序章

第1章 「朝と夜」
 第1週 起床
 第2週 挨拶
 第3週 洗顔
 第4週 朝食

第2章 「動と静」
 第5週 音色
 第6週 景観
 第7週 思考
 第8週 吐息

第3章 「光と影」
 第9週 暗影
 第10週 遮光
 第11週 黒雲
 第12週 雷鳴

第4章(終章) 「夢と現」
 第13週 霧中
 第14週 終局
 第15週 夢幻
 最終週 解放






第八週 「吐息」

2月26日(月) ハレ

耳を澄ませるとおじいさんとおばあさんの会話が聞こえます。
「病院にぶち込むべきだ」「医者に何て言うの」「うまく言えよ。俺はもう耐えられん」「バカ言わないで」
「ならあっちの家に戻そうぜ」「引き取ってくれないのはわかってるでしょ。あっちだってせいせいしてるんだから」
「畜生!これも全部あいつのせいだ!責任取ってこいつも道連れにすりゃぁ良かったんだよ!」「あの子は悪くない」
「なんだお前。今になって自分を刺した奴のことを許すのか!?俺はこの傷忘れんぞ!」「けどあの子は私たちの・・」
聞いてると気分が悪くなりました。


2月27日(火) ハレ

家の中をくまなく見て回りました。部屋中を歩き回って。
ご飯を食べるテレビのある部屋。おじいさんとおばあさんが寝る部屋。ボクが寝る部屋。部屋を区切る狭い廊下に引き戸。
玄関には黒ずんだ靴箱と傘がさしてあるバケツ。家は古い感じがするのにトイレだけは新しい様式トイレ。
ボクの部屋はなぜか机が二つ。布団は敷きっぱなしだけど部屋は広めだからもう一人くらい寝れそう。はじっこにタケシ君。
本棚とか押入とか机を引っかき回しても写真とか昔のものはいっさい見つからなくて
ただ疲れただけでした。


2月28日(水) クモリ

深く考えようとしたのに考えたくなくて考えることができませんでした。
話を聞いたり家をウロウロしたりはできるのに何かを考えようとすると途端に嫌になってしまいます。
この異常なまでの嫌悪感はなぜだろうと思ったら頭が痛くなってそれ以上考えることができません。
何もかもが面倒臭くなってしまうんです。このままでいいやって。今度にしようって。思ってしまうんです。
落ち着いたらまた自分で答えを見つけようって気になるけどすぐに諦めてしまって
いつまでたっても先に進めません。


3月1日(木) アメ

きっと外に出ればきっと何かがわかる。そう思って飛び出しました。
部屋から走り出して靴を履いて玄関を出て。外の光を浴びた途端、頭痛に襲われました。
雨が降ってるのにとても眩しく感じられました。それでもめげずに走ろうとしました。
10メートルくらい進んだところで我慢できずに悲鳴を上げました。
気付いたら部屋で寝かされてました。おじいさんが怒声をあげてるのが聞こえてきました。
悲しくなりました。


3月2日(金) ハレ

昨日のお仕置きでご飯がボクの分だけありません。「部屋から出るな」と言われました。
お昼までは我慢できたけど夕方にはお腹が減ったので部屋から出て冷蔵庫に何かないか探しました。
おじいさんに見つかって冷蔵庫から引き離されました。どうしてもご飯が食べたかったので抵抗しました。
腕を話してくれないので思わず言ってしまいました。「タケシ君、助けてよ」
タケシ君は部屋から出てきてくれず、おじいさんには「その名を二度と口にするな!」と猛烈に怒鳴られてしまいました。
けどその後に言われた言葉が意味不明でした。「死んだ奴にいつまでもすがりやがって!」
死んだ奴って。


3月3日(土) クモリ

お腹が減りすぎて苦しんでると、おじいさんが笑いながら「そら、欲しいか」とパンを投げつけてきました。
ボクは顔に当たったパンを大急ぎで拾い、かぶりつきました。久々のご飯は美味しかった。
「まるで獣だな」と大笑いするおじいさん。そこに突然タケシ君が部屋から飛び出してきました。
怖い顔して、おじいさんに殴りかかろうとして・・・消えてました。拳がおじいさんの頭に当たる直前に。フッと。
部屋に戻るとタケシ君はいつも通り本を読んでました。
タケシ君。おじいさんとおばあさんには見えないこの人。
おじいさんはタケシ君を死んだ奴だと言いました。じゃあ目の前にいるこの人は、幽霊?
タケシ君に触れました。すり抜けるかと思ったのに。確かに人肌に触れた感覚がありました。
そっと腕に手を乗せてみるとちゃんと手のひらから温かさが伝わってきます。
タケシ君が顔を上げました。ボクの腕を掴んで言いました。
「大丈夫。奴らを殺さないでも解決策はあるはずだ。きっと俺が見つけるから。それまで大人しくしてるんだ。」
ボクは黙って頷きました。


3月4日(日) アメ

不思議な存在のタケシ君。他の人には見えないけど、ボクはしっかりこの目で見える。息する音も聞こえる。
幽霊でないとしたらボクにしか見えない幻なんでしょうか。
本物はおじいさんが言ってた通り死んでしまってるのかもしれません。そう思うと悲しくなってきました。
けどいい。幻でも。例え幻だったって、目の前にいるこの人はボクの味方。
彼はボクの為に動いてくれる。ボクは静かに待ってればいい。下手な悪あがきはせず、彼の言う通りにしようと思います。
その方がうまくいきそうだから。
頼りになるから。



第2章「動と静」 完
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