序章

第1章 「後継者」
 カイザー日記
  1.ハッキング
  2.騙り
  3.チャット
  4.精神病院
 サキの日記
  1−転生 
  2−約束
  3−消失
  4−再臨

第2章 「再始動」

 カイザー日記
  5.希望の世界
  6.学校と病院
  7.オフ会
  8.夢
 サキの日記
  5−接触
  6−信用
  7−序曲
  8−無音

第3章 「鎮魂歌」
 カイザー日記
  9.僕の日記
  10.オクダ
  11.BATTLE
  12.中へ
 サキの日記
  9−決意
  10−鉄壁
  11−絶句
  12−祈誓

第4章 「終着地」
 カイザー日記
  13.さようなら
  14.ワタベさん
  15.終着地
  16.光の世界
 サキの日記
  13−慟哭
  14−脱出
  15−迷走
  16−奇跡

エピローグ
  >>影の世界






Chapter:6 「学校と病院」

9/1 晴れ

久々に学校に行った。防災の日だかなんだか知らないけど防災訓練なんてものをやらされた。
廊下に煙がたかれて(害のないニセモノなんだろうけど)僕たちはそれを避けてグラウンドまで逃げた。
みんなはヘラヘラ笑ったりおしゃべりをしながら歩いてる。煙は僕のすく後ろまで迫ってきてた。
灰色の煙が僕を襲う。その煙が僕の体中にまとわりついて身動きがとれなくなる姿が頭に浮かんだ。
僕は煙が怖くなった。前を歩く人たちをかき分けて僕は先へ先へと進んだ。煙はまだ追ってくる。
みんなは相変わらず平然としてる。なぁ、煙が来てるんだぞ。早く逃げなきゃ。早く、もっと早く!
なんで笑っていられるんだ?歩いてたら追いつかれるぞ。はやくしろ。逃げないのか?怖くないのか?
僕は一人で先に進んでいった。誰かがせっかちな奴だなぁ、と言った。それでも僕は先に進んだ。
誰も僕が先に進むことなんか気にとめちゃいなかった。後ろの方で煙の中に入った人がいた。
ケムたがって前に走ってきた。先生が叫んだ。「チンタラしてるからだ!本物だったら大変な事になるぞ!」
みんながしぶしぶ歩くペースを早めた。お喋りをする人も少なくなってきた。煙から随分距離が離れた。
そうだ。それでいい。みんなは煙の魔の手から逃げ切れることができるだろう。でも、でもね。
僕だけは既に大変な事になってしまってるんだ。煙は僕に向かってまだ追ってくる。外に出ても。家に帰っても。
全校生徒が集合して消防署の人が批評みたいなことを話していた。僕にはそんなこと関係なかった。
「希望の世界」につなぐ。「K.アザミ」が「一人じゃ何もできないでしょ?」と言う。
味方が欲しい。仲間さえいれば三木に対抗する手段があるのに、ってわけじゃない。
煙の中で、一人で居るのはあまりに寂しすぎるから。だから。
一緒にしてくれる人が欲しいんだ。



9/2 晴れ

学校ではもう授業が始まった。今年は受験の年だとかここで頑張らないと駄目だとかそんな話が耳に入った。
普通に行けば僕は来年高校生になる。普通にいけばの話だけど。僕はこのままで高校に上がれるのだろうか?
僕は今普通の状況に立っていない。虫の幻聴が聞こえ、精神病院に通い、まだ見ぬ三木に怯えてる。
闘う意志とは裏腹に僕は心の底では三木に怯えてる。虫は話かけてくるだけで僕を救ってはくれない。
学校では普通のフリをしてる。みんなと同じように受験勉強の愚痴を言い、同じようにテキストの問題を解く。
僕が変わってしまった事はなるべく悟られないようにしたい。あるいは既に知ってる奴はいるかもしれない。
三木の手先が潜り込んでる可能性だってある。しかし僕には他人の正体を見極める事なんかできない。
ただひたすらに疑いの目を向けるだけだ。他人を疑うことは信用するよりずっと楽なことだった。
その代わりに僕は孤独を感じるようになった。誰も信用することができないと、人って簡単に孤立しちゃうんだな。
いじめとかそんな類のものじゃない。表面上では当たり障りのない会話をしている。嫌われてるわけでもない。
それは、本当にただ孤立してるだけなんだ。僕と僕の周りにいる人たちをつなぐ何かが壊れてしまったんだ。
溝ができたのでも壁ができたのでもない。何もない。妨げるモノは何もないはずなんだ。
少し動けばみんなに触れることができる。だけど僕は動かない。動けない。みんなは決して遠くにはいかない。
僕の方から歩み寄れば「普通」に戻れる。ちゃんとみんなは目の前にいるんだから。
僕は、後ろを向いた。そして、みんなが見てない方向に歩いていく。そんなイメージが頭の中に現れた。
「その先にあるのは希望の世界か?」そうかもしれない。僕は学校より「希望の世界」を取ったのだろう。
普通の世界にはしばらく戻れそうにない。



9/3 曇り

僕は学校の人たちと心の中で別れを告げた。昨日から感じていたことだけど、孤独感はますます強まっていた。
みんなの話し声は遙か遠くで話してるように聞こえ、その内容は僕の頭を通り抜けて何処かへ行ってしまう。
うまく会話することができない。誰がどんなことを話してたのか今ではカケラも頭の中に残ってない。
話しかけられて適切な言葉で答えられなくても、決して異常と思われることはなかった。
うまく会話できないことは僕にとってとても寂しいことだけど、他の人にとってはどうでもいいことなんだろうな。
おそらく僕が狂ってる事も、みんなには関心のない事だ。僕は一人で狂い、一人で悩んでいる。
学校の帰りに病院に寄った事もみんなは知らないだろう。知る必要がないし、知って欲しくもない。
病院では会話ができた。ベンチに座ってると向こうから話しかけてきた。
「ねぇ君。何処か悪いの?こんな所で何やってるの?ベンチに座ってどんなこと考えてるの?」
確かこんなセリフだったと思う。学校での会話は覚えてないのに病院で話しかけられた内容は覚えてる。
僕は「僕は心が病気でカウンセリングを受けに来て学校のみんなに告げる別れの言葉を考えてた。」と答えた。
何処かで見たことのあるその男はうんうん、と何度も頷いてからしゃべり始めた。
「僕はね、ここには少しの間入院してたんだけど、3ヶ月くらいかな。ごめん。正確な数字は思い出せないや。
でも君には関係ないことだよね。ごめん。関係ないことばっかり喋っちゃって。でね、その入院してた時の事
なんだけどさ、もちろん入院すると『中』にはいることになるんだけど、そこに入るとなかなか出られないんだよ。
自分から出たいって言っても許可がおりるか『外』の信用できる誰かが連れだしてくれないと出れないんだ。僕の
場合たまにお父さんが来てくれて『外』にでる事ができたけど、基本的には出られないんだよ。完全に出るため
には先生達に『こいつはもう外に出しても大丈夫だな』って思わせなきゃいけないんだ。僕はそう思わせることに
成功したけど外に出たら出たらで不安になってこうして『通い』にしてもらってここにきてるんだ。君も『通い』?」
自分でも驚くほど彼の言葉を鮮明に覚えてる。こうして文章にしてみてわかったけど意外と長い言葉だったな。
その後確か「僕も、『通い』」と答えたんだ。そして彼はしゃべり続けた。
「そっかそっか。じゃ、今の僕らは同じ境遇なんだね。ごめん。僕と同じなんかにされたくない?でもね、君には
何故か話しかけなきゃいけない気がしたんだ。なんでだろう?また明日も来る?君とはゆっくり話をしたいんだ。
今日と同じ時間、このベンチに座っててくれないかな?僕も来るから。君には是非話を聞いて欲しいんだ。」
そこまで話してしまうと彼は「じゃ、また明日」と僕の返事も聞かずに帰ってしまった。
なんで今日全部喋ってしまわなかったんだ?それに、僕に聞いて欲しい話って?
またわけのわからない気持ちになってしまった。ただ、これだけは言える。「奴は味方にはなり得ない」
「希望の世界」に繋ぐ気分にはなれなかった。とにかく彼の話を最後まできかなきゃ、と思った。
明日、また病院に行こう。



9/4 晴れ

病院で昨日のベンチに座ってると、奴がやって来た。やっぱり何処かで見た顔だと思った。
とにかく喋る奴だった。それにやたら「ごめん」と謝ることが多かった。意味もなく謝る姿はとても哀れに見えた。
「僕が中に居たときにね、面白いおもちゃを見つけたんだよ。最初はそのおもちゃ怖い人が持ってたんだけどね
変な女が勝手に持ってっちゃったんだ。でもその怖い人は気にしてなかったみたいだよ。その女が持ってる時
でも構わずそのおもちゃで遊んでたし。ごめん。そのおもちゃが何か言ってなかったね、お人形さんなんだよ。
殴りたくなるくらいカワイイお人形さんだよ。それがね。その女が持ってるときは二人でお喋りなんかしてたくせに
僕が持つと全然喋らないんだ。むかつくよね、そうゆうのって。バラバラにしたくなるくらいムカツクよね。ね?」
僕が「別に」と答えると奴は何度も何度も謝ってきた。土下座までしてきた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいだって僕はムカツイたんだもんムカツクのが当たり前だと
思ったんだモンバラバラにしたくなるのは僕だけじゃないはずだっておもったんだもんごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいもうしませんもうしませんもうしません許して下さいお願いですバラバラにはもうしませんバラバラァぁ」
その後はもう聞き取れなかった。壊れたように泣きじゃくってそのまま何処かに消えてしまった。
奴が居なくってからもベンチになんとなく座ってたら、突然あいつが誰だったのか思い出した。
僕が「中」に入った時、すれ違った奴だ。先生に抱えられて今日みたいに泣きじゃくってた。
間違ってもあいつだけは味方にはしたくない。話もうまく飲み込めなかったし。変な女?人形?バラバラ?
あいつが「変な女」と言うくらいなんだからその女の人はマトモなんだろうな。変なのは奴の方だ。
それが僕の感想だった。奴の話のせいかわからないけど、何故か今日も「希望の世界」に繋ぐ気がしない。
変な気分。



9/6 晴れ

なんて事だ。味方はできない。
先生から面会が断られたことが伝えられた。学校でも一人だし病院でも一人だ。
今日も「希望の世界」へ。sakkyさんの名で書き込んだ。学校が始まって忙しくなったとか適当なことを書いた。
しばらくして更新ボタンを押すと渚さんが書き込んでいた。「学校も大変だよね。頑張ってね。」
大変なのは学校だけじゃないんだよ渚さん。病院でも、私生活でも、「希望の世界」ても。
三木の音沙汰は無い。このまま消えてくれればいいのに。消えてくれ。お願いだから。消えてよ。
結局僕に残ったのは「希望の世界」だけなのか。病院では変な奴に会っただけで仲間は得られなかった。
仲間になって欲しかった病院の人。なんで会ってくれないんだよ。ねぇ。なんで?僕の何がいけないの?
会うだけならいいなじゃないか。僕の話を聞いてくれるくらいいいでしょ?なんでだよ。何で断るんだよぅ。
三木?三木の仲間なのか?ここでも三木か。あの病院にも三木の手が回ってたのか。消えろって言ったのに。
たぶん学校にも既に奴の手は回ってる。別れを告げて正解だったかもしれない。
「希望の世界」には来てないくせに僕の現実世界を囲んできてるよどうにかしてくれよ誰に言ってるんだ僕は。
泣きたい。



9/7 雨

三木がとんでもないことを言ってやがる。

 ゲリラオフ会開催! 投稿者:三木  投稿日:09月07日(火)

   僕は以前までオフ会を否定してきましたが最近考えを改めました。
   ネットを超えてこそ見えてくるものがあるんじゃないかなって。
   「希望の世界」もいいけどやっぱり僕らが生きてるのは現実世界なワケですから。
   そこで企画したのがこの「ゲリラオフ会」です。
   厳密に言うと「ゲリラ」って言葉の使い方は間違ってるんですが
   このオフ会のイメージからそう名付けてみました。
   今からオフ会を開くぞって言ってもみんな来れるとは限らないと思います。
   それぞれ都合の良い日悪い日を言ってたらきりがないですよね。
   そこで、今回はすでに日程を場所を決めてしまいました。
   出欠は敢えて問いません。というより、来るか来ないかなるべく言わないようにしましょうよ。
   その日、その場所で待ってはいるものの、誰が来るかわからない。そこが面白いんですよ。
   「希望の世界」は実際書き込まずにROMってる人も多いみたいですから
   待つ側にとってはかなりドキドキでしょう。いきなり知らない人が来て
   「実はずっと見てました」ってこともあり得るわけです。
   勿論それもオッケーですよ。見てる皆さんも是非来て下さいね!
   さて、詳細はこちらです。

     日時 9月15日(水) 午後1時
     場所 横浜駅西口東横線改札前

   待つ時間は1時間。午後2時になった時点で来てない人は欠席とみなします。
   人が多いですから何か目印を考えなきゃいけませんね。
   関東地方に住んでない人は「残念!」って事で。
   基本的には「地元民トーク限定チャット」で知り合った仲だから大丈夫だとは思うんですが。
   細かいことは追って書き込みます。
   でわでわ、参加お待ちしてます!

何考えてるんだ。これは、僕に対する挑戦状か?「来れるものなら来てみろ」とでも言いたいのか?
行けば間違いなく何か起きる。今回は遠巻きに見て帰るってわけにはいかない。
三木の姿を知らないんだから。そこに来てるのが三木であるのかもわからないんだから。
どうする?僕はどうすればいい?いや、答えはもう決まってるじゃないか。
行くしかないだろ。これで全てを終わらせることができるかもしれないんだ。
味方は、いない。けど、けど僕は・・・・・・・
行くしかないんだ。




戻る次へ