世界 サキの日記

サキの日記 第一節「転生」


7/1 晴れ
目が覚めたとき、私は病院のベットの中にいました。お腹の傷が痛みました。なんで怪我してるんでしょう。
私には記憶がありません。お母さんと名乗る人から「サキ」と呼ばれてるので名前はサキだと思います。
よく分からないけどお医者さんに検査をして貰いました。結果は教えてくれませんでした。
お母さんが「暇つぶしに」とノートパソコンを持ってきてくれたので、一日中ゲームをして遊んでました。
何故か日記を書かなきゃいけない気分になったので書いてます。少しお腹の痛みが和らぎました。
私は今素敵な気分です。


7/2 雨
お医者さんに幾つかの質問をされました。記憶が無いのでよくわからないと答えたら変な顔されました。
そのあとお医者さんとお母さんがもめてました。私の事を話してたみたいです。詳しくは聞き取れませんでした。
話が終わるとお医者さんが私の所に来て説明をしてくれました。
「きみのきおくしょうがいはせいしんてきなものだ。からだにはいじょうがみられなかったから。だからきみには」
内容がうまく理解できませんでした。話も途中までしか覚えてません。淡々と喋ってたのは覚えてます。
お母さんが「すぐ戻れるから。」と言ってました。私はすぐには戻れないと思いました。
少し悲しいです。


7/3 曇り
今日から私は違う病院に入院する事になりました。昨日お母さんが話してたのはこの事だったらしいです。
こっちの病院には色々な人が居ます。一日中水飲み場で流れる水を眺めてるお兄さんとかが居ました。
中庭で地面を掘っては埋めて掘っては埋めてを繰り返してるおじさんもいました。叫んでる人もいました。
親に殴られて謝ってる女の子も居ました。親が居なくなったら今度は他の人に殴られてました。
私は女の子を殴った人になんでそんな事するのか聞いてみました。私もぶたれました。
頬が痛いです。


7/4 雨
昨日の女の子が声をかけてきてくれました。アザミとお友達になりました。私より少し年上らしいです。
私とアザミを殴った男について話しました。アザミはその男の名前を知らないそうです。
私はそいつをオクダと名付けました。なんでその名前が浮かんできたのか自分でもわかりません。
オクダはいつもアザミの事を殴るそうです。でも先生に言うともっと殴られるので言えないと言ってました。
いつも誰もいない時に殴るので先生は気付いてくれないそうです。とても酷いヤツだと思いました。
憎いです。


7/6 曇り
アザミと一緒にオクダから逃げ回ってました。しつこくて困ってます。なんとかならないのでしょうか。
私はまだお腹の傷が治りきってないので逃げるのが結構辛いです。オクダの事を先生に話そうとしました。
アザミに止められました。先生には言っちゃ駄目だそうです。遠くから先生がこっちを見てました。
夜、先生が私の所にやってきてアザミと友達になっちゃいけないと言われました。
何故でしょう。


7/8 曇り
オクダが何かを投げつけてきました。私の身体に当たった後、それは変な汁を飛ばしながら地面に落ちました。
アザミは怖がって目をふさいでます。私はそれを拾い上げてみました。潰れた虫でした。
虫の残骸を見てるととても不思議な気分になりました。アザミは何処かへ行ってしまいました。
私は一人、中庭に行って虫の死体を埋めてあげました。小枝を一本立ててお墓の完成です。
「虫君、さようなら。」と別れを告げると、涙が溢れてきました。お墓に涙の滴が落ちていきます。
虫君はもう居ないんです。


7/9 晴れ
夜、窓を開けると空いっぱいに星が光ってました。とても綺麗です。
昨日の虫君はあの星の所へ行ってしまいました。光に包まれて生まれ変わることでしょう。
オクダ。あの名前が浮かんできた理由は未だに分かりません。懐かしいような、憎らしいような。
目が覚めた時から、自覚してる事が一つだけあります。それは私の心が叫んでいるのだと思います。
目をつぶり両手をいっぱいに広げると星の光を全身に浴びることが出来ました。気持ちいい。
星降る夜空を見上げ、私はその叫びを口にしました。体中が震えてその言葉に呼応します。
私は、生まれ変わった。


サキの日記2−「約束」