するのにネットを利用するからじゃないでしょうか?
私もそれで処刑人がSだとわかったんです。Sをいじめてた人の名前が連なってて、Sの行動もまさに『処刑人』のとおり。
事情を知ってるものなら誰でも気づきますよ。あと、ネットでは不特定多数の人が見ますからね。
ああゆう不謹慎なものは返って喜ばれたんだと思います。
だから噂として広まって、だんだん尾ひれがついてきていい加減な噂も出てきたのかと。
(ターゲットにされた人にとっては迷惑以外なにものでもないですけどね。)
ただ、タチの悪いのはSは散々募集しておいて誰をターゲットにしたのか言わないところです。
私は身近にいるので誰を狙ってるのかよくわかるんですけどね。」

なかなかうまく答えてる。僕は少し納得してしまった。
美紀ちゃんも感心してた。これはひょっとするとひょっとするかもしれない。
まだ油断はできないけど。


5月2日(水) 雨
5月のはずなのに寒い。バイトに行くのも億劫だった。
最近は家に帰ってからのメールチェックが楽しみになりつつある。
日に日に新しい情報が入ってくるから。

昨日送った僕のメール
「なんとなく話の流れは見えてきたんですが、まだわからないところもあります。
僕のメル友たちと処刑人の関係も大きな疑問です。
これを密告者さんに聞くのは筋違いかもしれませんが、僕にとってはかなり重要なことなんですよ。
なにしろ彼女たちに処刑人のことを教えてもらったわけですから。
密告者さんの持ってる情報の中に、それらしきことはありませんか?」

今日の密告者のメール
「彼女たち?メル友さんは女性の方だったんですか?
だとしたらやはり以前虫さんが予想してた通り、メル友さんはあのターゲットの人達だと思います。
ターゲットの人達はほとんど女性だったのは覚えてますよね?
彼女たちの事情に詳しい友人がいるので私も確認してみましょう。
追って報告します。」

この返事次第では僕の疑問は一気に解決。ただし、その情報が本当だったらの話だけど。
見極めるのは難しい。


5月3日(木) 雨
四連休に突入したせいか客の入りが多かった。
雨も降って他に行くところもないような人達だ。
美希ちゃんも駅前まで買い物に行っただけで人の多さに呆れてた。
僕らのように世間の流れから離れたところで生きてる者には休日なんて関係ない。
密告者からのメールもGW関係なくいつものペースで届く。

「どうもあのターゲット=虫さんのメル友は間違いないようです。
知り合いに確認したところ、彼女たちはメールのやり取りを頻繁に行ってたそうです。
その知り合いはパソコンを持ってなかったので仲間には加わってなかった、とのことです。
さらに、彼女たちは『見たこともない人とメル友になっちゃった』と自慢してたんですよ。
知り合いに言われて私も思い出しました。そういえば確かそんなことを言いフラしてた気がします。」

これが正しいとなると、僕のメル友たちは同じ仲間同士だったと考えられる。
だからみんな処刑人のことを知ってた?いや、そもそも僕はどう扱われてたんだ?
当時みんなは「リョーヘイ」からメールをもらってたことになる。
お互いで情報交換をしてればすぐにみんな共通のメル友を持ってることくらいわかるんじゃないのか。
これで散々悩んでると、美希ちゃんが素晴らしい解説をしてくれた。
「たぶんお互い同じメル友を持ってることは知らなかったと思うよ。
ネットでメル友を始めるときって、とりあえず大勢にメールを打ってみるものなのよ。
それで返事来た人とメール交換を始めるの。ピンポイントで一人に絞るってことはまずないと思うわ。
亮平君自身もそうだったでしょ?数人同時にやってたよね。」
だから彼女たちも亮平君だけだったわけじゃないと思う。ましてや女の子だからメル友なんてたくさんいたんじゃない?
自分から募集したら鬼のように届くのよ。ネットには女の子と知り合いたがってる人多いから。
で、そうなるとお互い情報交換したところで、ひとりくらい共通した人がいてもわかりゃしないわ。
まぁこれはあくまで亮平君のメル友=処刑人のターゲット説が正しければって話だけどね。」

実に。僕が新たに付け加えることは無い。
だんだん密告者の話は正しいんじゃないかと思うようになってきた。
完全に本当だと思うわけじゃないけど、信用度は徐々に増してきてる。
今日はさらに突っ込んだ質問をしてみた。

「その知り合いってのは例の処刑人に狙われてるお友達なんですか?
となるとその人は当然『S』さんをいじめてた人ってわけで・・・
僕が言うのも何なんですが、ちょっと自業自得な部分があるんでは?
情報を提供してもらってる身でありながら失礼なこと言ってすいません。
密告者さんがその知り合いの方と親しいようだったら何も言いませんけど・・・
でもやっぱりいじめっ子が復讐を受けてるだけの話だったら、僕に助けを求められても困りますよ。
むしろ処刑を奨励してしまいそう。(不謹慎でしたね。失礼。)」

少し嘘を書いた。本当は単なる復讐劇であっても、処刑人の姿は拝んでみたい。
助けるつもりが無いのは事実。


5月4日(金) 曇り
「違います。彼女はいじめっ子ではありません。ただし、ターゲットの中には入ってる人です。
前は『全員いじめっ子』とアバウトに言ってしまいましたが、正確には違うんですよ。
ひどい話ですが、Sはいじめっ子でない人まで巻き込んでるんです。」
今狙われてるという別の友人は若干イジメには加わっていたようですが、すぐにやめたそうです。
復讐されても文句は言えないようなイジメをしてたのは三人だけです。
しかもその三人は、既にSの手で殺されてるんですよ。
Sは何を勘違いしてるのか、既に殺した人までターゲット募集のリストに加えてますけど。
そこら辺が狂人ゆえの倒錯なんでしょうね。
ちなみに殺された人は、牧原公子、岡部和雄、板倉聡美の三人です。虫さんも心当たりありますか?」

心当たり、大アリだ。この人達は風美が掲示板で「処刑人の被害者」と言ってた三人じゃないか。
「ちょっと目が離せなくなってきたわね。」と美希ちゃんが言った。
確かに。この密告者は割ときちんと答えてる。それになかなか興味深いことばかり言ってる。
最初が最初だけにまだ疑いが晴れたわけじゃないけど、関わる価値はありそうな話ではある。

「一応僕のメル友はみんな女性でしたが、どうもその三人の中には男性もいるようで。
でも今時ネットオカマなんて珍しくもないからあり得ない話ではないでしょう。
僕はメル友の本名は知らないので、本当に彼らが僕のメル友だったのかは定かではありません。
ただし、密告者さんのお話からその可能性も高いんじゃないかと思うようになりました。
さて、これが最後の質問になります。僕はこれまで処刑人を追いかけてる中で、『風美』という人物と何度か接触しました。
メールで何度かやり取りしたのちにオフ会にまで至ったんですが、結局は会えず仕舞いでした。
彼は自ら処刑人の手下だと名乗り、他にも『K』やら『ケイ(この場合はネカマ)』などと名前を変えてます。
彼について何か心当たりありませんでしょうか?」

こいつの存在だけは、密告者の話の中からでも見えてこない。
単に処刑人の手下を名乗ってるだけの騙りだとは思えない。
奴は例の三人の名前を知ってた。絶対関わりがあるはず。
もしかしたらこいつが「ネットで噂の処刑人」と「いじめられっ子の復讐劇」を繋ぐカギになってるのかもしれない。
って考え過ぎか。


5月5日(土) 曇り
「申し訳有りませんが風美という人は知りません。
学校にも風美って名前の子はいないです。風美はハンドルネームでしょうか?
いずれにしろ周りにはその名前を使ってる人はいないので・・
お役に立てずにすいません。
とりあえずこれで最後の質問ということでしたね。
どうでしょうか。私は全部答えたつもりなんですが。
前にもいいましたが、Sに立ち向かうには男手があった方がいいと思ってます。
何しろ女子校なものだから知り合いに男性がいないんですよ。
だから虫さんに事情を説明して協力してもらおうとしたんです。
今時ネットで知り合いを作るのも普通かな、と思ったので。
顔も見たこと無い人に頼むのも恐縮なんですが、是非ご協力お願いします。」

女子校ということで密告者は女だと確定した。
でも美希ちゃんは「ネカマかもよ。」とまだ疑ってる。
そこまで疑ったらこれまでの話を全部疑わなければならない。
とは言っても完全に信じるのは怖い。

「実際会うのは勘弁して下さい。僕もオフ会で色々嫌な目に会ってるもので。
でも相談くらいなら乗りますよ。せっかくたくさんの情報を教えてもらったわけですからね。
これまで通りメールでのやりとりに留めておきましょう。
それでよろしければメールを続けましょう。
そんなの意味無いからいいやというのならこのままメールの返事はしなくて構いません。」

これが僕らの出した結論だった。
真偽の探求と深入りの危険。その境界を見極めないとネットでは生きていけない。
全部がお互いの思い通りにってわけにはいかないんだ。僕らのラインは提示した。
あとは向こうの判断に委ねるだけ。


5月6日(日) 晴れ
きちんと返事が来た。

「相談だけでも乗っていただけると助かります。是非メールを続けさせて下さい。
学校の人達はSのことには関心がないんですよ。だから相談できる相手すらいなかったんです。
結局みんな『イジメは関わらないのが一番』と考えてるんでしょうね。復讐が始まっても同じ。
ましてやわざわざ狂人と関わろうなんて人はいるわけがありません。
でも巻き込まれた人達はかわいそうです。だから私は助けたいんです。
加勢して頂けないのは残念ですが、考えみれば無茶な頼みでしたからね。
いきなり見知らぬ人の話を信じろと言ってもそうそうは信じるわけにもいきませんよね。
その点については私も反省しています。(最初に変な態度で接してしまったのも反省してます。)
メールだけでも十分ありがたいです。これからもよろしくお願いします。」

すんなり受け入れられて少しびっくりした。もう少し波が立つかと思ったのに。
どうしても僕らと縁を切りたくなかったみたいだ。それほど他に頼れる人がいないってことか?
「WANTED処刑人」の管理人ゆえの優越。まぁそんなたいしたものでもないけど。
なにはともあれこれで僕らと密告者のスタンスがハッキリした。
完全にメル友状態。これで良かったんだろう。
「いや、あっちはまだオフ会を諦めてないと思うわ。何度もメールして仲良くなったら
またチャンスが生まれるじゃないかと思って続けることにしたのよ。」
彼女は相変わらず話の裏を読む。言ってることは一理あるけど。
それもそれでいい。このメールを続けることで何が起きるかなんてわかるわけないじゃないか。

メル友か。考えてみると僕は少し臆病になってるのかもしれない。
前はもっと積極的だった気がする。オフ会のチャンスがあればガンガン行ってたような。
なんで今回は断ってしまったんだろう?処刑人気取りのおかしな人じゃないかと疑った時、身の危険を感じたからか?
危なくなったら逃げればいい。そんな発想が無くなってしまった。
身近な人の死をリアルに体験したせいか。死の危険に敏感になってる。
奥田は決してネットで殺されたわけじゃない。けど、今なお僕の心を捕らえ続けるこのモヤモヤとした気持ちは何だろう。
処刑人に関わった者は死ぬ・・・?いやまさか。それなら僕が真っ先に死ぬことになるはず。
処刑人のせいにしてはいけない。奥田の死は僕の責任だ。
奥田。密告者ってやつとメール交換することになった。
これでまた少し処刑人に近づいた気がするよ。
美希ちゃんもネットのことであれこれ考えてる時は楽しそうだ。
僕らはお前の死から立ち直りつつある。けど、決して忘れてたわけじゃない。

忘れられるわけないじゃないか。


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