世界 カイザー日記

カイザー日記 Chapter:10「オクダ」


10/9 曇り
風邪のせいで数日学校を休む羽目になった。今日はもう熱は引いてる。
病院に行ってオクダに会おうと思った。オクダの話が聞きたい。ベンチに座ってれば奴から話しかけてくるはず。
ずっと待ってた。ずっとベンチに座ってた。
オクダは来なかった。病院中探し回ってみたけど見つからなかった。
中へ入る為のドアの前に立った。前にこのドアを通れたのは偶然だった。誰かが出入りした時に横を駆け抜ける。
チャンスを待った。オクダに会えないのなら、直接早紀さんの所へ行くしかない。僕が中に入るんだ。
ドアが開く。僕は走り出した。入り口を通ってるのは僕の担当の先生とおばさんだった。
僕は構わず横を走り抜けようとした。でもダメだった。先生に肩を掴まれた。「何処に行くんだ。」
行かせて下さい。中に入れて下さい。僕は必死になって頼んだ。涙も流していた。
先生から出てきた言葉は冷たかった。「どいつもこいつもわがまま言うな。」
おばさんが哀れな目で僕を見てた。目が合った。おばさんは目を反らしたけど僕はずっと睨んでやった。
「さっさと帰れ。」と先生に言われた。今日のカウンセリングも終わったしオクダにも会えない。中にも入れない。
もう病院に居る意味は無かった。
「希望の世界」に繋ぐと不思議な気分になる。三木の発言はない。
居るのは「K.アザミ」と渚さん。sakkyの名はもう使えない。使えるわけがない。
渚さんは早紀さんのお母さん、なのか?本当に?三木だって入れ替わってたんだぞ?sakkyだってそうだぞ?
今日も僕は進めなかった。


10/10 晴れ
オクダに会いに行きたかったけど病院は休みだった。今日は日曜日か。
今日はオクダに会うのを諦めた。他の方法で早紀さんへのアプローチを。
思い浮かんだのは「希望の世界」だった。僕にはもうこれしか残ってない。
渚さん。あなたが早紀さんのお母さんなのかはわからないけど、ここで頼れる人はあなたしかいないんです。
sakkyの名を勝手に使っても何も言わない渚さん。あなたか何者かわからないけど、これで最後にしますから。
sakkyの名前を使うのはこれで最後にしますから、答えて下さい。
僕は渚さんに直接メールを送った。掲示板に書くと遠藤智久に見られるから。
文章はとても単純。「早紀さんは今どうしてるんですか?」
送ってから自分が馬鹿げた文を書いてる事に気が付いた。もっと聞きたい事がたくさんあるのに僕は。
カイザー・ソゼの名前を使うべきだったかもしれない。どうせもうニセモノだとバレてるんだから。
何をやっても早紀さんは遠ざかっていくばかりだ。
しばらくしてからメールチェックをするともう返事が返ってきた。
「私は元気です。」

僕はここ数日で色んな情報を詰め込んできたので頭がうまくまわらない。
「僕の日記」を読んでからも僕の精神状態はかなりヤバくなってると思う。
渚さんからのメールは、僕の許容量を超えた。
他のあらゆる思考が何処かに飛んでいってしまった。唯一残った結論も疑いようがいくらでもある。
でも、僕には疑う為の思考が飛んでしまってる。だからそれを事実だと受け入れた。
渚さんが、早紀さんだ。


10/11 晴れ
一夜明けて、僕は思わず「希望の世界」に書き込んでしまった。カイザー・ソゼの名前を使って。
一言、「早紀さん、会いに行きます。」と。
絶対会ってやる。遠藤智久、見てるか?。見てようが構わない。僕の方が早紀さんに近い。
渚さんが早紀さんだというのは間違ってる推測かもしれないのは十分わかってる。
でもそんな事言ってたら進めないじゃないか。少しでも可能性を追え。僕にはそれしか道はない。
早紀さんは病院にいる。オクダが会ってる。僕はオクダを知ってる。あらゆる情報を駆使しろ。
もう戻れない。早紀さんに会ってその後どうなるのかなんて考えない。
どうやって遠藤智久を撃退するか?早紀さんを守りきれるか?そんなの、早紀さんに会ってから考えるんだ。
僕は自分を奮い立たせた。前へ進むための道は見えてる。ゴールだって見えてる。
行け。


10/12 晴れ
オクダはすぐに捕まった。ベンチに座って空を見つめていた。
僕と目が合うと奴は怯えて逃げだそうとした。僕は肩をつかんで引き留めた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。オクダは今日も謝ってる。僕は言った。
「怖がるなって。僕もあの先生には怖い目にあったから。一緒に話そうよ。」
オクダはまだ僕を疑っていた。先生?先生はいい人だよ。優しいよ。素敵だよ。大好きだよ。
かわいそうに。僕がチクるとでも思ったんだろう。嘘ばっか言ってる。
「じゃあなんで僕の事を怖がるんだよ。」
君の、名前が、嫌なんだ。無茶苦茶な言い訳だ。これ以上聞いてもマトモな返事は聞けない。
あまり多くの事を聞くとオクダは混乱してしまいそうだった。できるだけ簡単に、手短に、知りたい事を聞いてみた。
「君をオクダを呼ぶ変な女は中にいるの?」
うん。はい。そうです。中にいます。オクダはまた泣いていた。何度も何度も頷きながら泣きじゃくっていた。
オーケー。それでいい。早紀さんが中に居ることは確認できた。次は中に入るための手段を考えるんだ。
オクダは走って逃げていった。
中に入るか、あるいは中の早紀さんとリアルなコンタクトをとるためにオクダを利用しようと思ってたけど
あれじゃ使い物にならないな。後は強行突破か、スマートに面会を申し込むか。面会は・・・許可が必要か。
今日のところは引き上げよう。あまり強引にやるとこの前みたく失敗するに決まってる。
夕方、「希望の世界」に繋いで僕は自分の愚かさを呪った。今日のうちに早紀さんに会っておくべきだった。
早紀さんは病院の場所を掲示板に、よりによって掲示板に書き込んでいた。
思わず叫んだ。早紀さん。そんな事しなくてもいいんですよ。僕はもう知ってるんですから。そんな事したら・・・・
遠藤智久に居場所がバレてしまうじゃないですか。
早紀さんは好意で書き込んだんだろう。でも、いや、僕が軽率な発言をしたせいだ。僕のせいだ。
もう悠長な事言ってられない。明日にでも会わなきゃ。奴から守ってあげなきゃ。
遠藤智久。頼むからこの発言は見ないでいてくれ。畜生。掲示板も乗っ取るべきだった。発言が消せない。くそ。
ああああああああ


10/13 晴れ
中への扉はいつもに増して重く見えた。思い切って入ろうとした矢先、先生に見つかった。
「そっちは行っちゃダメだぞ。」といつもの優しい声で注意してきた。普段は優しいんだ。普段は。
僕は中に入りたいと言った。先生はちょっと顔をしかめて「なんで?」と言った。また口調は穏やかだ。
例の、パソコンを趣味にしてる患者さんに会いたいんです。
言った後で僕は自分の言葉に驚いていた。そうだ。その人が早紀さんだよ。パソコン。インターネット。渚さん。
何故気付かなかったんだ。僕は、ずっと前から早紀さんに会いたがってたんだ。
頭の霧が晴れていく気分だった。知らない内に笑ってた。僕は笑ってる。顔だけ、笑ってる。
先生の顔は明らかに強ばった。僕が笑ってるからじゃない。突然笑う人なんてここにはたくさん居る。
問題は、僕が早紀さんに会いたがっている、ということだった。
「なんで?」
声色が変わった。怖い。これだよ。僕が怯えたのは。この声が僕に恐怖心を植え付けた。
けど、もう怖がってはいられなかった。なんとしても早紀さんに会わなければならない。
とにかく会いたいんです。会わせて下さい。お願いです。
理由は説明できない。遠藤智久に狙われてる早紀さんを守るようワタベさんに頼まれた。マトモに聞くワケないよ。
会いたいんです。
先生は僕の肩を掴んだ。中の人とそんな簡単に面会させるわけにはいかない。諦めろ。いいな。諦めるんだ。
何故です。僕は食い下がった。前頼んだときは大丈夫そうだったじゃないですか。なんで今だとダメなんですか。
先生は少し黙ったあと、低い声でこう答えた。「君の態度だ。」
前はそんなにしつこくなかったよな。今は何だ?ワケもなく会いたいなんて言って。
あの子はな、見せ物じゃないんだ。軽く考えるな。好きで中にいるわけじゃないんだぞ。わかったか?
一通り言い終えてから、ようやく僕の肩が解放された。先生は少し反省してるみたいだった。
取り乱してすまなかった。けどな。君を中に入れる事はできない。これは決まりでもあるんだ。
僕はわかりました、と言ってその場を諦めた。
今日は駄目だった。でも僕にはもう次の手段が考えてあった。早紀さんが、僕に会いたいと言えばいいんだ。
早紀さんの方から頼まれれば先生も納得するはず。
僕は「希望の世界」に繋いで早紀さんに頼もうとした。先生を説得するように。頼もうと、した。
誰だ。これは誰だ。答えが分かってるにもかかわらず僕は叫んでしまった。誰なんだ。このカイザー・ソゼは!
僕じゃないカイザー・ソゼが早紀さんに会いに行くと言ってる。
遠藤智久。お前か。やっぱり見てたのか。見てたんだな。早紀さんの居場所がバレた。病院がバレた。
見つかった。


10/14 雨
先生はどうしても中に入れてくれなかった。
早紀さんがどう言ったのか聞いたけど答えてくれなかった。昨日、早紀さんに頼んでおいたのに・・・・。
早紀さんはちゃんと言ってくれたんだろうか。それすらもわからない。
僕が何を言っても聞いてくれない。先生が中に入れさせてくれない。
病院のロビー。突然笑う人や泣き出す人、沈痛な表情を浮かべてる人、普通っぽい人。
色々な人に囲まれて、僕はただ呆然と立ちすくんでいた。
オクダがやって来た。今日も怯えた顔で僕を見る。
突然紙袋を押しつけてきた。返したから。ちゃんと返したからね。ちょっと無いのは僕のせいじゃないよ。
誰かが持ってっちゃったんだ。僕悪くないよ。僕は返したからね。ちゃんと返したよ。
言うだけ言ったら逃げてしまった。残ったのは紙袋だけ。
中を見ると、泥だらけの人形が、バラバラになって入ってた。僕は思わず叫んだ。「何だよこれ。」
頭は無い。
胴体がバラバラにされた人形。泥まみれ。なんで僕に。
それ以上考えても答えは見つかりそうになかったので帰った。バラバラ人形も連れて。

「希望の世界」に繋ぐ。早紀さんはちゃんと今日先生に頼んでおくと言ってた。
やっぱり先生が邪魔をしたんだ。頼まれてたのに無視しやがったんだ。
でも僕はそれほど落胆してなかった。僕がこんなに手間取ってるんだ。それは遠藤智久だって同じはず。
奴だってそんな簡単に早紀さんには会えないさ。先生に邪魔されるに決まってる。大丈夫。
まだ、大丈夫。


カイザー日記11.「BATTLE」