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序章

<追撃編>


第1章 「傷」
 第1週 再会
 第2週 依頼
 第3週 怨恨
 第4週 悪魔

第2章 「鎖」
 第5週 新参
 第6週 裏道
 第7週 到達
 第8週 連結

第3章 「塊」
 第9週 下僕
 第10週 道化
 第11週 対決
 第12週 集結

第4章 「駒」
 第13週 焼跡
 第14週 疾走
 第15週 帰巣
 第16週 追撃

<迎撃編>

プロローグ
 第0週 覚醒

第5章 「溝」
 第17週 来訪
 第18週 濁流
 第19週 虎視
 第20週 奈落

第6章 「膜」
 第21週 裏側
 第22週 下降
 第23週 沈没
 第24週 藻屑

第7章 「戦」
 第25週 本陣
 第26週 奔走
 第27週 失策
 第28週 瞬殺

第8章 「蟲」
 第29週 継承
 第30週 歯車
 第31週 撃破
 第32週 終焉







第二十四週 「藻屑」

6月12日(月) あめ

木曜日にオフ会を行うことになった。
突然過ぎやしないかと思ったけど、どうもその方が都合がいいそうだ。
「いきなりやるからいいのよ。突然だったら普通の人は来ないでしょ?」
確かに。前回もそうだった。突然やったから、僕と横山と犯人(ダチュラ?)しか来なかった。
何て事ない人まで来られると、また話がややこしくなる。
僕と西原さん。そして犯人の3人だけがいい。
横山が行方不明になったのは犯人に連れいかれたと考えるのが妥当だろう。
それが衝動的なものなのか、最初からソノ気だったのかはわからない。
もし後者なら、オフ会をやればまた来るかもしれない。
僕は今回こそあの男の正体を突き止めなければならない。
何しろ今度は、西原さんも危うい立場にいるんだから。
僕がしっかりしなくちゃいけない・・・。
今日の昼休みは作戦会議でとても充実していた。

さっそく湖畔BBSに行ってみた。随分久々な気がする。
SEXマシーン、ダチュラ、ユウイチ、ミギワ、シス卿・・・相変わらず人は多い。
雨が降ってどうだとか、何て事ない会話ばかりだった。
裏では何が起きてるのかわからないと言うのに。気楽な奴等だ。
でも仕方ないな。僕もそうだった。何も知らずに「紅天女」とも話してたっけ。
ダチュラも、ユウイチも、何も知らないフリして書き込んでる。
ココはある意味、腹のさぐり合いだ。ダチュラとユウイチだけじゃない。
SEXマシーンだってミギワだってシス卿だって何考えてるかわかったモンじゃない。
恐ろしいとこだよ。ココは。
僕は「王蟲」を名乗って書き込んだ。
「第2回緊急オフ会!」と。
15日の木曜日決行。しかも真っ昼間だ。
どうだ。来れるモンなら来て見ろよ。僕らは学校サボってまでして行くんだぞ?
他の人も来てしまうのなら、それはそれでイイ。そこに奴も来るのなら。
ダチュラにもメール送った。「今度こそ会えるかもな!」
オフ会以来初めての登場だから、みんなさぞ驚くだろう。
見てるか?犯人。僕は戻ってきたぞ?ん?
西原さんには手を出させないよ?


6月13日(火) あめ

昼休みの作戦会議が楽しくてたまらなかった。
もうまわりの奴等も気にならなくなった。西原さんと一緒にいる僕が羨ましいか?
僕はかなり誇らしげな気分だった。良かった。仲直りしといて。
西原さんの真剣な顔も素敵だった。これからトンデモナイ事が起きるかと思うと、怖くもあり楽しみでもある。
果たして本当にトンデモナイ事になるのかは疑問だけど・・・・起こりそうな気がする。
渡部先輩が作戦会議に紛れ込んできたんだよ?何かあるだろコレは。
本人は飽くまでさりげない登場だったらしい。
曰く「西原に部活の事で話があったんだよ。そしたらこのクラスに居るって聞いたから」
今日は用事があって部活を休むらしいと。どうせ雨だしトレーニングだけだろって。
渡部先輩が戻ったあと、僕と西原さんの意見は一致した。
「部活の事なんか口実だ。僕らの様子を見に来たんだ!」
こんなタイミングの良い話があるかってんだ。
渡部先輩。「ユウイチ」でなくても、絶対何か関係ある。
僕も西原さんもドキドキしていた。明後日。渡部先輩も来たらどうするよ?
おお。震えてきた。

湖畔掲示板での反響もアツかった。
思った通り、久々の王蟲登場に皆驚いてる。
今まで何やってたんだ・・・・・・あのオフ会はどうなった・・・・・またオフ会やるって・・・・
今回も急過ぎるよ・・・・・でもみんなに会いたい・・・・・誰の話題も。
参が来るんだ・・・・・・
・・・・・・・・等々。そして今回のオフ会加表明者:王蟲、紅天女、そして今度はSEXマシーン
一人余計なのが増えたけど、もしかしたらコイツは渡部先輩かもしれないと思うと
また心臓がバクバク鳴ってしまった。これで渡部先輩が全く関係無かったら大笑い。
今の所犯人候補であるダチュラはどうなのかと言うと、これがまた返事をよこさない。
ますますぁゃιぃ。SEXマシーンもぁゃιぃ。
逆の立場で考えてみると、僕らも十分ぁゃιく思われてるだろう。
謎のオフ会を連発し、且つロロ・トマシが消えてるんだから。
うお。ぁゃιぃ奴だらけじゃないか。
木曜日だって、誰が来るかわかりゃしない。例の男(ダチュラ?)を誘い出すどころか
トンデモナイ奴が来るかもしれない。一波乱ありそうな予感。
気ィ引き締めていかないと。


6月14日(水) あめ

イヨイヨ明日と迫ってくるとさすがに緊張する。
何しろ今回は心の準備期間が短すぎる。しかも横山の時以上に、重要な意味を帯びてきてるから。
絶望クロニクルにまつわる謎は腐るほどある。
・・・・・何のために作られた?・・・・・・・湖畔とジャンク情報二つの掲示板の存在意義は?・・・・
・・・・・シャーリーンは何者?・・・・・ユウイチは風見君?・・・・・・・・・・渡部先輩は?・・・・・・・・
・・・・・・・・横山はなぜ行方不明に?・・・・・・・・・例の男は誰?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・裏で何が起こってる?
そもそもの「希望の世界」すら消えてるというのに。
そこからやって来たと謎の発言で登場を果たしたユウイチ。
少々のインパクトは有ったけどバレる嘘はいけない。
「希望の世界」がまだ何処かで存在してるなら、シャーリーンが黙っちゃいないだろ?
となるとじゃぁそのシャーリーンは何者なんだって話しに戻って
グルグルと同じ疑問の繰り返しになる。イタチゴッコだ。
しかし明日。その答えが見つかるかもしれない。
全てをピッタリ説明し得る「何か」が見つかるかもしれない。
そこに来るのは誰か?見モノだ。

西原さんもかなり興奮していた。
目をキラキラ輝かせてその気分の高まりっぷりを説明していた。

「ついに来たってカンジよね。明日は誰が来ても全てを問いただしてやるわ。
 最初に私が1時に改札前にいるから。横山君はそれより少し遅れるくらいに来てね。
 そこで私が来た人と喋ってるから。で、もし何処かに移動することになったら
 ちゃんと尾行してきてね?ドコに行かされるのか。横山君がどんな状況になったのか分かるかも。
 少しでも危うくなったら飛び出してきてくれればいいわ。頼りにしてるわよ?
 フフ。顔赤くしちゃって。でもね。ホントは私の役を秋山君にやって欲しかったんだけど。
 アナタじゃ話がもたなそうだから。私がやってあげることにしたの。
 ところであの目印のベルって何の意味があるの?え?昔のラジオ?知らないなぁ。ま、何でもいいわ。
 てゆうかさぁ。あそこを作った管理人が誰なのかが分かれば全ての謎が一気に解決すると思わない?
 シャーリーンだったわよね確か。変な名前。女の人っぽいよね。明日来るかなぁ。
 意外と知ってる人かもしれないわよ。結構そーゆーのって多いじゃない。
 信用おけないトコなんか特に。現に紅天女は私だったし王蟲も秋山君だったでしょ?
 なぁに今更顔を曇らせちゃって。お互い様なんだから水に流しましょうよ。
 シャーリーンも男である可能性も大いにあり得るわ。もしかしたら渡部先輩って可能性もあるかもよ?
 昨日はホントに部活に来なかったけど。でもあの人は絶対あやしい。
 影じゃ家でこっそりネットに繋いでほくそ笑んでるっぽくない?そう思うでしょ?
 ちょっと相槌くらい打ってくれてもいいんじゃない?そう。それでオッケーよ。
 にしても横山君は本当にどうしちゃったんでしょうね。まさか死んではいないでしょうけど。
 でも秋山君が見たって男に拉致されてる可能性は高いわよ。何のためって・・・
 それを調べようとしてるんじゃないのデブ。あ、ごめんね。また言っちゃった。
 ああもう。おしとやかモードでいるって約束したのにごめんね?またお喋りモード入っちゃって。
 だってさ。明日よ明日。もう明日なのよ?月曜決めてもう明日・・・やっぱ早すぎたかなぁ。
 もうなんか緊張しまくっちゃって話してないと落ち着かないのよぅ。今日くらい多めに見てね?
 この緊張感分かるでしょ?ね?ほら秋山君だって緊張してるじゃない。お互い様お互い様。
 だからさっきデブって言ったのは口が滑っただけだって。こんなところで泣かないでよ。
 ごめんね。撤回するから。ホラホラ、お弁当に涙がかかっちゃったじゃない。
 ・・・・・泣くなって言ってんのよカス!デブなんだからデブって言われても仕方ないでしょ!
 あああごめんなさいごめんなさい。私ったらまた余計なことを。泣かないでお願い。
 私今すっごく反省してるからお願い。私がいけなかったね。人の気にしてること言っちゃいけないよね。
 ごめんね。ごめんね。太ってるからって気にすることなんかないのよ。いいのよそのままで。
 ブタ君。
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・」

思い出すとまた悲しくなってきた。
キーボードを打つ指先がプルプル震えてるのがわかる。
涙をこらえるあまり目が痛くなってきた。一人で居るときの方が泣きたくないのはなぜだろう。
鼻の奥がツーンとしてきた。鼻水も徐々に流れ始めている。
さぞ顔はくしゃくしゃになってるだろうと思うと、それがまたタマラナく虚しい気分になってくる。
マウスをコロコロコロコロコロコロコロコロ転がしてなんとか気分を落ち着けた。
しっかりしろ!決戦は明日なんだぞ!
ファイト、僕!


6月15日(木) はれ

僕が協力を誓ったのはあの優しい西原さんであってお喋り西原さんはむしろ嫌悪の対象であり
先日もまた禁句とされていた言葉を意図的に発するなどして嫌悪の対象足る所以を遺憾無く発揮して
いたために僕のアラユル努力を持ってしてもその根本的な嫌悪は僕の行動の大前提となるべく
心理状態の奥底に根付いてるせいもありその結果としてお喋り西原さんに協力する気が消失せしめたるも
当然の道理でありそれが正しい因果でもあることは言葉にするまでも無く絶対的な事実として
存在されていなければならず僕がその因果を説明するために敢えて非協力的な態度となる
のは飽くまでも必然の結果であると言わざるを得ないのだ。
これを解消したいのであれば西原さんはお喋りモードなる人格を心の奥底に封印して表側に西原さんと
して露出すべき人格は優しい西原さんでならなければならずそれこそが禁句を発する如何にかかわらず
大前提として行われなければならないことであったのは本日の僕の行動からして容易に推測し得る事実
であるのみならずそれを怠った西原さんは今日のこの結果は自業自得と言っても過言ではない。
だがしかしそれ以外の対処方な皆無であったわけではないことは本日のコノ冷静な目で持って判断したのならば
今日のように晴れ渡った日に屋上に上って山を背に向けて手すりに肘を乗せたたところで眼を開き
ビルや民家が乱立したその向こう側に富士山を発見するがごとくクッキリ見えてくるのである。
すなわち西原さんはお喋りモードで僕に与えた嫌悪感以上に優しい西原さんの好感を与えれば良かったのは
自明であり犯した罪をフォローする唯一にして最善の方法であったのだ。事実僕は昨日の夜まではこれまでの
優しい西原さんのイメージを頭に思い描くことでオフ会に対する情熱を維持することができそれにより
お喋り西原さんへの嫌悪感を心の引き出しの中に一時的ではあったけど封印することが可能であった。
しかしして一夜明けてイザ当日となった場合には朝特有の気怠さや思考能力の低下という人間として
避けられない絶対的な心理状態に陥った際にフトした拍子に封印したはずの引き出しが開いてししまい
お喋り西原さんへの嫌悪感がアリアリと僕の心の中に浮き出てきたのはある意味必然的な結果とも言える。
要は西原さんは朝の気怠さの中でもお喋りモードの嫌悪感に打ち勝つ優しい西原さんの好感を僕に与えることが
できなかったせいでありまたその嫌悪と好意が微妙なる均衡状態に陥ったのならばそのどちら側へと僕の心を
動かせば良いのかを判断するのは容易なことではなく選択を一時保留しジックリと互いの選択枝を吟味する必要
がありそこにまた朝特有の気怠さを踏まえてみれば取るべき行動としては制服に着替えて惰性的に学校へと
足と運ぶことになるのは致し方のないことである。
と言うのも僕が西原さんへの好意を選択した場合に取らなければならない行動はまず仮病を使い
親に学校を休む意図を伝えなければならないのであるが先ほど出たように僕の心は一時保留状態で
あったために何も知らない親が朝食を作ってそれを僕が食べた時点でもうこの日取るべき行動の選択枝が
決定的に絞られてしまうからだ。
結論として僕がオフ会に参加せず普段通り学校に行って何喰わぬ顔して授業を受けていたのは
まったく非難の対象にはならず且つ誰も攻めることのできない、否、攻めてはいけない事なのだ。
敢えて非難されるべき対象をあげるのであればそれは誓いを破りお喋りモードを発動した西原さんとなる
ことは先ほどからの説明から容易に出せる結論である。

って事を西原さんに言ってきかせてあげたかったなぁ、と思いつつお弁当を食べていた。
もちろん僕は一人だった。今日はちょっと暑くて教室にもにクーラーつけて欲しいなって思った。
あとは普段通り家に帰り、普段通りゲームをやって、普段通り晩ご飯を食べて、普段通りまたゲームをして
お風呂に入って、パソコンを起動させて、ネットには接続せず、こうして日記を書いている。
サテそろそろ寝るかな。僕の今日の行動。全く問題無いはずだ。うん。
でもオカシイ。
胃が痛くてたまらないよ?


6月16日(はれ) 金

いやぁ女の子の失踪は反応が早いこと早いこと。
横山の時とは全然違ったよ。しかし僕は納得できない事が一つあった。
それはみんなの態度だ。オマエラもっと西原さんの事心配しろよ!
反応が横山の時と同じで、僕を一通り攻めたあとは、西原さんのことなど大して気にもかけてない。
これで行方不明者が二人になったってのに。みんなそれでいいのかよ!
僕はそであった方がありがたいのだけれど。
その皆の無関心ぶりの理由がわかったのは、渡部先輩のおかげだった。

渡部先輩は昼休みにやってきた。
「よう」と堂々と入ってきて、ドカッといつも西原さんが座ってるように僕の前に腰掛けた。
戸惑う僕の事などお構いなしに笑顔を振りまく。そして一言。
「いやぁ。お前達が何をしたかったのがイマイチわかんなかったけど、こっちは大助かりだったよ。」
ここにいて当然と言わんばかりに馴れ馴れしく話を始めた。
「おかげで色々わかったし。これでこっちも動きようがあるってもんだ。」
クラスのみんなは渡部先輩が居たところで何も気にしてないようだった。
「で、お礼を言いたかったんだよ。アリガトウ。」
そう言うとまたガタンと椅子を動かして席を立った。
「そんだけ。じゃな。」
クルリと背を向けて行ってしまった。
僕は渡部先輩を呼び止めた。先輩の話があまりに意味不明だったから。
察するに、もしかして渡部先輩は絶望クロニクルに非常に関係してるのかもしれない。
僕がその疑問をぶつけると、先輩は眉をひそめ、またツカツカと僕の所に戻ってきた。
さっきと同じように座り、今度はちょっと声を抑えてヒソヒソ話のように話した。
「なんだ知らなかったのか?いい加減察してるかと思ったのに」
全然知らなかった。今日そこで初めて知った。
一体アナタは何者なんですカ。絞るようにして聞いた。
コレ以上ない質問だった。
先輩はふっと口元をゆるめ、目は真剣のまま答えてくれた。
「セックスマシーン」
僕は驚きのあまり目をカっと開いた。
驚きはさらに続いた。
「ダチュラでもある」
ひっくり返りそうになったのを机をつかんでこらえた。
「ユウイチは・・・俺以外にちゃんと存在してる。」
身体がブルブル震えてきてた。
「湖畔に人が増えたの、突然過ぎだとか思わなかったか?それともネットじゃそんなの日常茶飯事なのか?」
唐突なことばかりで、僕のアタマはかなり混乱していた。
とりあえず渡部先輩が絶望クロニクルに当たり前のように関係していたことは
どんなに混乱してても受け入れなければならなかった。そうしないと前に進めない。
何故渡部先輩が。理由を聞いてる暇など無く、他に聞かなければならないことはたくさんあった。
でも僕のアタマは非常にゴチャゴチャして何から聞けばいいのかとても迷っていた。
かろうじていつも感じていたあの疑問だけは口にすることができた。
絶望クロニクルって何なんですか?
「それは俺にもわからない」
即答だった。
「だが、わからないナリに利用させてもらってる」
それからちょっと先輩は考え込んだ。
僕はアタマの中で必死に次の質問を考えた。
何か言わなければ先輩は帰ってしまいそうで、それっきり何も分からなくなってしまう・・・。
なんとかひねり出した質問は、ふと気になったことだった。
その答えをあらかじめ知っていたら、僕はこんな質問をしなかったのに。
それによって、この胃の痛みは死ぬほど安らぐはずなのに。
西原さんはドコへ?
今朝先生から他のクラスの女子・西原さんが行方不明になってるコトを聞いた。
オフ会の次の日に、学校来てみりゃ行方不明。横山と同じ状況。
だがオフ会の次の日であるという事実を知ってるのは、僕と恐らく渡部先輩だけだろう。
世間一般に見れば、ただ二人の高校1年生が行方不明になっただけ(だけという程軽くはないけど)。
サテどん答えが返ってくるかと待ちわびてると、先輩はそっけなく
且つハッキリとスッパリとキッチリと、答えてくれた。
「ああ、あいつね。たぶん死んだ。」
は?僕は素っ頓狂な声をあげた。
「あと前にもなんか一人居たんだろ?そいつも死んでるだろうなぁ」
そんなあっけなく言われるとどうしていいのかわからなかった。
ヒソヒソ話しに近い形だったので他の奴等には聞こえてない。
次の質問は自然に口から流れ出た。
イ、イ、イ、イ、一体誰がそんなコトを。
一瞬渡部先輩かと思い、凄い勢いで汗が吹き出てきた。
でもどうやら違ったらしい。
ふぅと息をついて首を横に振った。
「そんなことはどうでもいい」
そして顔を寄せてきた。
真剣な目が僕に何かを訴えかけていた。
「なぁ、ハッキリ言って俺達はブス原がどうなろうか知ったこっちゃねぇんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ブス原って?
「お前が絶望クロニクルに関係してるのは、恐らく偶然だ。居着いてたのがたまたまお前らだったってだけだ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たまたま?
「俺達は海洋深層水より深い事情で、あそこに関わってる。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・事情?
「最初に何の意図でオフ会とやろうとしたのかワカランが、どうせ大した理由じゃないんだろうな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「2回目はまぁ一回目に行方不明者が出たからそれをどうたらって感じだったよな。」
・・・・・・・・・・・・
「俺達から言わせてもらえば何がやりてぇのか意味不明ではあるけど。」
・・・・・・・・・
「で、二人も死んだ」
・・・・・・
「昨日お前が来ていれば、恐らくお前も死んでいた。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺達はオマエラを助けるつもりなんてなかったし。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「当然、ブス原も見殺した」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なぁ秋山君よ」
はい?
「どうせろくでもない理由で来なかったんだろ?」
そんなこと・・・・・
「その素敵で楽しい思考回路のおかげで助かったんだ。」
素敵・・・・・・
「次は無いぞ。これは命に関わる問題だ。」
次・・・・・
「だからもう、あそこに関わるのはやめろ。」
絶望クロニクル・・・・・・
「書き込みをしないだけで、存在は隠すことが出来る。」
ROM・・・・・・・・・・・
「でもできれば全てを忘れてしまった方がいい。」
記憶から・・・・・・・・・・・
「いいな?もう二度と絶望クロニクルにはアクセスするな。それがお前のためだ。」
でも・・・・・・でも・・・・・・・・
西原さんがいろんな人にあそこを言いふらしちゃったし・・・・・・
横山や西原さんのコト・・・僕に関係してると思われてるし・・・・・
「ああそれか。それなら全く心配ない」
・・・・・・・・・・・・なぜに?
「ちょっとしたスジから、お前ラの中学時代の話を聞いたんだけどな」
・・・・・・・・・・中学・・・・・・
「なんか情報通気取りだったらしいじゃないか。誰も頼んでないのに、犯罪少年の画像見せびらかしたり」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「しかもオタク牙城みたいのまで築いてたとか。いやぁコワイねぇ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「で、みんな思うわけだ。『こいつらキモイ!関わったらオタクがウツちゃう!』」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今も同じさ。誰もオマエラのコトなど気にしてない。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いや、関わりたくないんだ。関わってくれる奴なんざ居ないよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それが普通の社会だ。ブス原にしろお前にしろ、バカは相手にされない。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お前は一人、部屋に引きこもってるがイイサ」
そして今度こそ先輩は席を立った。
「あばよ。もう2度と話しかけるな」
スタスタと歩いて帰ってしまった。
もう戻ってこなかった。

先輩の話を聞いてる最中、僕の『素敵で楽しい』思考回路はスッカリ止まっていた。
ただただ先輩の話をアタマに詰め込んでいただけだった。
今になってもうまく整理がつかないでいる。
なんの疑問も許されず、先輩の話を鵜呑みにするしかなかった。
西原さんが死んだって?行方不明なんかじゃない?
というか渡部先輩がダチュラでSEXマシーン?昨日もオフ会に?
僕が見たあの男は?
結局の所、僕は何も分かってない。
与えられた情報はあまりに脈絡が無さ過ぎる。リアリティが無さ過ぎる。
こんな状態のまま、全てを無かったことにしろというのか!
忘れろと言うのか!

うん。そうしよう。


6月17日(土) あぬ

今日は第3土曜日で学校があった。
しかも雨が降った。
・・・部活は早く終わる。
気付いたら渡部先輩の帰りを待っていた。

テニス部は雨が降るとコートが使えないからトレーニングだけで終わる。
西原さんから散々聞かされた話だった。
踊り場の一角に部室が見渡せるポイントがある。
そこでテニス部の部室をずっと眺めてた。1時にはトレーニングを終えてテニス部の連中は部室に戻ってた。
渡部先輩も居た。僕は先輩がいつ部室から出てくるかと待ちわびた。
窓に張り付く僕をすれ違うヒトタチは変な目で見た。そのたびに僕は歯を剥き出しにしてニっと笑った。
みんな何も言わずそそくさと行ってしまう。笑顔は大切だと思った。
1時半ごろ、渡部先輩が一人だけ部室から出てきた。もう着替え終わってる。
鞄も持ってる。中に何かあいさつしてそのまま一人で帰っていった。
行動開始!僕は先輩の後をつけた。
大急ぎで外へ出ると、先輩は門を出たところだった。テクテク歩いて駅に向かった。
僕もテクテクテクテクテクテク歩いて駅に向かった。
先輩は定期を使って中に入る。僕も中に。
先輩がドコの駅で降りるかわからなかったけど、後で精算すればイイ話。
電車には隣の車両に乗った。先輩はまだ僕の存在に気付いてない。
カンペキな尾行だ。僕には探偵の素質があるらしい。
てゆーか僕、ストーカーじゃんッッッッッッ!! ビシッ
自分でツッコんでおいた。まわりの人が他の車両に移動していった。
先輩が3つ目の駅で降りた。僕もそれに続く。
階段を上って改札へ。幸運なことに僕の定期の区間内だった。
改札を出るとすぐ、先輩は電話ボックスに入った。
数分誰かと話してた。誰と話してるんだろう?
さりげなく近づいてみたけど聞こえなかった。仕方ないからまたストーキングポジションに戻った。
電話ボックスを出たあと、スタスタ歩き始めた。
今度は少し早歩きになってる。
負けないゾ!僕もスタスタスタスタスタスタ歩き続けた。
角を曲がるとき、チラっとこっちを見た気がした。
でも僕はカサでサッと顔を隠した。雨様々だね。
住宅街に入っていくにつれ、人通りは少なくなった。
けっこう歩いた。この時はもう15分くらい歩いてたんじゃないかしら?
どんどん奥に入っていって、ついに僕と先輩だけになった。
電柱に隠れつつ、コッソリヒッソリ尾行を続けた。
やがてある家の前で立ち止まった。キィ、と門を開ける。
中に足を踏み入れると、何かを思い出したように庭の方に歩いていった。
・・・・渡部先輩の家だ。
へぇ。ヒロ君はそこでおっきくなったんだネ♪
個人情報入手完了。昨日は勢いに乗せらたけど、僕はそんなに甘くないよ?
そんな簡単に忘れられるかっちゅーの!!
先輩が何をやってるのか。これから何をするつもりなのか。しっかり調べさせてもらうよ?
さっそくここまでの道のりをメモしようとした。
誰かに後ろから殴られた。
倒れた僕は、突然の事に混乱状態に陥ってた。
傘が転がり、水たまりに座り込んだ僕は身体がびしょびしょになった。
顔を上げると・・・・・・・・・・・誰?
見知らぬ茶髪の兄ちゃんが立っていた。
小柄で痩せ気味。顔に特徴もない。いかにも普通の若者。
調子にノってる厨房と言ったところか。話し方もエラそうだった。
怖かった。

「ヘィ、デブ二等兵。お前の行動は相変わらず意味不明だな。」
だだだだだだだだだだだ誰?
なんなんなんなんなんなんですかアナタは!!
「うん。なんというか。ボニー&クライドにも仲間はいたってことだ。」
意味不明意味不明。我理解ニ失敗セリ。
「つーかさぁ。最初はこっちだって焦ったさ。なんでデブ山がココに!って感じで。」
デデデデデデデデブ言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!
「それはまぁ済んだことだ。もういいさ。あとはお前が舞台を降りてくれればいい。」
だからアナタはなんなんですかぁぁあぁ!!
「何やっても無駄だ。もう余計な真似はするな。」
僕の心の質問に答えろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
「サテそれはそうとして、俺はデブに嫌な思い出がある。」
ぼぼぼぼぼぼぼぼくは関係ないぞォォォぅぅぅ!!
「最後の警告って意味を込めて、ちょいと痛い目にあってもらおうか。」
やーーーーめーーーろーーーよーーーーー!!!
「アイム シーンギン インザ レイン」
ゴスッ
唄いながら僕を蹴った。何度も蹴った。
僕は泣きながら亀のように身を固めてた。
体中が痛い。なんだ。なんなんだこれは。
なぜこんな目にあう?こんな正体不明の奴に、なぜ僕が蹴られなきゃいけない?
悪夢だ。これは悪夢なんだ・・・・・
どれくらいの時間がたったかわからないけど、いつの間にか奴は消えていた。
嵐が過ぎ去ったようだ。
突然やってきて、荒らしに荒らしまくって、サっと消える。
残ったのは身体の痛み。お腹の痣に腕の擦り傷。口いっぱいに広がる血の味・・・・・
血・・・・・・血だ・・・・・・・・・・・・・・血ィィィィィィィィィィィ!!!!
泣いた。

しばらっくして落ち着くと、事の状況を整理した。
渡部先輩を追ってここまで来て、突然暴漢に襲われた。
事実はたったこれだけ。これ以上の説明はできない。
そこに因果関係などあるのだろうか?
僕はフラフラと立ち上がり、ふと最初の目的を思い出した。
渡部先輩の・・・家・・・・
先輩が入っていった家を見た。ここが渡部先輩の家か。
これさえ分かれば問題ない。これが目的なんだから。
それさえ達成できれば、他の嫌なことなんか。
改めて家を眺めてみた。
こじんまりとした一軒家。ちょっと広めの庭。立派な表札・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田中?
庭をのぞき込むと、向こうに裏戸が。
通り抜け?

僕はひっくり返った。

家に帰ると傷口にオキシドールを塗って消毒した。
すごくしみて痛みがブリかえってきた。
怪我をしたときの状況も思い出した。
茶髪に蹴られまくる僕・・・・・・・・・・・
また泣いた。
思い出したくない。
もうイヤ。
今度こそやめる。
絶対やめる。
もうやめる。
ヤメるぞ


6月18日(日) あついね

考えてみれば昨日の茶髪兄ちゃんは台風一過のようなものだ。
絶望クロニクルに関係した奴だろうが、あの登場は予測できやしない。
あれは災害だ。事故だ。アクシデントだ。僕に非はない。

渡部先輩はとてもスバラシイ事を言った。
「書き込みをしないだけで、存在は隠すことが出来る。」
まさにその通り。
ってことは、黙ってROMってりゃ問題ないんだな。
横山が死んだ?勝手に死ねばぁ?
西原さんも死んだ?悲しいねェ。
渡部先輩と茶髪君の関係?風見君?オフ会の男?
知らねぇよ!
僕は僕のやり方でアプローチをする。
身近な謎をちまちま解いていっても何も分かりゃしない。
煙にまかれるのはもうゴメンだ!
そこで僕は、誰もが棚上げにしてるアノ謎に取りかかることにする。
最大にして最難関。
すなわち、「シャーリーンは何者か?」
膜に包まれたこの人物。見えそで見えないこいつの正体。
西原さんが言ったように「身近な人物」ってパターンもアリか?
それともオフ会の男や茶髪君のように、さりげなく見たことある人物か?
これさえ突き止めれば、僕は奴等全てを出し抜ける。
で、どうやって調べるのか。
ンフフ。僕のこの素敵で楽しい頭脳にかかれば問題ない。
渡部先輩とかは絶望クロニクルを「利用してるだけ」で、敢えてシャーリーンの正体を調べようとしてない。
事を進めてれば自然に出てくるとでも思ってるのヶ?甘い甘い甘いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
悪いが僕はもうオフ会があろうが行かないゼ?メ−ルも読まんぞ?無視、決め込むよ?
シャーリーンの正体が分かったら、その時は行ってやるサ!
それにしてもみんな(誰から誰までを「みんな」と言っていいかわからないが)はバカだ。
このご時世、ネットで個人情報調べ上げるのなんて簡単だぜ?
アングラにはイケナイソフトがたぁくさん落っこってる。
その気になりゃぁ誰がドコに住んでるかなんて、調べ上げるの屁でもねぇ!
やるよ?僕は。ソノ気になっちゃったよ?
横山みたく海の藻屑にゃならないよ?
絶望クロニクルのサイト自体、シャーリーンの持ち物だ。
こっから調べりゃいいんだな。さぁて。アングラ巡ってソフト探しでも始めますカ!
僕は怖いよ?怒らせると。
シャーリーン。お前の素性舐め回すように調べ上げて、身体に穴あくくらい見つめちゃうよ?
やると言ったらやるよ?覚悟しとけ!!
・・・・・あれれ?でもなんかちょっと、不安だよ?

死にたくないよ?



- 第6章 「膜」 王蟲の日記 -  完
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