狭間世界 ボクの日記


第四章(終章)「夢と現」
第十三週「霧中」



4月2日(月) ハレ?
目の前がぐるぐるまわってます。
身体中がしくしく痛んで今では気持ち悪くなってます。
耳鳴りが激しくて何も聞こえません。
タケシ君は見えません。


4月3日(火) クモリ
意識が朦朧とする中で、おじいさんとおばあさんの声を聞きました。
「風邪でも引いたんじゃないの。」「ほっとけ。寝てりゃ治る。」
ご飯を食べる気にもなれません。頭とお腹が特に痛い。
心臓はドキドキ鳴ってる。熱が出てるかもしれない。
冷や汗が背中をたれていきます。寝返りをうつとグチャっと濡れて気持ち悪い。
息をするのさえ苦しい。


4月4日(水) ハレ
汗でびっしょりになってしまったので服を替えました。
タンスの引き出しを開けるのに立ち上がるのに苦労しました。足がフラフラ。
服を掴むとすぐに倒れ込んで芋虫のように這いながら着替えました。
お腹の痛みは治らない。耳鳴りもひどくなってきてる。
奥歯がガタガタ鳴ってます。寒い。寒くなってきた。
おばあさんがくれたタオルもこれ以上水を吸わない。新しいのが欲しいけど声が出ない。
気付いて。


4月5日(木) ハレ
とうとう吐いてしまいました。
覚悟はしてたけどやっぱりおじいさんに殴られた。
おばあさんが「自分で片づけなさい。」と言ってバケツと雑巾を置いていきました。
ゆっくり時間をかけてなんとか処理し終わると、また気持ち悪くなってバケツの中に吐きました。
シーツと服は染みがついてしまってもう使えません。一緒にくるめて隅によけました。
新しい服を。引き出しをあけるともうTシャツが一枚しか残ってませんでした。
それを着て一息ついたら部屋の中がすごく臭いのに気付いて三度目の嘔吐をしました。
最後のTシャツも胃液でまみれ、口の中は酸っぱくて。
泣きました。


4月6日(金) クモリ
おばあさんが文句を言いながら着替えを手伝ってくれました。
何度も気持ち悪くなったけど胃の中には何も残ってないのでのどが鳴るだけでもう何も出てきません。
水は飲んだけどその後吐かなかったのは自分でも偉いと思います。
トイレに行くのは至難の業でしたがこれ以上おばあさんに迷惑かけるわけにはいきません。
わかってたのに、やってしまいました。
汗と勘違いしてくれれば助かったのにおばあさんは気付いてしまいました。
呆れて行ってしまいました。ボクはどうすることもできずに彼の名を呼び続けました。
タケシ君。何処行っちゃったんだよ。タケシ君。


4月7日(土) ハレ
熱が下がる気配はありません。お腹の痛みもおさまりません。
寝てても背中が床についてる気がしません。浮いてどこかへ行ってしまいそうです。
ペットボトルが布団の横に転がってます。手を伸ばすのも大変だけどフタを開けるのはもっと辛いです。
なんとか水を飲むと少し楽になりました。こんな時ばかりはペットボトルを置いてってくれたおばあさんに感謝しました。
怒らせて水がもらえなくなるのは嫌なのでこぼさないように気を付けてフタを閉めました。
服は何度着替えてもすぐに汗がびっしょりになるのでもう気にしてません。
濡れてて気持ち悪いといってもお腹の痛さの方が大きくてどうでもよくなってしまいます。
足もロクに動かず、トイレに行くときは這って行ってます。立ち上がることができません。
寝転がってもだえ苦しむだけの生活。これがタケシ君の言ってた「酷いこと」なんでしょうか。確かに酷い。
酷すぎるよ。


4月8日(日) クモリ
このままではボクがボクでなくなってしまいそうです。狂ってしまう。
寝てるだけじゃ治らない。何かをしないと。治すための何か。
起きあがろうとしました。ガクガク震える足を必死に支え、壁づたいに身体を起こす。
膝をついて少しずつ。息が切れる。頑張れ。右足を立てて、次は左足を。
両足で立ち上がった途端、フウっと力が抜けました。倒れ込んで布団に逆戻り。
ダメです。立ち上がることはできても、立った状態を維持することができません。
ご飯を食べてないせいでしょうか。でも食欲は沸かない。ご飯を想像しただけで気持ち悪い。
そうだ。動き回らずとも、考えることはできる。意識は朦朧としてるけど。ただ寝てるけよりマシだ。
どうやったら治る?どうやったらタケシ君は戻ってくる?あの女の子は?
さぁ、考えるんだ・・


第14週「終局」