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 序章

<腐食編>

第1章 「深淵の蟲」
 第1週 跫音
 第2週 浸食
 第3週 激化
 第4週 天誅

第2章 「孤城の華」
 第5週 遺産
 第6週 歪曲
 第7週 崩壊
 第8週 散花

第3章 「背徳の咎」

 第9週 浮遊
 第10週 煮沸
 第11週 逆転
 第12週 断罪

第4章 「絶望の時」
 第13週 白紙
 第14週 泥濘
 第15週 絶望
 第16週 引導

<虚像編>

第5章 「電脳の渦」
 第17週 輪廻
 第18週 接近
 第19週 衝撃
 第20週 凶行

第6章 「悠久の闇」
 第21週 波紋
 第22週 追跡
 第23週 煽動
 第24週 漆黒

第7章 「虚空の塔」
 第25週 降臨
 第26週 劫火
 第27週 混沌
 第28週 淘汰

第8章 「希望の光」
 第29週 決戦
 第30週 呪縛
 第31週 絶叫
 第32週 昇天














第30週 「呪縛」

5月31日(月) 曇り

今日こそ「三木」君の正体を見極めてやる。そう意気込んで決戦の場へ行こうとしました。
面と向かって会う決意をしたのに。僕の正体をさらす覚悟でいたのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出れない。
親に止められました。「これ以上外をウロウロしないで・・・・」って。なんだよその言いぐさ。それじゃまるで・・・・
僕が外を歩くのは恥、みたいな言い方じゃないか。
釈然としないまま引き下がってしまいました。反抗してでも行くべきだったのかはわからない。
何故か反抗する気は起きませんでした。もしかしたら僕は心の何処かで安心してるのかもしれない。
「三木」君に会わないで済む、と。・・・・・そんなはずない。僕の方だって「三木」君の正体が知りたいのに。
じゃあなんで強引に行かないんだ。畜生!自分の心が分からないなんて!何なんだよこの感じ!
夜になってネットに繋ぐと「三木」君から「今日、ちゃんと来てましたか?」とメッセージが届いてます。
「ご免、行けなかったの・・・・・・。これからもちょっと無理っぽい。」・・・・・・他に返事の仕様はない。
「何故です?」・・・・・・・・答えられない。「三木」君の正体もわからないのに全て打ち明けるなんて出来ない。
会いたいのに行動が起こせない。答えたいのに言葉が出てこない。ワケガワカラナイ。
僕はどうなってしまったんだ。


6月1日(火) 晴れ

僕はおかしいんでしょうか。相変わらず親からはどこか達観したような目でみられる。
ネットに繋いでも変な気分が抜けない。「三木」君からのメッセージ。「昨日の質問に答えて下さい」
昨日の質問?何故会えないのかって?そんなの僕にだってわからないんだから答えられないよ。
「ねぇねぇそんな事よりチャットしようよぉ」突然チャットをしたくなってきました。
「わかりました。今はそれでいいですがいずれ答えて貰いますよ。」なんだ「三木」君もチャットしたかったんだ。
「渚」さんと「三木」君と楽しいチャット。「私達ずっと一緒だよね!」とsakky。「うん!」と渚さん。
「三木」君なんで黙ったままなんだよ。「三木」君どうしたの?「三木」君?「三木」君?「三木」君?三木
そういえば「三木」って何て読むんだろう。「三」は「さん」って読むし「木」は「き」と読む。「さん」は「さ」と省略
サキ?


6月2日(水) 晴れ

今日も「三木」君からのメッセージ。「まだ会えない理由は答えてくれませんか?」
サキ?早紀なのか?お前は死んだはずじゃないか。生きてるの?僕に会いたい家においでよ。
「家においでよ。私、待ってるよ。」早紀、お前のためにsakkyは生きてるんだ。いつでも戻っておいで。
「家にですか?僕は構いませんが・・・・・本当に行きますよ?」ほらやっぱり早紀だ。僕の家を知ってるモン。
「何時でもいいよ!待ってるから!」自分の家に帰ってくるのに時間なんか決める必要ないからね。
「わかりました。明日伺います。ちゃんと家の前に出て迎えて下さいね。」そんなに僕に迎えて欲しいのかい?
明日早紀に会える。早紀は生きてたんだね。あれ?じゃあ今は何処にいるんだろう?
「ねぇねぇ、今、何処にいるの?」今すぐにでも帰って来ればいいのに。・・・・・・・・・・・・・・「自分の家です。」
????


6月3日(木) 曇り

閉め切ったカーテンの端から外を眺めてました。早紀が帰ってくるのを待ってたんです。
早紀、自分の家に帰ってくるだけなんだから迎えは必要ないよね?帰って来たら僕がドアを開けてあげる。
ドアを開けると目の前には早紀が。感動の再会。ぼくはこれがしたいんだ。迎えに出たらこれはできません。
外を見てると色んな人が道を通ります。下校中の小学生。散歩中の老人。知らないお姉さん。若い男。・・・・

早紀は、帰って来ませんでした。夜になっても家をノックする音は聞こえてこない。どうしたの?
ふと、昨日の言葉が蘇ってきました。「何処にいるの?」「自分の家です。」ふふふ。こっそり帰ってたんだね。
僕は家中を探し回りました。1階のリビング、トイレ、風呂場、2階のトイレ、僕の部屋、早紀の部屋。
居ません。親が僕を見てる。「何してるの?」と聞いてきたので「早紀を捜してるの」と答えました。
親が哀しい目で見てます。何故?何故そんな目をするの?僕何かおかしい事してる?構わず探し続けました。
早紀、お母さんだって悲しんでるよ。早く出てきなよ。押入の中に、ノートパソコンが有りました。
見つけた!早紀、これを使ってたんだね。ふふふふふ隠れん坊をしたいのか。ようし頑張ってみつけるぞぉ。
待ってろぉ


6月4日(金) 晴れ

夜まで捜しても早紀が見つからない。参った。僕の負けだよ。早紀、降参するからでてきておくれ。
ネットに繋ぐと「三木」君からメッセージが溜まってました。「家の前に立っててくれました?」「返事して下さい」
「家の前には立たなかったよ。必要ないし。だって家の場所ちゃんと分かってるんでしょ?」当たり前だよね。
すぐに返事が。「なるほど。どうやら僕の正体は既に察してる様ですね。」早紀なんでしょ?早く姿を見せて。
「早く会いたいよぉ。」・・・・・・「そちらに会う気が有るのなら。僕は逃げませんよ。もう逃げないで下さいね。」
このメッセージを見た途端、頭の霧が晴れたように急に現実が見えてきました。「もう逃げないで下さいね」
逃げないで、この文字が目に焼き付く。僕はここ数日おかしかった。いや、今さっきまで確かに変だった。
何故僕はおかしくなったんだ?そして何故正気に戻った?「逃げないで」。僕は、逃げてた?
何から。僕は何から逃げてるんだ。・・・・そうだ。あの時からおかしくなったんだ。
正体をさらけ出す決心をした瞬間から。
これまでそんなことなかった。カイザー・ソゼと会うときは自分から正体を言うつもりなんかなかった。
僕がsakkyだとバレたのは予想外の事。でも今回は僕自身の意志で、sakkyの正体を明かすつもりだった。
現実から逃げてた。親に外出を止められたなんて言い訳だ。強引に外へ出るのは簡単だったのに。
僕は無意識の内に現実を見ることを否定してたのか。そして今、その事を指摘されてようやく認識できた。
何故現実から逃げてたんだろう。僕自身狂ってる事に気づいてなかったとか?そんな馬鹿な!
早紀と会わなければ。現実をしっかり見つめるんだ。そうだよ。早紀に、「三木」君に会えばはっきりするんだ。
もう、逃げない。


6月5日(土) 曇り

早紀がこんなに遠回りしてまで僕に接触しようとしてるには何か訳が理由があるとしか考えられない。
会えばわかる事です。僕は逃げない。現実をちゃんと肯定して0qdfxg0qdくちあt@4vst@え。q@;tqr:w
あああああまた変な気分になってきた。何故現実を見ようとするとおかしくなってしまうんだ。しっかりしろ!僕!
僕の現実。無意識に否定してしまうほど壊れているのか?僕は、狂ってるのか!?
会えない「三木」君。家にいると言う「三木」君。「三木」君は早紀。家には早紀はいない。最近おかしくなる僕。
ネットに繋ぐと現れるsakky。sakkyは僕。ネットでしか会ったこと無い「三木」君。僕。sakky。「三木」君。早紀。
混乱。僕は混乱してる。僕が僕じゃなくなるみたいな気分。僕が蒸発する。僕は僕じゃないのか。
何言ってるんだ!僕は僕だ!
虫と呼ばれて、奥田にいじめられて、奥田を恨んで、荒木さんが奥田を殺すのを目撃して、黙ってて、
杉崎先生に奥田のデジカメを受け取って、官能的な気分になって、早紀を好きになって、早紀を犯して、
また学校に行き始めて、渡部さんにいじめられて、荒木さんをいじめて、警察に行って、荒木さんが捕まって、
「希望の世界」を知って、トオルの存在を知って、殺そうとして、トオルが奥田だと分かって、絶望して、そして、
そして・・・認めるよ。僕は早紀を心中しようとした。でもできなかった。早紀だけ死んだ。そう、僕が殺したんだ!
早紀をネットで生かし続けるために、僕はsakkyになった。タケシさんと仲良くなって、杉崎先生だと分かって、
告白されて、「殺人依頼掲示板」を作って、杉崎先生が死んで、処刑人を捜して、「滅望の世界」を見つけて、
カイザー・ソゼと会って、逃げられて、NSCを知って、遠藤智久が真犯人だと分かって、罠にかけて、
カイザー・ソゼにネットでも逃げられて、anonymityが残って、「三木」君だと分かって、早紀だと気づいて、
この記憶、間違いない。僕は、岩本亮平だ!
早紀は生きてた。僕が殺そうとしたんだから会いづらいんだろう。早紀の存在、確かに感じる!そして僕は、
僕は岩本亮平。早紀の兄。誰に何と言われようとこの事実は変わらない!どうだ!僕は現実を認めたぞ!
狂ってる。そう言われても仕方のないような生き方をしてたかもしれない。でも僕はそれを自分で認めてる。
本当に狂ってるのは自分が狂ってる事に気づいてない事だ。僕は、わかってる。自分が普通の人とは違う事を。
僕は現実を受け入れました。


6月6日(日) 晴れ

ネットに繋ぐと既に「三木」君も居ました。すぐにメッセージが届きました。「最近繋いでなかったですね。」
「ちょっと心の準備をね。もう大丈夫。今日はじっくり話をしよう。」今日こそ早紀と話をつける。
「ようやくその気になってくれたんですね。」そうだよ早紀。僕はもう逃げないから安心して。
「さて、何から話す?僕には聞きたいことたくさんあるんだけど。」・・・・・「やっと『僕』と言ってくれましたね」
ああ早紀、やっぱりわかってたんだね。そっちももう敬語なんて使う必要ないよ。
「僕は自分を認める。だからサキも素直になってよ。」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「何を言ってるんですか?」
何って・・・・・「早く自分に正直になってよ!話を進めようよ!僕は早く会いたいんだ!」・・・・・・「え????」
どうしたんだよ早紀。「そっちこそ何言ってるんだよサキ早く会いたい僕はお前の為に僕は好きなんだよ僕僕」
自分でも動揺してるのが分かる。まともな文章が書けない。「僕はサキじゃありません!読み方が違います!」
違うの?早紀じゃないの?僕は間違ってたの?僕は間違ってたの?僕は間違ってたの?「じゃあ誰なの?」
「虫!」メッセージを開いた途端、僕は頭が真っ白になりました。メッセージは続きます。「虫なんでしょ!?」
「なんでその呼び方を知ってるの?」他に何も考えられないまま返事を書きました。何がなんだかわからない。
「やっぱり虫なのね!私は渡部。渡部美希よ!」
渡部さん。渡部美希、美希、ミキ、三木。名前をわざと誤変換してハンドルネームにする。王道じゃないか。
「なんで渡部さんなんだよぅ」このメッセージを打つのが精一杯でした。僕にはこれ以上力が入らない。
日記を書いてる今も手が痺れてきてる。呪縛状態。考える事も、キーボードも打つ事も許されてないみたいだ。
僕、震えてる・・・・・。



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