世界 サキの日記

サキの日記 第七節「序曲」


9/9 晴れ
今日もワタベさんと電話でお話しました。私はどうすればいいのか聞いてみました。
「サキさんは何もしなくていいです。適当に話を合わせて下さい。」
「あと、当日は『渚』さんの名前を貸して貰います。構わない?」ええ、構いません。
いつも用件だけで電話が終わってしまいます。考えてみると私はワタベさんのことを何も知りません。
電話を切る前に私はワタベさんにお願いをしました。「オフ会の前に一度会えませんか?」
いいですよ、と返事が返ってきました。私達、もっと話をしなくちゃいけないと思うんです。
ワタベさんをもっと知りたい。


9/10 晴れ
まだまだ暑い日が続きます。「作業」に出るたびに汗がびっしょりになってしまいます。
そんな中、ワタベさんについて思いを張り巡らしてみました。あの人、どんな人なんだろう?
いつも私には分からない話か用件だけを話しておしまい。どんな事を考えてるのか想像つきません。
おそらく私には決して想像し得ないものがワタベさんを動かしてるんだと思います。
「希望の世界」ではK.アザミが「オフ会参加は・・・っと。言っちゃいけないんでしたね。でも楽しみですよね。」
との書き込み。アザミもワタベさんに会いたいの?でもこっち側での身体がないからあなたには無理だよ。
会えないよ。


9/11 晴れ
sakkyさんも書き込んでくれたから私も書き込んでおきました。「行きたいけど行くかは秘密ね。」
これで行くことをほのめかすことはできたと思います。実際に行くのはワタベさんだけど。
ワタベさんはオフ会なんか開いて何をするつもりなんでしょう?sakkyさんの姿を見たいだけ?
それだけでも十分理由にはなるかな。私もsakkyさんの姿を見たい。でももっと何か有るような気がします。
もう一人の三木さんの事も知りたがってっけ。アザミは私のベットの下に居るけど・・・あの姿じゃ見せられないよ。
ワタベさん、何考えてるの?


9/12 晴れ
ワタベさんに抱きしめられたとき、私は何が起こったのかうまく理解できませんでした。
約束通りワタベさんはオフ会の前に私に会いに来てくれました。オフ会で何をするつもりなのか聞いてみました。
そこで、突然抱きしめられました。「もう、何もしなくていいのよ。」って言ってくれました。
「あなたは、もう十分酷い目にあったから。嫌なことは忘れなきゃね。あとは私にまかせて。」
とても哀しい顔でした。「何も知らないくせにsakkyの名前を使う奴に、事の重さを思い知らせてやるの。」
思い出せない私の過去が、ワタベさんを動かす原因だって言ってた。私は一体・・・・?
部屋の隅で虫が這ってる。


9/13 晴れ
「希望の世界」ではゲリラオフ会について追記がありました。みんなベルをつけて来るんだって。
ラジオがどうのと書いてありましたが私はそんなラジオ知りません。ベルをつけると聴いてる証?変なの。
それにワタベさん。最初は一人称が「僕」だったのに途中から「私」に変わっちゃってるよ。うっかりしてたのかな。
私は「ベルはイイ考えだと思う!」と書いておきました。これでワタベさんも行きやすくなったと思います。
もうオフ会は明後日。何が起こるのか想像つかないよ。
心配・・・・。


9/14 曇り
とうとうオフ会は明日になりました。私は何もできないけど、ここで祈ってるよ。何も起きませんようにって。
ワタベさん、頑張って。きっとうまくいくよ。だってそんな予感がするから。でも嫌な予感もするの。
もう私にはわけがわかりません。明日のことは明日にならないと知ることはできないんだから。
「希望の世界」に繋ぎました。ここに書き込んでる人だけじゃない。これを見てる人だって来るかもしれない。
画面に向かって小さく叫びました。「あなた達、一体何者なの?」
誰か答えてよ。


9/15 風が強かった
今日はオフ会です。午後1時過ぎ、ワタベさんから電話がありました。
ワタベさんが言った事を正確に書き留めます。
「今携帯からかけ・・・けど、時間無い・・・・かに話す・・・。誰が、何なのか分かった・・・・・・!
今・・・・を追ってるトコなの・・・。あと・・・にも会った・・・。・・・・・・に!あ、ごめん!今から地下入る・・・切るね!
じゃ!・・・・・連絡する・・・・・!」
私が聞き取れたのはこれだけでした。携帯の電波の調子が悪かったらしいです。それとも風のせいでしょうか。
ワタベさんはとても急いでるようでした。走りながら電話してたみたいです。
その後、ワタベさんからの連絡はありません。
「希望の世界」には誰も書き込んでません。誰もいません。何なの?みんな何処にいっちゃったの?
ワタベさん、今どこ?教えて下さい。あなたは今どこにいるんですか?何が起きたんですか?答えて下さい!
ねぇ、ワタベさん!


サキの日記8−「無音」