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序章

<追撃編>


第1章 「傷」
 第1週 再会
 第2週 依頼
 第3週 怨恨
 第4週 悪魔

第2章 「鎖」
 第5週 新参
 第6週 裏道
 第7週 到達
 第8週 連結

第3章 「塊」
 第9週 下僕
 第10週 道化
 第11週 対決
 第12週 集結

第4章 「駒」
 第13週 焼跡
 第14週 疾走
 第15週 帰巣
 第16週 追撃

<迎撃編>

プロローグ
 第0週 覚醒

第5章 「溝」
 第17週 来訪
 第18週 濁流
 第19週 虎視
 第20週 奈落

第6章 「膜」
 第21週 裏側
 第22週 下降
 第23週 沈没
 第24週 藻屑

第7章 「戦」
 第25週 本陣
 第26週 奔走
 第27週 失策
 第28週 瞬殺

第8章 「蟲」
 第29週 継承
 第30週 歯車
 第31週 撃破
 第32週 終焉







第一週 「再会」

12月20日(月) クモリ

日記を始めました。あの子に謝る為のシナリオを考えないといけないから。
サーバーにアップするのは当然だと思いました。そんな気分でした。
さて、どうしよう。
何て呼んでたのかすらもう忘れてる。苗字だっけ。それとも下の名前だっけ。思い出せません。
ホントは思い出したくありません。忘れさせて欲しかったのに。そっとしといて欲しかったのに。
戻ってきます。私が地獄に突き落としたあの子が。
手紙が来ました。私に会いたいって。謝ったら許してくれるかな。何て言えば許してくれるかな。
鏡に向かって何度か練習してみました。御免なさい。ごめんなさい。ゴメンナサイ。ゴメンナサィ。
やるせない気持ちになりました。


12月21日(火) ハレ

学校のトイレの鏡で気付いたら謝る練習をしてました。
誰かに見られました。見た人はすぐに逃げてしまいました。
「待って」と叫んだけど無駄でした。きちんと説明したかったのに。
思わず壁を蹴りました。「なんでそっとしといてくれないのよ!」って吐き捨てました。
その姿も他の人に見られました。その人も逃げました。
嫌な気分のまま教室に戻りました。廊下で数人とすれ違いました。
今度こそ平然としてました。友達に会ったら「おはよー」って普通に挨拶。友達も笑顔。
間違えて友達じゃない人にも言ってしまいました。変な目で見られます。
視線が痛いです。


12月22日(水) ハレ

学校で私の噂が広まってました。昨日の姿を見た人が広めたのかもしれません。
口に出す人出さない人。私を見るとそろって違う話題になります。
「言うならハッキリ言って」と叫びたかった。でも言えませんでした。
イジメは再発しないでしょう。友達は・・・・友達だと思ってる人達はみんな普通に話してくれます。
けど、みんな私を怖がってるのが分かります。誰かがヒソヒソと話してました。
「今度の呪いは、渡部さん。」
聞こえてます。


12月23日(木) ハレ時々クモリ

学校がお休みだったので1日中謝る練習が出来ました。
最初の一言。それが決まりません。ひさしぶり。おかえりなさい。ごめんなさい。
何を言っても白々しい様に思えます。顔はどうしよう。笑顔?泣き顔?寂しげな顔?
鏡の前で色んな顔をしてみましたが、どれもしっくりきませんでした。
鏡に映る情けない自分の顔を見てると、急にイジメられてた頃の事を思い出しました。
「アナタが荒木さんを売ったんでしょ」「お前あいつと親友だったんじゃないのか」
「最低だな」「ゴミ女」「てめぇ生きる価値ねぇよ」「死んで償え」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「しね」「シネ
気分が悪くなりました。トイレに駆け込み吐きました。
今もまだ吐き気が残ってます。


12月24日(金) クリスマスイヴ

終業式が終わるとすぐ、あの子に会いに行きました。
イブの日に学校から少し離れた公園で待ち合わせ、と手紙には書いてありました。
公園のベンチに誰か座ってました。最初それが誰だかわかりませんでした。
目が合うとその人はすっと立ち上がり、私の方に歩いてきました。
近づいてくるにつれて、私は目を背けたくなりました。彼女が人目を避けた場所で待ち合わせた理由を感じていました。
彼女は私を「渡部さん」と呼びました。私は彼女を「荒木さん」と呼びました。
前はもっと親しく呼び合ってた気がするけど、そんな昔のことはもう忘れていました。
彼女は黙って私の胸に顔を埋めました。用意しておいた謝罪のシナリオは全て消し飛んでました。
変わり果てた荒木さん。
顔中が傷だらけ。切り傷。火傷。喉は潰れかかりマトモな声が出ない。恐らく体中にも傷があるでしょう。化け物。でも荒木さん。
謝罪の言葉なんてなんの意味があるのでしょう。
私は聞きました。「中で虐められたのね」
彼女は頷きました。泣いていました。私はそれ以上語りかけることができませんでした。
私のせいだ。
私は彼女を抱きしめてあげることも出来ず、ただ黙って彼女が私の胸で泣いてるのを見てました。
少しして落ち着くと、二人でベンチに座って長い間お話をしました。
私は聞いてるだけでした。どんなイジメにあっていたのかを淡々と、リアルに、生々しく語った彼女の話を。
少年院だか刑務所だかそんな場所に彼女を押し込めたのは、私が、彼女を、売ったから。
売ったワケじゃない。事故だったのよ。だって私は知らなかったんだから。私は話を聞いてる間ずっとそう考えてました。
彼女と別れ、家に帰るとすぐにトイレに駆け込みました。昨日より酷い吐き気です。
胃液まで吐きました。涙目のまま私は便器の中に叫んでました。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ゴメンナサイ。
ゴメンナサイ。
声が枯れても尚も叫び続けました。
   ゴ メ  ン  ナ   サ  
                イ


12月25日(土) クリスマス

今日も荒木さんと会いました。でも何を話していいのかわかりません。
随分と二人とも黙ったままでした。沈黙がとても辛かったです。
とにかく何か話さなきゃ、と思って適当な事を言いました。
「荒木さん、パソコン持ってる?」
荒木さんは一応家にはある、と答えました。それが全ての始まりでした。
私は自分はインターネットをやってる事を話し、面白いページ知ってるよとか
私もそこによく書き込みしたりするんだとかネットでも結構友達出来るよとかを延々と喋りました。
荒木さんが言いました。「私もそれやってみたい」
ネットに繋ぐ方法。プロバイダと契約するにはどうするのか。モデムはついてるのか。
私は詳しく説明してあげました。私のメアドも教えてあげました。家に帰ったら早速やってみると言ってました。
そうするといいよ。本当に、友達できるんだから。タノシイヨ。私は言いました。
家に帰ると大急ぎでネットに繋ぎました。
「希望の世界」
カイザー君がメールで送ってきた時は、迷惑な事やめてよねって思った気がします。
もうそんな事言ってられません。荒木さんが来ます。
なんであの中坊君が私にココを託したのか知らないけど、今度は私が「sakky」です。
いいでしょ?早紀ちゃん。貴方の名前使っても。荒木さんを救ってあげたいの。
ネットに救いを求める。私は救われませんでした。それどころかとんでもない事に巻き込まれました。
自殺した早紀ちゃん。狂ったカイザー君。夜逃げした虫の家族。そして私は、宙ぶらりん。
だから次は。次こそうまくやらなきゃいけません。荒木さんを救ってあげないといけません。
それが、私に出来る精一杯の償いです。
「希望の世界」、更新。


12月26日(日) マタクモリ

掲示板にカキコが追加されてました。
ハンドルネーム「ARA」。「初めまして。きちんと投稿できてるかな?ミキちゃんレス頂戴!」
凄い勢いで昔の記憶が蘇ってきました。まだ虫へのイジメが始まる前。
パソコン指導の授業で荒木さんと軽くネットで遊んでたあの頃。
ネットの事なんか何もわからなくて、どっかの掲示板にうまく書き込めただけで喜んでた。
その時使った名前です。私が「ミキ」。あの子が「ARA」。
懐かしさが込み上げます。そして思い出しました。あの子は私を「ミキちゃん」と呼んでた事を。
あの子を「アラちゃん」と呼んでた私。今は、もう、そう呼べません。
呼べるのは、ネットの中でだけ。
私は「三木」の名前で書き込みました。ARAちゃんのお迎えメッセージです。
後で名前を説明しなきゃ。ミキは三木だよって教えてあげなきゃ。けど・・・・きっとわかってくれるかも。
気が付くと私はもう一回カキコをしてました。
今度は「sakky」の名前で。似たような、歓迎カキコを。
ほらARAちゃん。みんなあなたを歓迎してくれてるんだよ。
ね。言ったでしょ?ネットで友達できるって。sakkyはあなたの新しいお友達です。
画面に浮かぶsakkyの名前を見て、離れたARAちゃんに囁きました。
ARAちゃん、ここは「希望の世界」。あなたをここで救います。
マウスがガタン、と落ちました。
手が震えています。




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