希望の世界 −まめ日記−
第十二週「集結」
3月6日(月) くもり。
外に出たくない。出るのがコワイ。
ラカソにはまだウチの場所まではバレてないよね?けど、ここら辺に住んでるってコトは知ってる!
このアパートが割れたらボクはもうオシマイだ。コロサレル。
今度こそ本当に殺される・・・・・
ボクがこんな状況だと言うのに、守る会の人達はボクを助けてくれない!
なんだよみんな。連絡も取れないなんて!
掲示板で助けを求めようと思った。さっそく繋いでみた。
ボクは画面の前でひっくり返った。
「sakkyを守る会」が・・・・無い!
試しにバイオちゃんの方からモバイル接続。それでもダメだった。
鯖が混んでるのかと思って何回も何回もリロードした。
・・・ダメ。掲示板レンタル元ごとダメなのかと思って言ってみると、そこはちゃんと大丈夫だった。
守る会だけ、消えた・・・・・。
「希望の世界」の方の掲示板では奥田が「ボレロ撃墜せり。さらに追撃の予定。」とコワイこと書いてる。
sakkyのコメントは無い。他の人のカキコも無い。
ナイナイナイ。何もナイ。
ナイー。
3月7日(火) は れ
見捨てられたのはボクだけじゃなかった!
ケータイちゃんに電話があった。非通知設定だったからカノンかと思ってすぐに取った。
けど聞こえてきた声はカノンじゃなかった。もっと汚らしい声。
ワルキューレだった。
「ボレロさんスか?ワルキューレですけど。」と聞き苦しい声が。
「sakkyを守る会入れます?なんか消えてるっぽくないスか?」
ボクは大喜びした。やっぱボクだけじゃなかったんだ!
でしょ?でしょ?でしょ?ボクもなんだよ〜。なんかおかしいよね!
「そっちもそうでした?良かったー。俺だけ見捨てられてたらどうしようかと思ってましたよ。」
うんうんうんうんわかるわかるよその気持ち。
「sakkyさんはおろかカノンさんやトロイメライさん、ラカンパネラさんまで連絡つかなくって・・・・・。」
ラカソ!そうか。このガキはラカソの正体とか知らないんだ!
ボクは説明してやった。ラカソが裏切り者でそのおかげでボクは酷い目にあって・・・・
ブサイク君は「そうだったんですか・・・・。」って驚いてた。
今更知っても遅いんだよバーカ!
けど、なんだかんだでこれからどうするのかとかの話は全然進まなかった。
残ったボクら二人でどうしろと言うのだろう?
ワルキューレはまた相談しましょうね、と言って電話を切った。
はぁ。にしてもよりによって何故あのブサイク君と二人きりにならなくちゃいけないんだよぅ。
sakkyと二人きりになりたかったのに。それがダメならせめてトロイメライちゃん・・・・・・
みんな・・・何やってるんだよぅ・・・
3月8日(水) はれはれ
二人だけじゃなかったよぉぉぉぉぉぉ!!
てゆーか、トロイメライちゃんの声始めて聞いた!!
ケータイ最高!持ってて良かった〜
「こんにちわ。トロイメライです。」ってイキナリかけてくるんだモン!
ボクひっくり返っちゃったよ〜なんだなんだぁ?TELしてくるなんてボクに気があるのかぁ?
「守る会消えちゃってびっくりしてますー。そっちはどうですか?」だって!
ボクも大変だよー!なんか二人で大変なコトになっちゃってるねー!
ワルキューレなんてのもいたけどあいつは無視♪
やっぱパートナーはブサイク君よか萌えちゃんでしょ。
「やっぱりそっちもですか・・・。どうもありがとうございました。」
これでプッチリ。
会話終了!ちょっとそっけない辺りがまた素敵!
無愛想な言葉の節から、チラと見えるわずかな好意。
男心くすぐるねぇ。sakkyとはまた別タイプで萌えるかも〜
ボレロとトロイメライ。突然消えたsakkyを守る会。
全ては謎に包まれたまま。しかし残された二人は共に生きる決意を・・・・。
んー。いいかもしんない。
けどそれをラカソのバカが邪魔をする。ヤツさえ居なけりゃボクは自由に外に出れて
すぐにでもトロイメライちゃんの元に駆けつけるのに。
ラカソが憎い・・・・
でもコワイ
3月9日(木) コワイ
昨日は夢のような気分だったのに。
今日は・・・・イヤーな気分。それもすんごく。
ラカソが懲りずに奥田なんたらとかいう名前で掲示板にコワイことを書いてた。
「遠藤家をしらみつぶしに探す事にした。覚悟して待ってな。」
そしてご丁寧に「本日の探索記録」とかいってどこら辺調べたか報告書まで書いてやがる。
前ラカソに襲われた場所らへん一帯だった。
って、結構近いジャン!!!!
表に出てすぐに表札をしまった。これなら見つからない・・・・?
待てよ。となるとボクはずっと家にいなきゃいけなくなる?
ご飯を買いに行くことも漫画を買いに行くこともお散歩することもできなくなる!?
ラカソが張ってたら、見つかっちゃうYO!!
やばいよぅこのアパートまで来られたらもう逃げられないよぅ。
今のウチにお引っ越しすべきなのかもしれないけどその作業見られたらオシマイだしいやまてよ
今からお金もってどっかいっちゃおうかイイ考えかもでもあのカキコは実は嘘でもうここら辺で張ってて
ボクが慌てて飛び出すのを待ってて罠にハマって捕まっちゃって・・・・・・・・
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう何もできないじゃないか
今すぐにでもそこの窓を割って家に入ってくるかもしれないあのバットでドアをたたき壊してくるかもしれない
やめてよボロアパートなんだからボクのネット収入でも弁償しきれないかもしれないしけど来たら止められないし
そうだ迎え撃たなきゃ装備だ装備だ兜に盾に鎧に剣に
あああーーー!!!でも一度破られてるんだったーーーーーー!!!
ダメじゃんダメじゃんまたやられちゃうだけじゃんどうしようどうしようどうしよう
sakky助けてカノン助けてトロイメライちゃん助けてこの際ワルキューレでもイイから助けて
ラカソが来るよぅバットでボクを叩くよぅ殺されるよぅコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコ
ワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワ
イコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコ
ワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワ
イコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワ
イコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコ
ワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワ
イコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイ
コワイコw
3月10日(金) da-chu-ra
部屋を真っ暗にして布団にくるまってプルプル震えてもう夜になった。
一日中震えてたから体がだるい。ラカソ、来るな。ラカソ、来るな。ラカソ、来るな。ずっと呟いてた。
ケータイが鳴った。ラカソかと思ってひぃと悲鳴をあげた。
ずっと鳴ってて怖かった。来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで
けどふと思った。ラカソはボクのケータイ番号知らないんじゃ?
ちろっとケータイちゃんに目をやった。非通知設定。
トロイメライちゃん!!??
あわてて通話ボタン。「もしもし。やっと繋がった・・・。」・・・・男の声。しかも聞き苦しいアノ声。
ワルキューレだった。最初はがっかりした気分だったけそすぐに嬉しさが込み上げてきた。
ブサイク君でもイイ。ボクを助けて!!
「ワルキュウーーーレェェェ。」と助けを求めた。「どうしたんスか?」とワル君。
ボクは事情を説明した。ラカソが襲ってくること。外に出られないこと。そして・・トロイメライちゃんのことも・・・
ボクだけの秘密にしておきたかったけどもうそんな事言ってられない。
正直に全部話してワルキューレに助けてもらわないと・・・
「トロイメライさんと話したんですか・・・。いいなぁ。」・・・・ちょっと優越な気分になった。
「警察に言ったらどうですか?」とワル君が言った。
わかってない。それはダメなんだ。警察だけはダメ。とにかくダメなんだ。
ワル君は「そんなに言うのなら別にいいんですけど・・。」と分かってくれた。
助けてよ。ボクは外に出られないんだ。ラカソをやっつけてよ。コワイんだよ・・コワイ・・・・コワイ・・
「なんなら、ボレロさんトコに行きましょうか?二人ならなんとかなるかも。」
おおおおおおお。いいねいいねぇイイ考えだよぉぉぉぉ!!
野郎を家に上げるのはちょっとイヤだけどラカソにやられるよかマシだ。
あのラカソにワル君が太刀打ちできるとは思えないけど盾くらいにはなる。
「来て来て是非来てよ。お願いおねがいおねがい!!」
わかりました、とワル君は承諾してくれた。
で、・・・・とちょっとあっちに沈黙が。「ボレロさんち、ドコにあるんスか?」
あーあーそうだよ。何処かわかんなきゃ助けに来てもらえない。
ボクは詳しく説明してあげた。「じゃ、明日にでもお伺いします。」
待ってるよーーー。
掲示板では奥田なんたらが「本日の探索記録」を報告していた。
まだボクんちまでは届いてない。じゃぁ昨日の報告はホンモノだったのか!
昨日逃げておくべきだったかも・・・でも今日こそ罠かもしれない・・・
もしこのペースで探されたら明日にでもボクんちに到達される。
ああ、ワル君。早く助けにきておくれ。トロイメライちゃんもカノンもsakkyも消えちゃった。
もう頼りになるのはワル君だけ。ボクを助けるんだ。助けろ。ラカソを殺す。ラカソを殺せばボクは助かる。
一緒にあいつを殺そうよ。ボクらの敵だ。
ワル君、僕らはsakkyを守る会。塊となってヤツに向かうべきなんだ。
カノンはいないけど、以前誓った通りになったね。
二人でラカソをヤっちゃおう。やろう。ヤろう。
殺ろう。
3月11日(土) ・
痛い
酷い
なんだよコレ
血はもう止まったのかな?
あ・・乾いてる・・・・
夕方、ノックの音がした。ddって。
ラカソかと思って布団をかぶってガタガタ震えてた。
もう一回ddって聞こえた。ボクはひぃと小さく悲鳴をあげた。
「ボレロさん。ワルキューレですけど。」
ワル君だった。慌ててカギを外しにいった。バンってドアを開けるとワル君が立ってた。
すぐに部屋の中に入ってもらった。周りを見渡してみるとラカソはいなかったのでほっとした。
上がっていいスか?とワル君。どうぞどうぞ。
とりあえず無事にワル君が着いて一安心。良く来てくれた。
早速今後の事を話し合おう。ラカソをどう迎え撃つかsakkyを守る会はどうするか。
「ちょっとゆっくりしてからにしましょうよ。」
ワル君はお疲れの様子だった。結構歩いてきたのかな?駅から遠いもんね。
そうそう。来る途中ラカソみたいなやついなかった?
「別に・・・特に変わった人はいませんでしたよ。すれ違ったりしたのも普通の人ばっかです。」
ああ、何人かはすれ違ったんだね。改めてワル君のブサイク面を眺めてみた。
傷だらけで気持ち悪いほど醜い顔。たぶん火傷だ。傷が無い状態の顔なんか想像つかないよ。
初めて会った時はかなり引いたけど、話してることは普通だったからなんてことなく会話できた。
顔は醜いけど、結構イイ奴だしね。
ボクも結構人から嫌なこと言われたりするけど、ワル君の顔に比べたらまだマシかな。
考えてみれば、ワル君はボクにとって生まれて初めて優位に立てたヤツだったかもしれない。
けど・・・よくこんな顔で人前を歩けるナ。案外勇気のあるヤツだと思った。
「そう言えば、あの装備は本当にしてるんですか?」
ワル君が聞いてきた。うん。アレは本当だよ。あの装備、すっごく強いんだから!
折角の機会だったから、ワル君の誤解を解いておこうと思った。
ワル君掲示板では引いてたみたいだったけど、実物の強さを見ればこの良さを分かってくれるはず!
ボクは最強装備をワル君に見せてあげた。どうだいコレ。カッコイイでしょ。
しげしげと見つめるワル君。ボクはポーズを取って格好良さをアピールした。
「なかなか・・・強そうですねぇ。」
でしょ!?どうやら納得してくれたらしい。特にこの鎧はラカソのバット攻撃を凌いだほどなんだよ。
触ってみ?頑丈だよこれ。
「あ・・・でも本と本の間にちょっと隙間ありますね。」
ハハハ。そいつはご愛敬だよ。そですね、とワル君も笑ってくれた。
あとね、この妖刀マサムネ。ラカソにもかなりダメージを与えたんだよ。凄いんだよ。
おおー、と感心してくれた。あとねあとね。この盾もこの前役立ったんだ・・・
「ちょっとその包丁、見せてくれます?」
うんいいよ。是非手にとってその強さを確認してくれたまい。
マサムネを持ってみてワル君はさらに感心したようだった。「すごいなぁ。」とか言いながら光に当てたりしてた。
「あ、ちなみに今、何時でしょうか。」
えっとね・・・。あとちょこっとで6時になるところ。
「ありがとございます。もうそんな時間ですか。ギリギリになっちゃうな。」
何が?
一瞬何が起こったのかわからなかった。
自分が見ているモノを理解することができなかった。
コレは?
ボクのお腹にマサムネが刺さってる。「ご愛敬」の鎧のスキマに刺さってる。
じわりとレモンクラブが赤く染まってきた。え?え?どうなってるの?
もう一度マサムネに目を向けた。マサムネを握る傷だらけの手。目を上に上げた。
ボクは悲鳴をあげようとしたけど、あまりの怖さに声が出なかった。
あんな顔見たことない。何て言うんだろう・・・
恐ろしいまでの、無表情。傷だらけの顔に、何の表情も無い。
ワル君がマサムネでボクを刺していた。
その表情のままワル君が口を開いた。
「みんな、なかなか死んでくれないんですよね。」
その声が聞こえた時、体が急激に熱くなってきた。特に刺された部分が。
痛い。
ようやく声が出た。これ以上ないくらい絶叫した。
近所迷惑のことなんか考えてられなかった。
マサムネが動いた。ワル君が動かしてた。やめて。やめて。死んじゃう。ボク死んじゃうよ!
やめてーーーーーー!!!
バリーンと大きな音がした。
ガラスの破片がパラパラ散らかるのが見えた。
もう一回、バーンと音がした。
同時に黒い影がガラスの割れた窓から入ってきた。ガラスの破片にまみれた金属バット・・・
ラカソだった。
ラカソはボクとワル君の姿を見てすごく驚いた顔をしていた。
ワル君がサっと身を引いた。ドアに素早く駆け寄って逃げようとした。
ドアを開くと、外に女の人が立ってた。
ボクとワル君に視線を走らると、ラカソ同様すごく驚いた顔をした。
・・・偽sakkyだった。
ワル君は、身がすくんだ偽sakkyの横を一瞬にして通り抜け、逃げた。
ラカソが「追え!」と叫んだ。
偽sakkyはハっと我に返り、ワル君の逃げた方を見て叫んだ。
ラカソも叫んでた。ボクも叫んだ。
三人の声は同時だった。
「風見!」
「アラちゃん!」
「ワルキューレ!」
ボクらは顔を見合わせた。偽sakkyもワル君は追わずに立ちつくしていた。
何がなんだかわからなかった。ラカソと偽sakkyは何か言い合ってた。
その間ボクは今日の出来事の事を考えてた。
ラカソを迎え撃つ為にワル君を盾にしようと呼んだけどなんか和んで雑談してると何故かワル君に刺されて
ラカソと偽sakkyが襲ってきてワル君の事を風見とか呼んで・・・・
「おい遠藤。」とラカソがボクの本名を呼んできた。
「お前風見と会った事あるんだろ?なんでわかんなかったんだよ!!」
そうなの・・・?あれ・・・カイザー君だったの・・・?気付かなかった・・・・
いや・・・あの・・・・・そんなことより・・・・ボク・・・・
ボクが呻いてるとラカソがようやく気付いてくれた。
「うわ。お前ソレ・・・ヤツにやられたのか!?」
ラカソがナイフを抜いてくれた。死んじゃうんじゃないかってほど血が出たけど
何故か痛みは麻痺してた。不思議な気分。痛いんだけど痛すぎて痛くない・・・
偽sakky・ワタベちゃんも手伝って治療してくれた。
こうしてみるとワタベちゃんも結構カワイイかも・・・なんて思った。
「お前、脂肪のおかげで全然刺さってなかったぜ。」とラカソが笑ってた。
この肉のカタマリが、って言われた。
ワタベちゃんに「病院行く?」と聞かれたけど断った。病院には嫌な思い出が・・。
結局今日はボクもこんな状態だし詳しい話は明日にでも、って事になった。
一日たてば落ち着くだろうって。
「お前、コレ知ってるか?」とラカソに紙を見せられた。メールをプリントアウトしたものだった。
そこにはボクの住所と「午後6時にお待ちしてます。」ってメッセージが書いてあった
差出人は「風見」だった。もちろんボクはそんなの知らない。
二人が帰る時、今度はボクがワタベちゃんにちょこっと質問した。
「君がトロイメライちゃん?」
ワタベちゃんはきょとんとして「知らない。」と答えた。そうなのか・・・。
二人が帰った後は、ボクはもう途方に暮れることしかできなかった。
ラカソ。あいつはもうボクを殺すつもりは無いらしい。敵じゃ・・・・なくなった・・・?
ワルキューレがカイザー君でARAでもあってボクを刺したし
ラカソもワタベちゃんも襲ってきたかと思ったら怪我の治療をしてくれたし・・・・
誰か・・・状況を説明シテ・・・・
3月12日(日) アメン
雨が降ってた。風が吹くと体に当たって冷たかった。
けど、熱かったからその冷たさが気持ち良かった。
炎の前に立ってると嫌でも熱くなるから。
自分の家が燃えるのを見るのはなんか不思議な気分だった。
炎の音で目が覚めた。パチパチと音が聞こえてきた。
最初は何の音か分からなくて放っておこうと思った。
昨日の傷がまだ完全に塞がってなかったし動きたくなかった。
しばらく寝てると、音はさらに大きくなって、さらには焦げた匂いまでしてきた。
そこで、そうやく起きる気になった。
ゆっくりと体を起こすと、もうまわりは火の海だった。
一瞬にして状況が把握できた。こればっかりは、見ただけでわかる。
部屋が燃えてる。
すぐに逃げなきゃ、って思った。荷物・・・大事なの何か持っていかなきゃ!!
足下に置いてあったバイオちゃん一式と枕を抱えて飛び上がった。
ドアは目の前。ちっちゃいアパートだからドアを開ければすぐ外。
大急ぎでドアに駆け寄った。ガチャガチャいじくってカギを開ける。
なかなか開かない!焦っちゃダメだよ。焦っちゃダメ!!まだドアは燃えてないから大丈夫!!
落ち着いて・・・ガチャ。ほらできた!さぁ出ろ!
ガタン
何かが引っ掛かってた。ドアが、開かない。
何度も何度もガタガタやった。それでも開かなかった。
ドアの向こうに・・・何か置いてある!!!
パニックになってドアをガンガン叩いた。力を入れるたびにお腹の傷が疼いて痛かった。
助けて・・・!!助けて・・・・!!燃えちゃう・・・・燃えちゃうよぉぉぉぉ!!!
ドアまで焼け始めてきた。火の回りが早い・・・
なんで?なんでなんでなんで??こんな狭い部屋から出られないなんて!!
酷い・・・酷すぎるよ・・・
お腹の傷がまた凄く痛んできた。熱くて汗がダラダラ出てきた。
涙も出てきた。もう嫌になってた。何もかも、どうでも良くなってた。
目の前に出口があるのに、出られない・・・・・。
そんなのないよ・・・
ボクは全てを諦めた。痛いし熱いし息苦しいし何もできなくなってた。
壁が燃えてる。パソコンも燃えてる。鎧も兜もマサムネまでも炎の中だった。
抱えたバイオちゃんはまだ無事。けど・・・・
ボクもじきに燃えちゃうんだね・・・
足下に火の粉が落ちてきた。昨日結局着替えるのがめんどうで私服のままなんだった・・・。
そんな事を考えてると、顔に火の粉が飛んできた。
・・・・・・熱い。熱い熱い熱い熱い!!!!
嫌だ嫌だ嫌だこんな熱いのは嫌だ燃えたくない燃えたくない嫌だ死にたくしにたくない死にたく死にたく
死にたく死にたく死にたく死にたく死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
生きるぞボクは生き残るここから出て生き残る生き残ってやるんだああああああああ!!!
無我夢中になって叫んでた。
生きる。この意思だけでボクは立ち直った。
キっと部屋を見渡すと、炎に穴が開いてるのが見えた。
すぐに理解した。そこは・・・昨日ラカソが割った窓だ!!
猛ダッシュで炎の中を駆け抜けた。
そして・・・・そのまま窓に飛び込んだ。
ボクは助かった。
鎮火したころ、ラカソとワタベちゃんが大慌てでやってきた。
「何だ!?どうなってるんだよ!!」
そんなの見たら分かるだろ。ボクのアパートが燃えちゃったんだよ。
他の住人はみんな避難してた。ボクが最後だったらしい。
早めに鎮火したから全焼はしなかった。
けど、ボクの部屋だけは完全に燃え尽きてる。
残ったのは・・・今日記を書いてるこのバイオちゃんくらいか。
ボクらは昨日の約束通り話をした。
それどころじゃない気もしたけど、かといって他にする事もなかったから。
そこで出た結論。僕らの共通の敵は、ワルキューレ。カイザー君だ。
ラカソ・・・いや、これは結局誤解だった。sakkyを守る会は全てカイザー君の自作自演らしい。
ユタカ君とワタベちゃんもカイザー君を追ってるトコに、あいつに色々騙されてたボクに出会った。
二人はボクがカイザー君の仲間だと思ったから襲ったそうだ。
カノン。トロイメライちゃん。他にもたくさんわからない事はあるけど・・・・
とにかくカイザー君さえ捕まれば、きっと何かがわかるはず。
お腹を刺され、家まで燃やされて・・・カイザー君。ボクは君を許さない。
火事について警察にはカイザー君の事は言わなかった。
ユタカ君もワタベちゃんも同意してくれた。
あいつは、ボクらが捕まえてるから。
さて、これから忙しくないそうだ。
いつまでもカプセルホテルに泊まってるわけにはいかない。
幸い貯金は残ってる。新しいアパートを探さなきゃ。
日記書いてる暇無いかもしれない。
これから何が起こるのか・・・・・そんなのボクには想像つかない。
ただこれだけは言える。
ボクは死なない。絶対に。
肉のカタマリだもん。
死んでたまるかょぅ
→第1部<追撃編>
第4章「駒」
第13週「焼跡」