絶望の世界 −僕の日記−
第11週「逆転」
1月18日(月) 曇り
僕の下駄箱に「ハムちゃんの墓」と書いた紙が貼ってありました。かわいらしくレタリングされてます。
上履きの中には腐りかけたハムちゃんの残骸が入ってましたが、手でつかんでゴミ箱に捨てました。
教室に入ると都合良く荒木さんは独りで座ってました。僕は彼女の前に立ち、アレをちらつかせました。
荒木さんは目を丸くして僕を見上げました。かすれた声で「なんでそれを・・・・。」と呟いてます。
僕が耳元で「奥田のようになりたい?」と囁いてやると、青ざめた顔でプルプル震えてました。
どうしてやろうか。
1月19日(火) 晴れ
体育の時間、教室に戻ってきた荒木さんが何か捜してました。
焦ってる様子なので「何か捜しモノ?」と聞くと、荒木さんは「鞄が無いの・・・・。」と答えました。
僕は親切に捜しモノの場所を教えてあげました。「それならさっきトイレで見たよ。男子の方で。」
荒木さんは顔を真っ赤にしながら男子トイレに駆け込んでました。後ろで男子があっけにとられてます。
水道で鞄を洗ってましたが臭いだけは取れなかったようです。筆箱も、ノートも、僕の席まで臭ってます。
爽快です。
1月20日(水) 曇り
昼休み、荒木さんがお弁当を食べようとすると、そこには白いドロドロした液体がかかってました。
荒木さんはびっくりして僕を見ました。僕はアレをちらつかせて「ちゃんと食べなよ。」と言いました。
食べてる。無理矢理口に押し込んで。その液体が何なのか知らないわけがないのに。凄い。
全部食べ終わったと思ったら、その場で戻してました。机が嘔吐物にまみれてます。
クスンクスン泣きながら雑巾で机を拭いてる荒木さんの姿は、とても健気に見えました。
眩しいです。
1月21日(木) 晴れ
渡部さんが荒木さんの事を心配してました。僕は横で会話を盗み聞きしてました。
「最近なんか変だよ。また誰かに何かされた?」「別に。平気だよ。」「でも・・・・・・虫!何聞いてるの!」
気づかれた。「まさかあんたが・・・・・・。」「違うよ!岩本君は関係ない!」と荒木さん。
岩本君。久々にその名を聞いた気がずる。いや、そう呼ばれたのは初めてかもしれない。素晴らしい。
まだ何か言いたげな渡部さんを、荒木さんは力無い笑顔で「私は大丈夫だから。」となだめてました。
友情って素敵です。
1月22日(金) 曇り
放課後の教室。荒木さんが倒れてます。僕の足の下に。他には誰もいません。
「もう許して・・・・。」とかすれた声で呟いてます。制服には僕の足跡が何カ所かついてます。
許すもんか。お前は渡部さんとつるんで僕に何をしてきたんだ。僕をいじめたじゃないか。
「よくも、よくもいじめたな!お、お、お仕置きしてやる!」自分でも信じられないほど僕は叫んでました。
これまでのいじめを思い出してしまい、僕は泣いてました。荒木さんも泣いてました。涙が止まりません。
以前僕は荒木さんに蹴られた。今は僕が荒木さんを蹴ってる。でも何故か満足感は得られない。
何故。まだ足りないんでしょうか。僕と同じ目にあわせないといけないんだ。同じ目に、あわせてやる。
僕はすすり泣く荒木さんを後目に教室を出ました。家に帰り、明日の為の用意をしました。
見てろ。
1月23日(土) 晴れ
朝、荒木さんが登校すると、学校中に写真が貼られてました。正式にはデジカメの画像を印刷したもの。
奥田に犯される荒木さんの画像です。僕がそれを手に入れたのは偶然でした。
杉崎先生には本当に感謝してます。コレを手に入れたおかげで荒木さんを追い込む事が出来たから。
ああ、荒木さんが泣いてる。耳を真っ赤にして写真を一つ一つはがして回ってます。いじらしい。
学校に来なければいい、なんてのは素人の考えです。行かなきゃもっといじめられる。僕もそうでした。
これで荒木さんは僕と同じ立場になれたわけです。虫だった僕にも仲間が出来た。
もう独りじゃない。
1月24日(日) 雨
僕の中にいる虫の存在を感じなくなりました。消えてしまったのでしょうか。それとも僕と同化したのか。
なんとなく早紀に会いに行きました。荒木さんのことを報告しても、返事は返ってきませんでした。
早紀と結ばれたとき、僕は何かとてもいけない事をしてるように感じたのを覚えてます。
その時は僕の中の虫がその気持ちを食べてしまいました。だから罪悪感は感じてません。
今回、荒木さんにしたことも本当はとても非道いことかもしれない。でもそんな意識はありません。
やっぱり僕自身が虫になってしまったんだ。
→第12週「断罪」