光と影の世界 −サキの日記−
サキの日記 第十三節「慟哭」
10/31 晴れ
今日も無駄に空は晴れてます。雨でも降っちゃえばいいのに。
なんとなく病院をウロウロしてみました。天気がいいから、屋上にでも行ってみようかな。
階段を上っていくと、看板が出てました。「この先立入禁止」だって。無視。
屋上に出る扉には鍵がかかってました。もう、屋上にすら出られなくなってる・・・。
私はオクダを給水塔に突き落とした時の事を思い出しました。
アザミをバラバラにされて怒ってそれで・・・でも、殺さなかった。殺しちゃダメだと思った。
だから、助けを求めるオクダの手をとって、引き上げた。そうだよ。私、殺さなかったんだから。
人を殺してしまうほど私は狂ってなんかない。ただ、記憶が無いだけ。それ以外は、マトモだよね?ね?
・・・・答えてくれる人がいません。
11/1 大雨
昨日のお願いが通じたのか、外は大雨になりました。もっと降っちゃえ。
ベッドのシーツがベトベトして気持ち悪いです。湿気ってる。今日は来てくれません。
こんな時、いつもはお母さんが新しいシーツを持ってきてくれるんだけど、たぶんもう来てくれない。
シーツはこのまま汚れっぱなし。パジャマもこのまま。下着も、このまま。
雨のわりには気温が高く、汗もかいてしまいました。ベトベト。着替えはナシ。
ちょこっとだけ、雨を憎んでしまいました。
自分から呼んだのにね。
11/2 曇り
久々にアザミのお母さんを見かけました。相変わらず先生の与えた人形を殴ってる。
あんな人でさえ構ってくれる相手がいるのに。私には、いない。誰もいない。
食事を持ってきてくれる人も、会話はしてくれない。話しかけてもにっこり笑って、それだけ。
私にはなんとなくその理由がわかるよ。私が、先生の子供だからでしょ?
大人ってそんな事ばっか気にする。くだらないよ。人間関係なんて。
ほら、私、人間関係なんて難しいコト考えてる。「中」にいるどの人よりもマトモなコト考えてると思わない?
ふふ。誰に向かって言ってるんだろ。
11/3 晴れ
先生が来ました。お母さんが来て欲しかったのに。
「一昨日な、この前の奴が通院やめるって言ってたぞ。」それだけ言って帰ろうとしました。
私は聞き返して少し引き留めました。この前の人って、誰?
先生は名前を・・・・ちょっと不思議な響きの名前・・・・を言いました。その名前に心当たりはないけど。
私は最初それが誰なのかわかりませんでした。でも、「この前の奴」って言ったら・・・・それって、もしかして。
カイザーソゼさん?私は思わず叫んでしまいました。先生は変な顔して言いました。
「カイザー・ソゼ?ああ、お前はそう呼んでたな。そいつだ。」
そして先生は部屋を出ました。私は少し、いや、かなり悲しくなりました。カイザー・ソゼさん・・・・・
やっぱり、もう来ないんだね。
11/4 曇り
ベッドの横の机にお腹をぶつけてしまいました。お腹の傷がまたうずきました。
痛いです。とっても痛かったです。しばらくじっとしてたら痛みはなんとか引きました。
そこで、私はふと疑問に思いました。この傷は、どうしてできたんだろうって。
昔の記憶が無いのでよくわかりません。K.アザミは何て言ってたっけ?
ああそうだ。私が自分で刺したって・・・・本当かなぁ。自分で自分のお腹を刺すなんて、ちょっと信じられない。
今度お母さんに聞いてみよ。
11/5 晴れ
また先生が来ました。お母さんは来ません。
仕方ないから昨日の疑問は先生に聞いてみることにしました。
先生は私の様子だけ見て帰ろうとしたけど引き留めました。「私のお腹の傷、なんでできたの?」と聞きました。
先生は私をなんだか哀れそうな目で見ました。「知らない方がいいぞ。」だって。
何それ。余計気になる。私は「いいから教えて。」と言いました。先生は深いため息をつきました。
そして、何を思ったか急にけけけと笑いました。いいだろう。教えてやるよ。そのかわり後悔するなよ。
後悔しないから教えて、と私。それから先生はまたけけけと笑って・・・・・・・言いました。
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あんな事日記に書きたくない。
11/6 曇り
昨日まで、お母さん来て欲しいなってずっと思ってたけど、もうそんな風に思わない。思えない。
一日中、お母さんが来ないように祈ってました。もうマトモにお母さんの顔見られない。
先生も酷いよ。私がショック受けるの知ってて言ったんだから。
今でもドアが何時開くのかビクビクしてます。お母さん来たらどうしよう。先生も嫌。
怖いよ。涙が出てくるよ。震えが止まらないよ。聞かなきゃ良かった。知らなきゃ良かった。
外に出たい。ここにいると逃げられない。外に出たい。外に出たい。外に出たい。外に出たい。
ここから、出して。
→サキの日記14.「脱出」