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序章

<追撃編>


第1章 「傷」
 第1週 再会
 第2週 依頼
 第3週 怨恨
 第4週 悪魔

第2章 「鎖」
 第5週 新参
 第6週 裏道
 第7週 到達
 第8週 連結

第3章 「塊」
 第9週 下僕
 第10週 道化
 第11週 対決
 第12週 集結

第4章 「駒」
 第13週 焼跡
 第14週 疾走
 第15週 帰巣
 第16週 追撃

<迎撃編>

プロローグ
 第0週 覚醒

第5章 「溝」
 第17週 来訪
 第18週 濁流
 第19週 虎視
 第20週 奈落

第6章 「膜」
 第21週 裏側
 第22週 下降
 第23週 沈没
 第24週 藻屑

第7章 「戦」
 第25週 本陣
 第26週 奔走
 第27週 失策
 第28週 瞬殺

第8章 「蟲」
 第29週 継承
 第30週 歯車
 第31週 撃破
 第32週 終焉







第二十七週 「失策」

7月3日(月) 晴

日記をモバイルに移した。念のため。
何かの拍子で俺も逃亡生活になるかもしれないからな。
今のところ大丈夫だが、この家に居れない状況に陥る可能性だって有る。
そしたら兄貴とミキさんと一緒に逃げることになるのか。
逃亡生活・・・・・想像つかないが、ロクなもんじゃなさそうだ。
そうならないように祈ろう。
処刑人さんのカキコはもうなかった。昨日の一言が効いたのかも。
湖畔では「ミギワ」が「最近人少なくなって寂しいね」等と痛いところをついていた。
そりゃそうさ。逃亡やら捕まったりやらでこっち側の人間は俺しかいない。
第3勢力の生き残り・秋山もROMになっちまた。
結局今湖畔に残ってるのは3人か。
「ユウイチ」「ミギワ」「シス卿」・・どれも絶望クロニクル的には新参者だな。
お互い含む所が無いおかげで罠もはりやすい。
・・・・罠と呼べるほど立派なモノでもないけどな。
できるだけ自然な会話でおびき寄せる。
横山と西原の様にカンタンに殺れると思わせなければ。
何も持たない俺がノコノコやってくると思わせる。
そこで待ってるのは兄貴・・・これが理想型だ。
一丁やってやるか。俺もなんとか活躍を。
立派な舞台整えてやるさ!

・・・・俺の作戦、間違ってないよな。


7月4日(火) 曇

ちょいと妙な展開になってきた。
処刑人サンのレスが。「お前何がしたいんだ。」
何がしたいって・・・兄貴とアンタの対決のための舞台を作ってるんだよ。
それくらい察して欲しい。「アナタを引きずり出す為です。」と返して置いた。
掲示板だからチャットみたくすぐレスが来ない。
今日中のレスは来なかった。ジラしやがって。
湖畔での会話にもそろそろ気を使う。
「今日は夕立が凄かったですね。東京は酷かったらしいですが、皆さんはどちらにお住いですか?」
これで俺がドコに住んでるのか聞き返してくれれば「横浜」と答えられる。
そうして「ユウイチ」が風見であることをより強く認識させることができるはず。
うまくいったら今度は「僕の友人」の話を持ち出す。
そして俺自身の存在を匂わせる。ユウイチは「風見の友人」だと思わせる。
兄貴の逃亡生活はあっちは知らないはずだ。
オフ会の時、来るのは「風見の友人」と思わせることで、兄貴への警戒を無くさせる。
そうすりゃ兄貴も襲いやすいってモンだ。
「ミギワ」が早速レスくれた。「こっちも凄い雨だったよ!海が荒れてそう・・・」
そんな話はいいからこっちにも話を振ってくれよ。
誰も言ってくれなかったら仕方ないから自分から言うしかないな。
ワザとらしくならないよにしないと。
うまくいくかな。


7月5日(水) 晴

処刑人。「オフ会あればすぐ現れるさ。やればいいだろ。」ときやがった。
そのオフ会を開く秋山が引き籠っちまったからこれまでみたくカンタンにはいかないんだよ!
オーケー。俺がやればいいって思ってるな?
そいつは間違いだよ岩本先生。今はチクリ魔秋山が見てる。
やたらオフ会なんざやるとサツにチクられる。アンタも困るし、兄貴とミキさんも困るんだ。
だから秋山の知らない「ユウイチ」が必要なんだよ。ヤツは風見と岩本先生の関係を知らない。
そもそもの亮平さんやミキさんの因縁も知らないんだ。さりとて実名を出すわけにはいかないが。
知ってるモノ同士しかわからない暗号というか・・そんな感じのでやりとりしようってハラなんだよ。こっちは。
「そちらが今ドコにいらっしゃるのか教えていただければ、すぐにお伺いしますよ。」
丁重なレス。メアドでも載せてくれりゃこんな掲示板使わないで済むのに。
なにが「ジャンク情報BBS」だよ。本当にくだらん情報ばっか流しやがって。
こんなトコにいるようなヤツがネットストーキングなんかやらかすんだろうな。コワイコワイ
シャーリーンもなんでこんなモン作ったんだか。
湖畔のルールってのも意味がわからない。何故NSCのメンバーを・・・・いや違うか。
正確には・・・・・・・・あれ?これって・・・・・・アレだよな。考えて見みりゃそうゆう共通点があったんだ。
なんか深い意味ありそうなないような。全部あの人の・・・・・
まぁいいか。今更関係ない。

湖畔でのカキコ。「ミギワ」さんがナイスな振りをしてくれた。
「今日は雨大丈夫だった?ユウイチ君はドコにお住いなの?」
そして「シス卿」サンが今頃きわどい質問をしてきた。
「そういやお前の姉探しはどうなったよ?3千里くらい訪ね歩いたか?」
危ない話をする。デブ山が見てたら過剰反応しちまいそうだ。
「渡部」の名前が出なかったのは運がイイ。ヒロフミさんがさらにマズい立場になる所だった。
だが未だ連絡がないのはさすがに怖くなってくるな。
もしや完全に捕まっちまったとか・・・・・・・
兄貴やミキさんも実はもう捕まってて、渡部家は犯罪者をかくまったとかで・・・・
それだきゃ勘弁してくれよ!いや、大丈夫。俺の立場を冷静に考えてみよう。
俺はデブ山を蹴っぱくった。これは傷害罪だが・・・・・・違うそんなことじゃない。
兄貴達が捕まりゃウチにサツから連絡があるはず。身内なんだから。
それが無いってコトはまだ捕まってないと考えていい。
ヒロフミさんが捕まるようなコトがあれば、一緒にオフ会に行った俺にも何かアプローチが。
それすらも無いってことは、つまり全てはまだギリギリの状態で保たれてると考えて・・・・いいよな?
チクショウ。誰か早く連絡くれよ!不安でしょうがねぇ。
「処刑人」サンとサシで話すだけでも結構ドキドキしてんのによ。
やだぜ。このまま俺だけであのターミネーターに立ち向かうなんて。ぜってぇ勝てねぇよ!
それに比べて湖畔は気楽だ。ジャンクに比べりゃ爽やかな話題だねマッタク。
ミギワのレスには「僕は神奈川在住です」。風見も俺も神奈川在住。嘘は言ってない。
シス卿のレスには「あれは義姉探しなんです。まだ見つかってません・・・」
こっちも嘘は言ってないよな。ミキさんが今ドコにいるか分からねぇし。
とりあえずこれで秋山の素敵で楽しい思考回路からはヒロフミさんは完全に消えただろう。
あの人が捕まってる間にカキコがあることも踏まえりゃ「ユウイチ=ヒロフミさん」の線は無いはず。
あとは岩本先生がどう見るかだ。死んだはずの風見のカキコをどう感じてるか?
姉探しは書き込みに注目させる為のネタであったことくらい、既に見抜かれてるだろう。
風見とミキさんは実際にも知り合いだったんだから、ミキさん探しをネタにしても不自然じゃない。
もうちょっとでこのユウイチは「風見の友人」であることを察してくれるかもしれない。
何かの拍子で風見の死には岩本先生が関わってることを知ったから・・・・
そこで「なんだ。コイツは川口豊とは関係ないヤツか。」と思ってくれれば大成功。
ある程度順調に進んではいるな。
あと一押しか二押しか。


7月6日(木) 曇

「お前何か勘違いしてるぞ。こっちはもうお前の居場所なんぞとっくにわかってる。」
処刑人サンのレスを見たとき、俺は一瞬背筋が凍った。
嘘だ。そんなのハッタリ・・・だよな?
第一、そうだ。本当に分かってるんならとっくの昔に乗り込んできてるはず。
横山や西原のように、俺はとっくに消されてる。
それができないってコトは、まだ俺の居場所を知らないからだ。
いや待てよ。もしかしたらあっちは「ユウイチ」を兄貴だと勘違いしてるのかも。
兄貴は亮平さんと同級だから、ウチの住所を知っててもおかしくない。
その意味での「わかってる」なのか?
それともまさか、全てもう知られてる・・・?
あっちは川口豊に弟が居ることくらい知ってるのかもしれない。
考えてみれば、知られてもおかしくない状況だった気もする。
え・・・でも、そう、俺が風見の友人ってことまでは知らないよな?
知り得る状況は無かったと思うぞ。
じゃぁ何だ?なにがどうゆう道理で「わかってる」なんだ?
単純に風見の家を知ってるってだけなのか?俺をビビらせようと?
ああクソ。一人だとどうしても嫌な方向に考えが向いちまう。
誰でもいいから戻ってきてくれよ。誰かアイルビーバックと言ってなかったか?
畜生、まだ一人かよ!!!

気付いたら色んなものが壊れてた。千切れた紙も散らかってる。
パソコンは何時の間にか省エネモードになってて、画面は真っ暗だった。
手も所々が痛む。いくつかのかすり傷まで。
・・・・俺は、無意識のウチに暴れてた。
兄貴がそんな状態になった時、俺はいつも見てるだけだった。
後片づけはいつも俺。今日の後始末だって慣れたモノだ。
俺にはこんなことできないよ。常にそう思ってた。
それが何だ。こんなあっけなく弾け飛ぶなんて。
血は争えないってのか?
そんな陳腐な表現が妙にしっくり来るので、少し笑っちまった。
乾いた俺の笑い声が虚しく部屋に響き渡った。
悪くねぇな。
笑いながらそんな風に思った。
暴れるってのも悪くない。嫌なモン抱えてる時は思う存分吐き出した方がイイ。
兄貴の心境がちっとばかし分かった。俺だってソノ気になれば暴れるくらいワケない。
さらに笑った。
だからと言って、兄貴や岩本先生にゃ勝てねぇけどな!

落ち着いたら再び画面と向き合った。
「どうやって僕の居場所を知ったんですか?興味深いトコですね。」
何かを悟ったからって状況が変わるワケでもなし。結局のところ岩本先生と俺一人でやり合うんだ。
ダイ・ハードよかキツイよこりゃ。
湖畔の二人が異様に羨ましく思えてきた。
「台風近づいてるから気を付けようね」とか「義姉探しガンバレよ!」とか。
俺も何の深い意図もない書き込みしたいさ。
はやく解放してくれよ。
ホントに俺の正体バレてたらどうしようもねぇよ。
兄貴が戻る前に殺されちまうよ。
誰か助けてくれよ。
誰もいねぇよ。
俺だけだよ。
一人だよ。
畜生・・・


7月7日(金) 大雨

もう無理。もう限界。
処刑人サンのカキコ。「なんなら今からでもそっち行ってやろうか?」
これもハッタリだよな。具体的なことなんて一言も言ってないんだから・・
等と考えるのに疲れ果てた。
都合の良い解釈をするために思考回路を使いすぎた。
アタマから湯気が出てるんじゃねぇのか。
イッパイイッパイってやつだ。
考えるのが嫌になった。
ストレス溜まってるよオイ。
発散させてくれよ。
こんな引きこもり状態じゃ何もできねぇよ。
何かさせてくれよ。何でもイイからよ。
スカっとするモノ。
何かねぇのかよ。
何か・・・・・

気付くと俺は電話していた。
手元には中学の卒業アルバム。プルルプルルと呼び出し音。
「もしもし」と声が聞こえた。オバチャンの声。俺はヤツの名を言った。自分は名乗らない。
「少々お待ち下さい」と聞こえた。受話器を押さえておらず「ちょっと電話よー」と遠くで叫ぶ声まで聞こえる。
何度か叫んだ後「今出るからー」と間延びした男の声が。
ガチャガチャと受話器を取る音。「もしもし」と不機嫌そうな声。
秋山の声。
俺は一気に捲し立てた。
「やぁシドニー。今日は台風が近づいててとても物騒だね。直撃しないように気を付けような。」
「はぁ?」と間抜けな声が答えてくれた。俺はさらに続ける。
「覚えてないかな?俺の足の感触もう残ってない?優しく蹴ってやっただろう?」
少しだけ沈黙があり、思い出したように「あっあの茶パツ・・・」と声を漏らした。
上等上等。俺の髪を覚えていたか。
「つーかさ。お前サツにチクったろ。あれほど大人しくしとけと言ったのに。約束破りやがったな。」
それからのヤツの怯えようと言ったらたまらなかった。
電話越しでも十分リアルにその怯えが伝わってきた。「なんだよう・・・誰なんだよう・・・・」
「当然罰を受けてもらう。お前の個人情報バラしてやるよ。そしたら次に消されるのお前だぜ?
 サツがカキコを見つけるのと、処刑人サンがお前をやっちまうの、どっちが早いだろうな。」
ままままままま待って下さいよぉぉぉぉぉ・・・・・・違いますチガイマス・・・・・
言葉があからさまに震えてた。楽しくてしょうがない。
「おう。何が違うと言うんだ?ロミオ・マスト・ダイだ。色男は死ね。」
調子に載乗ってケラケラ笑った。久々に遠藤をイジってるような気分になった。
だがそれもここまでだった。次のヤツのセリフで俺は我に返った。
「ぼぼぼぼぼぼボクは警察には言ってません・・・・・・」
沈黙。俺も何て言っていいのかわからなかった。
「何・・・?じゃぁあの人がサツに捕まったのは何なんだ?」
正直な感想だった。
「あの人って・・・・アッ渡部先輩ッスか?あの・・・・いや・・・その・・・・それは・・・ボクです・・・・」
やっぱお前じゃねぇかよ!叫んでやった。
「ひぃぃぃぃぃい・・・・・あの・・・・でも・・・あれは・・・・・」
焦れったい。何が言いたいんだよてめぇは!
この一言でようやく口を割った。
「ネ・・・ネットのコトは言って無いんです!絶望クロニクルのことは何も・・・・・・
 ボクはただ・・西原さんの行方不明危険には渡部先輩が関わってるかもって・・・・それだけで・・・」
ネットのことは言ってない。と言うと?
「だって・・・・ネットのコトまで言ったら・・・・・ボクだってカキコしてたし・・・・・・・・」
自分まで巻き込まれるのは嫌ってワケか。
やっぱりこいつは素敵で楽しいアタマをしてやがる。
「あの・・・ネットで何か・・・ボクもうROMってもないから・・・・・」
問答無用で切ってやった。
今頃「結局、今の電話は誰だったんだろう」なんて思ってるかもしれない。
絶対わかんねぇだろうな。俺見て単なる茶髪君としか思わなかったんだから。
一生悩んでろ。
もう二度と電話してやらねぇよ。デブ。

ケガの巧妙。勢い余って出た行動の割には収穫が大きかった。
やっぱ人間、一度はキレてみるべきだよな。
冷静になった今、兄貴との約束を大きく破ったコトに気付いた。
しかし別に不都合はない。一切の電話を禁止されてたけど・・・俺が秋山に電話する分には
兄貴に迷惑の掛かる範疇ではない。幸い大きな情報も得られたし。
ネットは見られてない。道理でサツが来ねぇワケだ。
いや、それはこれとは関係ないか・・・・
畜生また考えなきゃいけねぇのかよ。ヤメだヤメ。直感でいこう。
ネットじゃ自由だ。ってコトは、もっとカゲキにやっちゃってもいいってコトだよな?
もうこうなったらあっちの情報もきわどい所まで載せてやる。ヘヘヘヘヘ
「妙なコト言ってると、アナタのコト色々バラしちゃいますよ。」
俺だってもう壊れてきたさ。考えるのが嫌になったさ。
カキコの意味を考えるのもイヤだ。
湖畔での普通の会話。幸せ。
おかしくなってきてるか?
まだ平気?大丈夫?
オーケーです。
亮平さんレベルに比べたら、俺なんてよっぽど普通さ。
ちょっと精神的に不安定なだけ。
俺は、狂わない。


7月8日(土) 晴

兄貴から電話があった。
怒鳴られた。
「お前ありゃ失策だぞ。個人情報出すとサツが黙っちゃいないってコトくらいわかってんのか!」
サツは見てないことを説明しても無駄だった。秋山に電話したことまでなじられた。
いつまでも続く罵倒。俺はもうあまり耳には入ってなかった。
ネットはやれる環境にあったんだ。まぁ今時ネットカフェなんてもんも探せばあるだろうしな。
などと全く関係ないことを考えてた。ミキさんの「もういいじゃない」って声も聞こえる・・・
だが妙な安心感があった。これまで一人だったから。
やっと兄貴が連絡くれたから?
「もういい。見てられねぇ。そっちに戻る。」
その声で我に返った。というかボケーっとしてた自分に驚いた。
「それに湖畔。何だよアレ。ナゴんでんじゃねぇよ!!」
一応アレも作戦の一環なんだけど・・・言い訳するのはやめておいた。
何を言っても無駄なのは身に染みてわかってる。
「渡部家にも連絡したらな。ヒロフミも戻ってた。あいつは忠実に俺の言いつけ守ってたぞ。」
お前は守らなかったな、と言いたげだった。否定できない。畜生
ヒロフミさんの話になった。やはりネットの話は無かったらしい。
西原についてと、少しミキさんの話もあったそうだ。
それが終わればすぐに解放され、それからは兄貴の言いつけ通りウチには連絡をしなかった。
聞いてみるとなんともあっけない・・・・俺がこれまで散々悩んだのがバカらしいくらいに・・・
問題ナシだった。兄貴だってこうして生きてる。
「明日ヒロフミにウチへ行くように伝えておいた。二人でまた新しい作戦でも考えてろ。
 俺達も2、3日以内にそっちへ戻る。そろそろ戻ってもいい頃だろう。集結するぞ。一気にカタをつける。」
今度こそ戻ってくる。でも2、3日以内って・・・・
今ドコにいるんだよ。最初から気になってた質問をした。
「遠くだよ。俺にもよくわからん。とりあえずよほど無理しなきゃ1日じゃ帰れないトコだ。」
・・・・神奈川県どころか、関東でもねぇなこりゃ。
「金も節約していきたいからな。帰るのには2日か3日は考えて置いた方がいい。」
随分と遠くにいったんだな・・・
ところで、今までドコに泊まってたんだよ。気になるところだったか、よく考えてみればわかることだった。
「おいおい。男と女が一人ずつ。全国各地、泊まる所なんざ腐るほどあるよ。」
ミキさん・・・・あまり想像したくない。
「つーかお前、なんか話し方が少し変になってないか?」
はぁ?自分じゃそんなつもり全然ない。
変わってネェよ。それは確かだ。だが兄貴は続ける。
「なんだなんだ。もうこの異常な状況に耐えられなくなったのか?安心しろ。お前はソノ気があるから大丈夫だ。」
ドクター・ストレンジラブ。兄貴の異常な愛情。
「慣れだよ慣れ。俺達が戻るまで、ゆっくりアタマを休ませてな。」
珍しく優しい言葉をかけてくれた。
と思った俺が甘かった。
「余計なことしたら殺す。じゃな。」
ひでぇ。これまでのねぎらいの言葉など皆無。
遠くでミキさんの「がんばってね」という声が聞こえた。
がんばって休みます・・・・
問答無用に電話はブッツリ切られた。

結局のところ、何だ?俺がこれまでやってきたのは全部無駄だったってコトか?
なんだよそりゃ。そんなのネェよ。失策だって?けっこう上手くいってたじゃねぇかよ!
いや、確かに実のあることは何もしなかった。けどそんな、2週間か。そんなけで結果を出せなんて・・・
それに何だよ。俺の話し方が変わってきてる?
そんなことない。兄貴と話すのが久々だったからなだけだ。
普通のままでいるぞ俺は。絶対あっち側には行かない。
あっち側って何だ?畜生!もうわけわかんねぇ!
「絶望クロニクル」に接続。湖畔じゃいつもの馴れ合いトーク。
見ず知らずのシス卿、ミギワ、ユウイチがじゃれ合ってる。
ナゴんでるんじゃねぇってか。いいじゃねぇかよ。なぁ?
それでお互い楽しんでるんだ。迷惑かけてるワケじゃないんだからよぉ。
ジャンク。処刑人のカキコは無い。
テレビとかで報道されるようなネタもあれば、真偽の怪しい情報まで。
相変わらず騒々しい。俺にはクソ荒らしが集まってるような掲示板にしか見えない。
情報カキコの合間に口論カキコ。吹き溜まりだ。
こんな中に「処刑人」や「カイザー・ソゼ」が居たって誰も相手にしない。
みんな他人の揚げ足取るのに忙しい。速報仕入れて自慢するのに忙しい。
馬鹿な奴等だよ。

ヒロフミさん。明日来るのか。
やっとゆっくり話ができる。一度解放されたんだがら、もうサツの監視も無いだろう。
一人で戦うのは今日でオシマイ。クライマックスは総動員が基本だ。
異常な状況に耐えられない?そうだよ。耐えられネェよ。
俺は普通なんだから。ソノ気がある?ソノ気って何だ?
オーケー。俺はオカシイのかもしれない。
だが誰にも迷惑かけてない。秋山や遠藤をイジる?俺に比べりゃ奴等の方が狂ってるだろ!
いいだろ?それで。文句はねぇよな?
チクショウ。もう寝る。日記書くのも疲れた。
孤独地獄も明日で解放。やっと解放だよ。
もういいさ。兄貴も勝手にやりゃぁいいよ。殴りたきゃ殴ってくれ。
俺はもう疲れた。新しい作戦もヒロフミさんが考えてくれ。
もう何もしないぞ・・・


7月9日(日) 晴

俺は何をこんなノンキに日記を書いてるんだろう。
横であの人がケケケと笑ってる。ヒロフミさんもじっと俺のことを見つめてる。
異常だ。状況も異常なら、こんな時に日記を書いてる俺も異常。
そもそもなんでこんなことになったんだ。
今日の出来事を思い返してみる。

今日はヒロフミさんが来る予定だった。
俺はもうほとんどやる気なかったが、一応二人で次の作戦を練るってコトになってた。
だから家のチャイムが鳴った時、ヒロフミさんだと思ってなんてことなくドアを開けた。
立ってたのは案の定、ヒロフミさんだった。
「よぅ。ユタカさんに言われて来たぜ。」
ああ、どうぞと中に招き入れた。
しかしヒロフミさんは入り口で立ちすくんでた。
あまりに動かないので、「どうしたんスか。入って下さいよ。」と言った。
それでも入ってこない。見ると、ヒロフミさんの顔が強ばってる。
「なぁ、今日のことってどこにも漏れてねぇよなぁ。」
何を言ってるんだろうと思った瞬間、凄い勢いで中になだれ込んだ。
と言うより、突き飛ばされたような・・・
「だから何度も言ってんだろ。偶然だよ偶然。」
あまり聞き慣れない声がした。
それもそうだ。こうしてマトモに顔を向き合わせるのは初めてなんだから。
岩本先生。
なぜかヒロフミさんの後ろに立っていた。
センセイは素早く中に入り込み、ドアを閉めた。
そしてズカズカと上がり込み、家の中を散々引っかき回した。
ヒロフミさんは倒れ込んだまま青ざめてる。
俺は何が起きたのか理解できないままセンセイの行動をただ黙って眺めてた。
なんでこの人ウチに居るんだよ・・・
しばらく何かを探し回ったあと、俺の前にやってきた。
「なんだ。やっぱココにはあの二人はいないのか。」
兄貴とミキさん・・・
「お前がユウイチ君か?なるほどなるほど。ユタカ君の弟ってワケな。」
つーか・・・・・何?
「状況を把握してないな。『処刑人』が言ってだろう。いつでもここには来れるって。だから来たまでだ。」
俺はアウアウと口を動かしただけで何も言えなかった。
代わりにヒロフミさんが顔を上げて「なんで川口家の場所を知ってるんですか・・・」と聞いた。
センセイは深いため息をつき、首を何度も横に振った。
「お前達、そもそもの俺達の因縁を分かってねぇな。ウチの息子のクラス名簿見りゃすぐ分かるって。」
あ・・・・・
「言っておくけどな。突っかかってきたのはそっちだぞ?あの二人だって逃げて消えちまえば方っておくさ。
 だがな、俺のまわりをウロチョロされると話は別だ。消さなきゃならなくなる。」
「消す」って言葉を聞いてヒロフミさんがビクっとした。
俺もその場に座り込んだ。居間の入り口にヒロフミさん。その横に俺。テレビの前にはセンセイが立ってる。
センセイの演説は続いた。俺達は何も言い返せない。
「それでまぁ家を張らせてもらった。家に居るとすれば、いつかは出てくる。飯も買わなきゃ生きていけないだろ。
 そしたら二日目にしてコイツが登場した。顔は覚えていたよ。車の後ろをウロチョロしてたヤツってな。」
ひぃぃとヒロフミさんが小さく悲鳴をあげた。恐怖で身体が縮こまってる。
俺は・・・あまりに突然の登場だったので怖がる暇が無かった。完全に神経がマヒしてた。
「捕まえて絞り上げたらすぐに吐いたよ。ネットでのちょっかいはオマエラの仕業だってな。」
すまない・・・・すまない・・・とヒロフミさんの声。良く顔を見ると、赤く腫れてた。
「もうすぐココにアノ二人が戻ってくるんだって?好都合だよ。ついでに消しとく。」
今度は俺が声を上げた。「なんで・・・なんでユウイチが俺だって・・・・」
聞いてみたら実に簡単な理由だった。
「はぁ?自分で言ってたじゃねぇか。渡部サンのコト義理の姉だって。そしたら川口の弟しか考えられないだろ?」
う・・・・・あ・・・・・でも・・・ならもっと前からわかってたはず・・・・・
センセイは続けた。
「最初はわかんなかったんだけどな。最近カイザー・・・風見の本名思い出してから色々考えたんだよ。
 そしたら以前遠藤ハメる時、川口に弟がいたコト思い出してね。こりゃ繋がりあるだろう、と。
 もっとも、渡部サンに本当に弟がいたのは計算外だったんだがな。」
ヒロフミさんがガタガタ震えてる。ああ、結構喋っちゃったんだな・・・
次の質問など考える暇もなく、とても嫌な嫌な宣告をされた。
「とりあえず、な。奴等が戻るまでココで待たせてもらう。世話んなるよ。よろしく。」
ケケケと笑い声を上げた。
それってつまり・・・ウチに居着くと?
俺がそう考えた瞬間だった。ヒロフミさんが逃げ出したのは。
倒れてた素早く身を起こし、ドアに吸い付いた。が、開かない。
センセイはご丁寧にカギを閉めてた。慌ててカギを開けようとするヒロフミさん・・・
焦ってるせいかうまくいかない。ようやくガチャンとカギが開いた。
・・・一瞬の出来事だった。

視界の外にいたセンセイが風のようにやってきた。

ゴキッ

何かが折れる鈍い音。
同時に「ぐぇぇ」と動物のような鳴き声が聞こえた。
それはとてもおかしな光景だった。
ヒロフミさんは外へ出ようとドアに向かって立っていた。
なのに顔だけはこっちを向いている。
逆さまになって。
センセイの左手はヒロフミさんの首根っこを捕らえ、右手には髪の毛をガッチリ掴んでる。
左手を話すと、身体がフラリと揺れて崩れた。
掴んでた髪がブチブチと抜け、ヒロフミさんの身体がバタンと倒れた。
仰向けになったヒロフミさん。目はカッと見開いていて俺と目があった。
俺は目を反らすことが出来ず、濁った目を見続けた。
何が起きたんだ?
突拍子もない出来事続きで思考回路が上手く回らなくなってた。
瞬きしてなかったので目が痛み、その痛みでようやくアタマが動いた。
そうだ。ヒロフミさんは逃げようとしてセンセイに首をへし折られたんだ。
ってコトは・・・・・死・・・・・・・・・・・
死んだ?
え?そんなあっけなく?
ヒロフミさん、殺された?
それを理解したとき、俺のマトモな神経はブッ飛んだ。
糸が切れたようにズルズルと倒れ込む。
うつぶせになってアタマを空にした。
ガチャンと再びカギを閉める音が聞こえる。
その次はセンセイの息づかいが異様にアタマに響いてた。
そして聞こえてくるおぞましい声。
「耐えきれなくなったか。まぁいい。これから奴等が来るまでの間、仲良くしようぜ・・・」
ケケケと笑い声。妙な笑い方だ。
意識が飛んだ。

目覚めるとヒロフミさんが目を開けたまま壁に立てかけられてた。
首が異様なほど横に曲がってこっちを見つめてる。目は開いたままだ。
身体にぶら下がったアタマが肩の上に置かれてる。
そんな感じだった。
どう見ても、死んでる。
死体。
ちょい前まで普通に話してたのに、もう話すことはできない。
俺はヨロヨロと立ち上がるとパソコンの電源を入れた。
居間に座り込んでるセンセイが「お、起きたのか」と声をかけてくれた。
「なんだパソコン2台あんのかよ。羨ましいネェ」
冷やかしてきた。
センセイはデスクトップの方に電源を入れて何かを始めた。
俺はこっちで日記を書いてる。
さっきのぞき込まれて「なんだ日記書いてんのか。俺のことあんま悪い風に書くんじゃないぞ。」って言われた。
今また声をかけられた。
「そのピッチとかネットとかで助けを求めてもいいんだぞ。ま、そしたら逃げるけどな!」
またケケケと笑ってる。
つーか俺、なんで日記書いてんだ。
つーかヒロフミさんこっち見てるし。死んでんのに。
つーか俺、怖くねぇのかよ。
何だよ俺。
意味わかんねぇよ。
兄貴はどうしたよ。





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