絶望の世界 −僕の日記−
第10週「煮沸」
1月11日(月) 晴れ
学校に行くと、机の配置がおかしくなってました。皆の机は僕の机を避けるように離れてます。
授業中、ヒソヒソと話し声が聞こえます。「なんか虫の奴臭くない?」「臭いよね。机離して良かったね。」
渡部さんと荒木さんでした。渡部さんは周りの人たちにも「やっぱ臭うよね。」とか言ってます。
僕は直感しました。この前、下駄箱に紙を入れたのは渡部さんだ。渡部さんが僕をいじめる。
女の子にいじめられるなんて。
1月12日(火) 曇り
女の子のイジメは陰湿です。体育の時間、教室に戻ってきたら僕の鞄が消えてました。
捜してると渡部さんが「何か捜しモノ?」と白々しく聞いてきます。「鞄、捜してる。」と答えました。
渡部さんが言いました。「それならさっきトイレで見たわよ。女子の方でね。」と。
僕は女子トイレに駆け込みました。後ろで「変態!」「痴漢!」とか聞こえるけど気にしてられません。
ご丁寧に個室一つ一つそれぞれに鞄の中身が落ちてました。もちろん全て便器の中です。
水道で鞄を洗いましたが臭いだけは取れませんでした。お気に入りの筆箱も、ノートも、まだ臭います。
僕の机はますます孤立しました。
1月13日(水) 曇り
ホームルームの時間、渡部さんが「クラス委員から話があるそうです。」と言いました。
それに反応して荒木さんが「昨日女子トイレに入った男子がいるそうです。」と言います。
皆が僕を睨み付けました。「虫!アンタでしょ!」と渡部さんが叫んでます。
酷い。誰のせいで女子トイレに入るハメになったと思ってるんだ。自分で追いつめたくせに。
僕は黙ってうつむいてました。なんか目が暖かいと思ったら、涙が溢れてました。
周りの罵声が遠く感じます。
1月14日(木) 曇り
僕の弁当に黄色い液体がかかってました。変な臭いがします。よく見たら小便でした。
渡部さんの仕業だと思います。ということは、渡部さんの小便?
僕はご飯をむさぼりました。おいしい。股間に血が集まっていくのが分かります。
全てたいらげると、横から渡部さんが囁いてきました。「どう?野良犬のオシッコふりかけは。」
トイレで全部吐きました。
1月15日(金) 雪
僕はお腹で虫を飼っています。こいつは僕の負の感情を喰って育っていく。
虫が育つたびに、僕は快感を得ます。そろそろ育ちきるんじゃないでしょうか。
そうなったら僕自身も喰われるかもしれません。でも僕はそれを望んでる。
喰われると言ってもそんな派手なことにはならないはずです。ただ「やれ。」と命令されるだけ。
その日は近い。
1月16日(土) 曇り
僕の上履きに何か入ってました。知らずに履いた為、中のモノはぐちゃりと音をたてて潰れました。
渡部さんと荒木さんがやってきて何かを探してます。「私達のハムちゃん知らない?」と聞いてきました。
僕が「ハムちゃんて何?」と聞き返すと、渡部さんがニヤリと笑って荒木さんをつつきました。
荒木さんが「生まれたてのハムスター。最近飼い始めたの。」と説明してくれました。
足の裏から嫌な感触が全身を覆います。ゆっくり上履きを脱ぐと、そこには、血と、肉の塊が。
それから先は良く覚えてません。あの二人に何か言われた気もするけど、頭の中は真っ白でした。
お腹が疼きます。
1月17日(日) 晴れ
僕の中の虫が「やれ。」と命令してきました。ヤツはもう完全に僕を喰ってしまったようです。
僕は準備を整え、明日に備えました。明日から世界が変わります。待ちに待ったお仕置きタイムです。
今までのイジメを思い出すと、震えるほど楽しくなってきます。準備は万端です。
士気を高めに早紀に会いに行きました。まだ寝たきり状態ですが心の中では応援してくれてるでしょう。
いよいよです。
→第11週「逆転」