光と影の世界 −サキの日記−
サキの日記 第四節「再臨」
8/10 雨
アザミにこんな姿にをしたのはオクダ。オクダの笑う姿が目に浮かびます。嫌な笑い方。
私は屋上に行き、立入禁止の柵を乗り越えて給水塔に上りました。少しでも空に近づきたかったんです。
先生達が駆けつけてくるまでの数分間、私はずっと空を眺めてました。アザミは空に居るの?それとも・・・・・。
ベットの下に隠してあるアザミの頭は何も語ってくれません。身体を失ったアザミ。親友を失った私。
オクダ。許せない。
8/12 晴れ
アザミと遊べない暇な時間、私はなんでこの病院に居るんだろう?なんて事を考えてました。
こうやってたまにボーっとしてしまうからでしょうか。お腹がなんで傷ついてるわからないからでしょうか。
前の病院で目が覚める以前の記憶が無いから?あの時お医者さんにされた質問、なんだっけな・・・・・。
「なんでお腹が傷ついてるのか分かるよね?」記憶が無いのでよくわかりません。
「自分のしたこと、覚えてる?」記憶が無いのでよくわかりません。
「君の名前は?」記憶が無いのでよくわかりません。
「他人を傷つけたことはある?」記憶が無いのでよくわかりません。
「人殺しは悪いことだと思う?」記憶が無いのでよくわかりません。
他にも色々聞かれたようなきがするけど、どれも答えられなかったっけ。でもそれは今も同じ。
今でもよくわかりません。
8/15 曇り
すっと雲を見てました。何故かオクダの顔が頭に浮かんできました。
アザミがあんな姿になってから、オクダの事が頭から離れません。とても不愉快です。
このモヤモヤした気持ちは何でしょうか。オクダの存在が憎くてたまりません。
消えて欲しいな・・・・。
8/16 晴れ
何故私は壊れた給水塔の南京錠を持ってるんでしょう?
オクダ、早く私の前から消えて!
じゃないと私は・・・・・・・!
8/18 晴れ
私の中に何かが降りてきた。ふらふらと廊下を歩いてるとき、私はそう思いました。
先生達が屋上に走っていきます。水飲み場でいつも水を眺めてるお兄さんが話しかけてきました。
「ねぇ、なんか水の出が悪いんだけど・・・。」私はその理由を知ってました。そしてそれがすぐに治る事も。
少し待ってればすぐモトの状態に戻りますよ、と言って私は部屋に戻りました。
ベッドの下のアザミの横に壊れた南京錠が置いてあります。アザミ、オクダの事はもう決着がついたよ。
私が何か呟いてる。無意識に言葉が出てきました。私は虫じゃない。私は虫じゃない。私は、虫じゃ、ない。
虫にはもう戻らない。
8/19 晴れ
私は「作業」の途中、花を咲かせたくなりました。それは一つの区切りとし必要な事だと思いました。
薊。薊の花がいい。今は季節はずれだけど、私はその花を咲かせなければならない。生まれ変わった証に。
アザミと同じ名の花、薊。種は・・・あるのかな?私は薊の種を捜して彷徨いました。
気がつくと私は知らない所に居ました。「外」に出てしまった事に気がつくのに数分かかりました。
知らない少年がじっと私の事を見てました。私もその少年を見てました。何かを思い出しそうになりました。
先生が私を連れ戻しに来ました。何をやってるの?薊の花を咲かしたいんです。種を捜してるんです。
そんな野草春になれば放って置いても咲いてくれるよ。私はその言葉を胸に刻み込みました。
野草のように。私は春に薊の花が咲くように、自然に生まれ変わった。私自身がすることはもう何もないんだね。
新しい私が、ここにいる。
8/20 晴れ
お母さんから電話が有りました。少ない時間だったけど新しい私の話をお母さんはじっくり聞いてくれました。
話が終わるとお母さんは言いました。ワタベさんからの伝言がある、と。そしてそれはお母さんの意見でもあると。
「ネットに繋いで。」私は電話が終わった後もその言葉を噛み締めてました。ネットに繋ぐ。
私は日記を付け初めてから惰性的に日記をサーバーにアップしてました。何故そんな事をしてるのか、
また何故自分がそんな事をできるのかはわかりません。恐らく記憶を失う前、私は同じ事をしてたんでしょう。
でもそれはインターネットをできる状態でもあったんです。「ネットに繋いで。」という言葉でそれを思い出しました。
私は「お気に入り」にポインタをあわせました。パッと右にファイルが開きます。一番上にあったそこは、
「希望の世界」。懐かしいような、悲しいような、そんな感情が私を襲いました。
その文字をクリックしました。画面に「希望の世界」が広がります。戻ってきた。私は新しくなって、戻ってきた。
一筋の涙が頬を伝いました。
→第2章「再始動」
カイザー日記5.「希望の世界」