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序章

第1章 「朝と夜」
 第1週 起床
 第2週 挨拶
 第3週 洗顔
 第4週 朝食

第2章 「動と静」
 第5週 音色
 第6週 景観
 第7週 思考
 第8週 吐息

第3章 「光と影」
 第9週 暗影
 第10週 遮光
 第11週 黒雲
 第12週 雷鳴

第4章(終章) 「夢と現」
 第13週 霧中
 第14週 終局
 第15週 夢幻
 最終週 解放






第十一週 「黒雲」

3月19日(月) ハレ

タケシ君が他の人には見えないのなら、黙ってればいいんです。カウンセリングだって単なる自問自答です。
全部ボクの頭の中で起きてることなんだから誰にも迷惑かけません。
でもまだボクの中で回復しようと頑張る部分が有るんでしょう。タケシ君がしきりに質問してきます。
「何か懐かしさを感じるものってないか?何でもいい。モノでもセリフでも。」
目の前にあるこの机は昔ボクも使ってた気がする。アサミって呼ばれると「ボクじゃない」って言葉が頭の中で響く。
ポツリポツリと答えたけれど、ボクにやる気はありませんでした。
このままでもやっていけると思います。


3月20日(火) クモリ

ボクの気持ちとは裏腹にボクを元に戻そうと必死なタケシ君。
幾らがんばっても肝心のボクが元に戻る気になってない。「このままでいようよ」とボソリと言ってしまいました。
無視されました。相変わらず熱意の篭もった視線で「自分の中に女性的な部分を感じないか?」と聞いたりしてます。
男だからって誰でも女っぽい部分は抱えてるんじゃないのかな?身体が女性なのはもう知ってるし。
この「カウンセリング」も段々意味のあるものだとは思えなくなってきました。
余計なことはやめようよ。


3月21日(水) ハレ

おじいさんたちからは放置されてる状態だからボクが余計なことさえしなければ気にすることはありません。
ご飯にはありつける。タケシ君は外に出たがってるけど、ボクは外に出ようとすると頭が痛くなる。
ボクが外に出てるほど回復したらタケシ君は消える。だから一緒にはいられない。一人じゃ外で生きていけない。
破滅に向かってるとしか思えません。ボク自身が生きるためにも回復しない方がいいように思えます。
友達とお喋りして過ごすだけの人生だって悪くありません。


3月22日(木) ハレ

カウンセリングの効果が上がらないのにタケシ君は焦ってるようです。
「まいったな。こんなに時間がかかると思わなかった。このままじゃ身体がもたない。」
そんなに焦ることないよ。確かに身体は女性で心は男というのはあまり健康的じゃないかもしれない。
病気。そうだよ。この状態は病気だよ。でも死なない病気でしょ?
下手な治療はやめてこの状態で生きていく方法を考えようよ。言ってもタケシ君は聞いてくれませんでした。
タケシ君が消えるのは嫌だ。何度言ったらわかってくれるんでしょう。


3月23日(金) ハレ

ボクが何度言っても無視されて質問を浴びせてきます。いくらなんでもこれはおかしいです。
ハッキリと「もう質問には答えない」と宣言してもまだ女性の本能がどうだとかって意味不明の質問をしてきます。
とうとうボクは耳を塞いで叫びました。思い出せないものは思い出せないんだ!これ以上こんなことやったって
駆けつけてきたおじいさんにはり倒されました。「黙ってろ!また飯抜きにされたいのか!」
ご飯が食べれなくなるのは辛いです。「ごめんなさいごめんなさい」というセリフが勝手に口から出てきました。
おじいさんが行ったあと、タケシ君の方に顔を向けました。さっきの質問を繰り返してます。
ボクの言うことが聞こえてない・・?


3月24日(土) クモリ

何かがズレてます。
完全に無視されてるわけではありません。タケシ君の名を呼ぶと「何?」と振り返ってくれます。
タケシ君の質問にも答えるとちゃんと頷いて反応してくれます。
おじいさんが怖いって話にも「復讐より今は自分の身の方が大事だ」とアドバイスまでしてくれます。
けど、それだけです。「カウンセリングをやめよう」みたいにボクが意見を言うと無視される。
世間話ができないんです。これまでそんな話する余裕が無かったから気付きませんでした。
映画の中に入ってる感じ。脚本に無いことは話せない。シナリオに無いシーンは飛ばされる。余計な会話は許されない。
ボクを回復させるために出てきた幻。ボクの変わりに考え、ボクを導こうとする。
ボクが深く考えることができないのは当然。考えることのできる部分は切り離され、タケシ君として独立したんだから。
ただし彼は、シナリオ以外のことはできない。おじいさんを殴ることはできない。
そして役目を終えたら消える。
そうなの?


3月25日(日) アメ

ボクのこと、タケシ君のコトを話す限りはちゃんと会話はできるはず。思いの丈をぶつけました。
タケシ君はボクの心が産み出したプログラムみたいなものなんだ。
ボクが回復したら消える。ずっと一緒にいるなんて嘘だ。役目が終わったら消えちゃうんだ。
タケシ君は真剣な顔で聞いてくれました。ボクが一通り言い終わると、目をつぶって考え込みました。
「君は少し勘違いしてるよ」何がどう勘違いなんでしょうか。
ボクがキョトンとするとタケシ君は深いため息をついで何度も首を横に振りました。
「もう時間が迫ってることだし、この際ハッキリ言おう。」ボクの目をまっすぐ見ました。
「回復したら消えるのは、君の方だ。」
は?思わずとぼけた声を上げてしまいました。
「プールの話とは別物として聞いて欲しい。今の状態を例えると、君は空を覆う黒い雲みたいなものだと思ってる。
 雲の上にはちゃんと青空がある。今の天気は『曇り』だけど、青空が消えてるわけじゃない。雲に覆われてるだけ。
 雲は君で青空はアサミ。雲が消えれば太陽が見えて『晴れ』になる。」
頭が混乱してきました。なおもタケシ君は言葉を続けます。」
「もうカウンセリングなんて言ってる場合じゃないけど、とにかくその意味をじっくり考えてみてくれ。
 我ながらいい現だと思ってるんだ。なんとなくでいいから、そんな感じだってのをわかって欲しい。」
そう言ってまた一人で考え込んでしまいました。だからボクも考えろと。
ボクは雲・・・雲は消える・・・消えた後は青空・・・青空はアサミさん・・・
・・・ボクは・・・どこに・・・





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